人類は古来より、生物が有する形態や構造、それによって発現される機能を模倣してものづくりを行ってきた。ルネサンス期に、イタリアのレオナルド・ダ・ヴィンチが鳥の飛翔の精緻な観察を通じて飛行機械を設計した話は特に有名である。18世紀初頭には、フランス人技師のブルネルが造船所で働いている時、フナクイムシが口から出した分泌液で後方の壁を固めながら木に穴を掘り進んでいる様子から着想を得て、シールド工法が開発された。また、1940年代には、アメリカの木材伐採者であるジョセフ・コックスにより、カミキリムシの幼虫が顎を交互に動かしながら固い木材をかみ砕いている様子から、刃が左右交互に配置されたソーチェーンが開発された。このように、生物の観察や分析から得た着想をものづくりに活かす科学技術を「バイオミメティクス(生物模倣)」と呼ぶ。
バイオミメティクスは製品開発に変革をもたらす
他方で、現代においては顧客ニーズの変化や技術革新のスピードが向上しており、製品の陳腐化が早まることで、製品ライフサイクルは短命化の一途をたどっている。経済産業省の調査では、主力事業の主力製品が売れている期間を製品ライフサイクルと定義した場合、電気機械や輸送用機械の事業者の約半数が「製品ライフサイクルは5年以内である」と回答している。また、化学工業においても、事業者の約3割が「10年前よりも製品ライフサイクルは短くなっている」と回答している。こうした中、長い進化と自然淘汰の歴史の中で獲得・検証された生物の機能や効果を製品開発に活かすことで、開発期間の短縮を図る企業が現れている。
実際にシャープでは、バイオミメティクスの活用により製品の試作回数を減らすことで、開発期間の短縮を実現している。同社はバイオミメティクスを活用した最初の製品を2008年に開発して以降、2018年1月末までに28製品を世に送りだした。平均すると約3カ月に1製品という開発ペースである。特にエアコン室外機の省エネ化に関しては、従来の研究開発手法では3年間で1%の改善さえ達成できなかったところ、アホウドリの翼の形状をプロペラファンに適用することで、20%もの消費電力の削減を1回の試作で実現している。
本コラムでは、生物が38億年かけて蓄積した知見を活かしてイノベーションを起こす「バイオミメティクス」を活用する際のポイントを紹介する。
実際にシャープでは、バイオミメティクスの活用により製品の試作回数を減らすことで、開発期間の短縮を実現している。同社はバイオミメティクスを活用した最初の製品を2008年に開発して以降、2018年1月末までに28製品を世に送りだした。平均すると約3カ月に1製品という開発ペースである。特にエアコン室外機の省エネ化に関しては、従来の研究開発手法では3年間で1%の改善さえ達成できなかったところ、アホウドリの翼の形状をプロペラファンに適用することで、20%もの消費電力の削減を1回の試作で実現している。
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