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企業危機管理2020:コロナ禍の中で

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2020.5.18

経営イノベーション本部佐藤 洋

経営戦略とイノベーション

繰り返される危機と備え

危機(crisis)は、ギリシャ語の「決定、選別」、ラテン語の「転換点、転機」を語源に持つと言われるが、危険と好機の両面を併せ持つという解釈は、松下幸之助や英首相チャーチルの遺した言葉にも見られる。本稿を、今回のコロナ禍を転機とした、企業の危機管理向上への指針を示す小論としたい。

2011年に起きた東日本大震災も今回のコロナ禍も100年に1回レベルの危機であることは論を待たないであろう。ここでまず指摘しておきたいのは、10-2~10-3/年というレベル感は、リスク論の世界では(分野によるものの総じて)決して小さい頻度ではない。むしろ頻度の大きい危機として、十分に対応を検討すべきレベルである。したがって、約100年前の三陸大津波やスペイン風邪の事例を引き、過去から得た教訓を活かすことを説くことが常道であろう。しかし現実には、人は過去を忘れるし、忘れなければ生きていけないのかもしれない。畑村※1は「昔津波が来た、この崖から下に家を建てるな。」と刻まれた三陸沿岸の石碑の下に家が写っている写真を示し、嘆いていた。またスペイン風邪以降に防疫の概念がヨーロッパの一般生活に浸透したとは聞かない。

いずれにしても、100年(約3~4世代)という時間は、人類の警戒心を緩めるのに十分な時間ということであろう。しかし、永続性が前提である企業の担当者にとっては、教訓は活かされなければならない。コロナ禍については、実はかなり正確に予見されていたと言ってよい。図1は新型インフルエンザ等が発生した場合の発症者数と出勤人数(業務量)の時系列イメージを示したものである。2カ月程度の緊急事態宣言や以後に感染者数増減の波が繰り返される可能性はかなり以前から認識されていた。企業危機管理において重要な点は、こうした時系列シナリオイメージを持って対応を考えておくことである。ウイルスの性質に関する知見や、発出される宣言等がどのような内容なのかといったことは臨機に対応すべき事柄であり、事前に想定することはナンセンスである。地震や津波に関してもシナリオを描くための情報は十分にあり、先ほど述べた10-2~10-3/年というレベル感と現実を考慮すれば、企業が考えるべきことは自ずと決まるであろう。
図1 新型インフルエンザ等発生時の時系列イメージ
図1 新型インフルエンザ等発生時の時系列イメージ
出所:新型インフルエンザ等対策ガイドライン※2を基に三菱総合研究所作成

コロナ禍を踏まえた企業危機管理策

コロナ禍の企業危機管理策について述べてみたい。マスクや消毒薬の常備、非接触の推進、スプリットチームの準備、テレワークへの対応、感染発覚時の対応フロー整備等は、危機管理における基本的な取り組みとして広まることになるだろう。これは、何はともあれ地震に備えてヘルメットや非常食を準備していることに相当する。

一方、早くからマスク着用を徹底した小売業やオフィスを閉鎖してテレワーク対応した企業は危機管理ができていると評価され、遅かった企業はできていない、と批判される傾向がある。これは業種にもよるところであり、一概に判断すべきではないだろう。とにかく早々にビジネスを縮小することを目指してマニュアルを改定するといった方策はお勧めできない。

多くの企業の本音で言えば、他業界や同業の他企業に後れを取らないこと、できれば社名が大きく報道されるような第1号患者(第2波を海外から持ち込む場合も含む)を出さないこと等が目標感となるだろうが、実体としてもこれを目標とすることが正解に近いと思われる。なぜなら、国もしくはグローバルでの危機に際して、企業が独自に判断できることは限られており、その限界を知り対応していくことには妥当性があるからだ。また、レピュテーションといった別の意味での危機管理策にもなる。

より本質的な話としては、企業として生き延びるために内部留保を厚くする、ROE経営からの脱却といった意見もあるが、これらはコロナ禍への対応だけで議論できる事柄でもないし、それだけで決めるべきものでもないだろう。

サプライチェーンの見直しや拠点の考え方への変化に対する論考も出始めている。混乱した国からの引き上げといった動きが数年程度は見られるだろうが、長期的には、グローバル化や国際分業が止まることはないだろう。戦争を含む危機時に新しい技術(オンライン会議等)が汎用化し、社会に変化をもたらすことはあっても、効率性や合理性に基づかないものは長続きするものではない。ここで重要なのは、国家的、地球的規模での効率性を述べているのはなく、1社、もしくはある地域にとっての効率性ということである。コロナ対策は万全でも、高くつく商品では他社に負けることになる。東日本大震災の後に、点在する小さな港を集約しようとしたがうまく行かなかったことも、その一例と言えよう。

これから意識すべき3つの危機類型

表1 3つの危機類型
表1 3つの危機類型
出所:三菱総合研究所
組織における危機の類型化にはさまざまな考え方があるが、その一つとして、3つの類型化(もちろん、これらが複合した危機もあり得る)を提示したい(表1)。

自分たちに責任はないが、外部の敵によって危機がもたらされるものを「外敵襲来型危機」と名付けた。本稿で取り上げた地震・津波やパンデミックが代表的な例である。基本的には事前準備(BCPを含む経営としての覚悟)をどれだけ行っていたかが組織の未来を決める。

同時に、その危機における「超想定事態」というものも定義した。危機管理に想定外はない、というのが基本原則ではあるが、そうはいっても想定を超える事態はやはりある。「外敵襲来型危機」の場合、今回のコロナ禍はすでに一組織ではどうにもならず、政府や都道府県主導となっているため、従うしかない。東日本大震災を経験し2020年を迎えた今、事前準備は大事ではあるものの、「超想定事態」が発生した際には、臨機対応で判断していく経営力が危機管理に求められることを認識すべきであろう。

他方、「内部崩壊型危機」では、原因究明と対策立案というセオリーを組織総動員で実施することが基本的な対応である。また、「レピュテーション型危機」も重視すべき類型である。現在の世界では、いつ遭遇するかもしれない危機であり、その対応力は企業浮沈の鍵を握っているとも言えよう。これらについては、また別稿で紹介したい。

※1:畑村洋太郎『失敗学のすすめ』(講談社,2000年)

※2:新型インフルエンザ等及び鳥インフルエンザ等に関する関係省庁対策会議 「新型インフルエンザ等対策ガイドライン」(2018年6月21日)

※3:佐藤洋「日本における危機管理システムの動向とクライシスアセスメント手法」『安全工学』Vol.43, No.5(2004)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/43/5/43_290/_pdf/-char/ja
(閲覧日:2020年5月15日)

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