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ポストコロナの経営 小売り:顧客価値を集客の武器に(ショッピングセンターの場合)

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2020.7.8

経営イノベーション本部森島広章

経営戦略とイノベーション

ポストコロナ対策は短中期にわたる

ショッピングセンター(SC)を新型コロナウイルス感染症が拡大する前の状態に戻すことはできるだろうか。答えは「NO」である。厳密にいえば完全には元の姿には戻れない。まず、新しい生活様式への対応により、従来のサービスモデルからの転換を余儀なくされる。そして新型コロナウイルスの影響は、足元の行動様式変化にとどまらず、長期的な社会の在り方にまで及ぶため、SCはさらに新たな変化を求められることになるだろう。

本稿ではSC業界がこれから数年かけて取り組んでいく対策について、既に顕在化している課題をふまえた短期的な視点と、今後の社会構造変化を見据えた中期的な視点に分けて論じていきたい。

足元で取り組むべき三つのアプローチ

SCの再稼働にあたって、少なくとも顧客、従業員、搬入業者などの安全・安心を確保することは必須である。換気の強化、消毒薬設置やスタッフのマスク着用など、これらの対応だけでも負担は大きいにも関わらず、売上高の回復も図らなければならない。しかも、「いずれもなるべく早急に」だ。そこで提案したいのは、安全・安心対策を起点としながら集客と売り上げにつながる「顧客価値」を高めていく三つのアプローチである(図1)。
図1 三つのアプローチ
図1 三つのアプローチ
出所:三菱総合研究所
最初に取り組むべきアプローチは「可視化」である。すでにさまざまな店舗・施設で見受けられる「混雑状況のお知らせ」はそれにあたる。小店舗では混雑時間帯の提示などでも十分だが、SCにおいては、日別、時間帯別、テナント別などさまざまな切り口で案内することにより、顧客は安全な場所・タイミングを見計らって行動することができる。簡単なお知らせから始まるかもしれないが、いずれはリアルタイムな情報共有を目指すべきである。また、従来はテナントで把握していれば十分だった情報も、顧客に共有することで役立つことは多い。「在庫状況の共有」も取り組みやすく効果的だ。目的の商品在庫が無いと分かっていれば、余計な館内移動も減り、人が行き交うリスクも軽減できる。

第二のアプローチは「短縮化」。今まであまり気にもとめなかった、実は「不要な」行為や時間を削減する取り組みだ。フードコートやイベント施設の「待ち行列」などが、それにあたる。解消するには予約システムなどの活用が想定される。もう一つ代表的な事例は、決済プロセス短縮化による接触行為の回避だ。キャッシュレス決済の導入は以前から推進されてきたが、新型コロナを機に、「顧客と従業員の非接触」という新たな価値が認識される結果となった。さらに施設内の在庫可視化・予約・決済が連携すれば、クリック&コレクトのような仕組みを提供することが可能になる。施設内にいながらスマホを駆使して、遠隔で、既に購入が決まっている商品の在庫確認から決済処理を行えば、テナントには商品を受け取りに行くだけとなる。

そして第三のアプローチは「最適化」。これまで蓄積されてきたデータをもとに、顧客とWin-Winの関係を築く取り組みである。例えば、「可視化」や「短縮化」でも緩和されない混雑が生じるのであれば、それを予測して別の日時や別のエリアへの来店を促すためのインセンティブ(ポイント付与やタイムセールなど)を顧客に提示することが考えられる。そうすれば、顧客もポジティブに誘導に従うであろう。また、顧客が保有する端末、例えばスマホと連携できれば、館内移動ルート予測とプッシュ通知を活用したセレンディピティ醸成(通過予定店舗からのレコメンドなど)や買い忘れ防止といった、顧客・テナント双方にとってメリットのある仕組みも実現することもできる。さらに、より高度な決済手段などを提供することにより店舗無人化が実現すれば、24時間営業における来店タイミングの個人最適化も、運営の選択肢に入ってくる。

こうした取り組みの高度化により、ステークホルダーの安全・安心が確保されるほど、顧客価値が高まっていく点にお気づきであろうか。SCに限らず、従来のビジネスモデルではなるべくたくさんの時間、長く歩いてもらうことが売上単価を上げる基本戦略であったが、コロナと共存する時代においては、いたずらに長時間回遊してもらうことはリスクとなる。ポストコロナをターゲットに、多くの事業者がその対策を模索し始めるはずである。

しかし、各事業者が独自に対策を講じた場合、SCでは何が起こるであろうか。事業者ごとにバラバラに対策を講じられることで、その集積体であるSCではかえって混乱が増して顧客価値の低下を引き起こす。各テナントの対策を有機的に束ねた価値を提供しなければ、顧客のSC離れを招きかねない。各テナントの局所的な対策を超えて、SC全体としての安全な滞在時間、最適ルート、最適時間配分を提供することで、最大級の安心・消費機会・買い物体験を提供してくことが、新たなSCの基本戦略になると認識すべきであろう。

コロナエフェクトがもたらす四つの将来シナリオ

繰り返しとなるが、コロナエフェクトは足元の生活様式にとどまらず、社会的構造にまで変化をもたらす。ここからは中期的な視点で、SC業界に大きな影響を及ぼす社会変化の可能性を「脅威」と「機会」の両面から触れておきたい。

まずSCにとって「脅威」となるのは、今回のコロナ禍でさまざまなサービス業が取り組んできたオンラインショッピングへの偏重がそのまま継続することだ。その影響は将来のキーテナント選定にとどまらず、SCの存在意義そのものを問い直すだろう。その一方で、一部のSCにとっては「機会」ともなる社会構造変化が生じるかもしれない。従前のまま進めば「都市の一極集中」は免れない未来が訪れたはずだ。しかし、コロナ禍がもたらした価値観は「都市分散化」の可能性を示している。この変化は今後の商圏の在り方や流通小売業のターゲティング戦略に大きく影響する因子である。

この「脅威」と「機会」が交錯することで生まれる四つのシナリオをひもとくことで、将来のSC業界に訪れる課題と対策を想定することができる(図2)。
図2 四つの将来シナリオ
図2 四つの将来シナリオ
出所:三菱総合研究所
一つめのシナリオは「地域観光のアンカースポット」。オンラインショッピングへの偏重が進み、都市一極集中にも歯止めが利かない、SC業界にとって最も厳しいシナリオである。地方のSCは商圏を広げないといけない上に、一般的な買い物では得られない商材・テナントが必要となる。対応の方向性としてSCはホテルなどとも連携しながら地域を代表するリゾートエンターテインメント施設となり、観光の目玉スポットとして地域集客に貢献するなどの変革が求められる。

二つめは「地産地消のよろず市場」となるシナリオである。物流の影響などにより現地でしか買えない商品・消費へのニーズは高いため、SCは旅行者が「ここに来れば地域の買い物や飲食が体験できる」というリテールテインメント施設へと強化されていく。

三つめは「小都市を支える大商店街」としてのシナリオ。都市分散化が進みリアル店舗による買い物の価値と共存するシナリオである。このケースにおいては、リアルとデジタルの融合に取り組みながら、地域住民の使い勝手・ロイヤルティーアップに注力してくべきである。

最後のシナリオは「地域のギャザリングプレイス」である。地域にはターゲットとなりうる消費者が存在する一方、一般的な買い物はオンラインショッピングが占有しており従来テナントだけで立ちゆくのは厳しい。SCは地域住民に対するリアルプレイスの価値提供先として機能・役割を果たす。例えば従来はテナント中心に設計していたスペースを消費者起点とするビジネスモデル(テレワークブースやオンライン娯楽スペースなど)への転換や、テナントのブランド体験施設としての機能を強化することなどが想定される。

これら四つのシナリオはいずれも不確実なものである。コロナエフェクトが社会をどのように導くかは現時点で誰にもわからない。だが、その起こりうる可能性を棚卸し、仮説のもとに従前からデータを蓄積して、世の中の潮目を探ることで新たな「顧客価値」に備えることはできる。本稿で示した指針が新型コロナウイルスに負けないレジリエントなSC構築に向けた一助となれば幸いである。

※本稿は一般社団法人日本ショッピングセンター協会「SC JAPAN TODAY」(2020年7・8月合併号)への寄稿「新型コロナウイルス対応から生まれる『顧客価値』を集客の武器に」を再編集したものです。

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