コラム

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コロナ禍は社会をGreen Normalへ導くチャンス

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2020.9.15

環境・エネルギー事業本部白井優美

環境・エネルギートピックス

Green Recovery提唱から生活者のGreen Normal実現へ

国際エネルギー機関(IEA)は2020年4月30日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、2020年の世界CO2年間排出量は約8%減という記録的な削減になるとの見通しを発表した※1。ただし、これは新型コロナによる外出制限・自粛の影響を受けた、電力需要の大幅減少によるものである。制限が解除され経済が回復するにつれ、CO2排出量も元通りになる可能性がある。

欧州では新型コロナウイルス感染症収束後の経済復興にあたり、気候変動対策を中心に据えるべきだという「Green Recovery」の動きが高まっている※2。日本国内でも6月、気候変動対策に積極的に取り組む企業・自治体・NGOなどで構成する「気候変動イニシアティブ(JCI)」との意見交換会において、小泉環境相が脱炭素社会に向けて環境と調和した経済復興「緑の回復」が重要との認識を示している※3。「緑の回復」を実現するためには単なる宣言にとどまらず、実際に経済復興を担う生活者個人を巻き込んだより大きな潮流にしていく必要がある。

すなわち、こうしたトップダウンの情報発信に加えて、生活者の行動変容が必要と考える。 「ニューノーマル」という言葉をよく耳にするようになったが、日々当たり前のようにサステナビリティに配慮しながら生活を送ることを「Green Normal」と呼びたい。Green Normalになれば、商品・サービスの購買や行政に対する投票や市民参加において、サステナブルかどうかという基準で行動するように生活者の意識も変化する。Green Normalが市民権を得ることで、企業・行政においても一層「Green」の価値基準に沿った行動が促され、社会全体を緑の回復に導くことが期待される。

コロナ禍を契機とした環境意識の芽生えは「2割」

Green Normalの兆しはすでにある一方で、大部分の人の意識はまだ変わっていない。
それは、コロナ禍による電力消費に関する意識変化から見て取れる。当社は7月に全国20~79歳の男女5,000人を対象にアンケート※4を実施した。コロナ禍により電気の使用量が「増えた」と回答した人は全体の約半分であるが、このうち2割近くの人が今後の電力消費において「環境に配慮したい」という意識が高まったと答えており、また「住宅用太陽光発電に対する興味が高まった」人も2割以上を占めた。環境意識を高めた理由としては、自宅で過ごす時間が増えたことで自らの生活を見つめ直す機会が増えたことが挙げられる。加えて、大気汚染や水質汚濁が改善されたとの報告も世界各地であることから、われわれ人類が普段いかに環境に負荷をかけて生活していたかを認識したこと※5も要因として数えられるかもしれない。

一方で、電力消費が増えた人々のうち8割は、今後の電力消費において「環境に配慮したい」を挙げなかった。住宅用太陽光発電についても8割が「興味は変わらない」と回答している。コロナ禍がもたらす生活様式の変化が一部の生活者にとって環境意識を高める契機となっている一方で、全体としてみれば価値観が刷新されるほどまでには至っていないのが現実だ。
図 新型コロナウイルスの感染拡大を受けた電力消費に対する意識について
図 新型コロナウイルスの感染拡大を受けた電力消費に対する意識について
出所:三菱総合研究所「生活者市場予測システム(mif)」ポストコロナ研究(長期)アンケート調査をもとに作成

生活者をGreen Normalに促す「つい」欲しくなるモノ・サービス

環境意識の高まりを実態ある行動変容に結びつけながら、環境意識の高まっていない人も巻き込むにはどうしたらよいだろうか。行動が変わり定着するためには、行動に対する意義や行動自体の楽しさを感じさせることが大切である。

コロナ禍の緊急事態宣言下では、「#stayhome」や「#おうち時間」といったSNSのタグが拡散され、感染拡大を防ぐための声がけや、外出自粛中に家で楽しく過ごすための工夫が同時多発的に共有された。サステナビリティについても、皆で工夫をしながら、一緒に環境に貢献していると実感できる仕組みが求められる。同時に、行動自体を「つい、してしまう」くらいにまでシンプルな仕組みにすることも必要だ。

前出のアンケート結果で示した住宅太陽光発電への興味が高まった人が、いきなり自分で太陽光パネルを検討し調達するのはハードルが高い。そうした中で、例えば東京都が進めている再生可能エネルギー電力の共同購入スキーム※6は示唆に富む。これは再生可能エネルギー電力の購入希望者を募り、都民に対してクリーンな電力を選択できる機会を提供するとともに、一定量の需要をまとめることで価格低減を実現するというものだ。このような仕組みがあれば気軽に参加ができるし、供給側、スキームを提供する都側、そしてそれらに参加する需要家側がサステナビリティに対してある種共通の意識をもって取り組むことで、単純な「消費」ではなく、新たなムーブメントにつながっていくことも期待される。「Green」へのハードルを低くし、周囲の住民とつながりを感じさせるなど「つい」やってみたくなる仕組みをつくることは、新たなビジネスチャンスでもある。

気候変動は直ちに健康や命に関わるわけではないと思われがちだが、すでに世界各地で台風、熱波、干ばつ、洪水などの異常気象は頻度を増しつつあり、甚大な人的・経済的被害をもたらしている。さらに、気温上昇による熱中症の増加や、気温や雨量などが変化することによる感染症拡大を引き起こすリスクもある※7。コロナ禍での緊急事態宣言が生活者に大きな行動変容をもたらし今もその影響が継続していることを考えると、生活者各自がある程度地球環境への危機意識をもち、「Green」な行動を容易に選択できる状況にあれば、気候変動という課題の解決に対しても十分実効性があると考える。そのために、生活者を「Green Normal」に促す魅力的な選択肢を提供することが、政府や自治体の政策や研究・技術開発、民間企業の商品・サービスには一層求められる。

三菱総合研究所では、ポストコロナで目指すべき社会を 「持続可能でレジリエントな社会」と位置付けて提言している
こうした社会像の重要なテーマである地球環境保全についても、国・事業者・生活者などさまざまな視点で分析を深め、「Green Normal」な社会づくりに貢献していきたい。

※1:IEA
https://www.iea.org/news/global-energy-demand-to-plunge-this-year-as-a-result-of-the-biggest-shock-since-the-second-world-war(閲覧日:2020年8月26日)

※2:欧州連合(EU)各国環境大臣は「欧州グリーンディールが新型コロナ以降の経済復興の中心になるべき」と提言(2020年4月9日)。
https://www.climatechangenews.com/2020/04/09/european-green-deal-must-central-resilient-recovery-covid-19/(閲覧日:2020年8月26日)
欧州議会(EC)の環境・公衆衛生委員会委員長であるパスカル・カンファン議員の呼びかけでEuropean Green Recovery Allianceが結成された(2020年4月14日)。
https://www.euractiv.com/section/energy-environment/news/green-recovery-alliance-launched-in-european-parliament/(閲覧日:2020年8月26日)

※3:環境省、気候変動イニシアティブ(JCI)と小泉環境大臣との意見交換会・議事概要
https://www.env.go.jp/press/108087/20200610_gijigaiyou.pdf(閲覧日:2020年8月26日)

※4:生活者市場予測システム生活者5,000人対象のアンケートパネル。20歳から79歳までの5,000人のサンプルからなる生活定点調査である。
調査地域:全国47都道府県
調査対象:20~69歳の男女インターネット利用者(性・年代別・地域別インターネット利用人口の構成比に合わせて割り付け)
有効サンプル数:5,000
調査方法:Web調査
調査時期:7月13日~15日

※5:朝日新聞Globe+「水が澄み、山が見えた 新型コロナで『環境は自分の手で改善できる』を学んだ私たち」
https://globe.asahi.com/article/13609035(閲覧日:2020年8月26日)

※6:東京都環境局「『みんなでいっしょに自然の電気』キャンペーン」(2020年7月28日)
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/climate/renewable_energy/saienegroupkonyu.html(閲覧日:2020年8月6日)

※7:環境省「地球温暖化の感染症に係る影響に関する懇談会 地球温暖化と感染症 いま、何がわかっているのか?」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/pamph_infection/full.pdf(閲覧日:2020年8月24日)