コラム

カーボンニュートラル時代の原子力エネルギー・サステナビリティ・食農

廃止措置プラントのリスク管理

「グレーデッドアプローチ」導入に向けて
福島第一原子力発電所事故後の原子力

タグから探す

2020.12.23

セーフティ&インダストリー本部小野寺将規

カーボンニュートラル時代の原子力

廃止措置が持つリスク

原子力の利用においては安全が何よりも優先される。原子炉を解体・撤去する廃止措置においても、安全確保が必要だ。特に、公衆に対する放射線安全の観点から、原子力特有といえる放射線の被ばくリスク※1は早期に低減することが望ましい。安全を最優先に、確実で迅速な作業が求められる。

廃止措置プラント※2は、廃炉作業の初期段階で原子炉から使用済燃料を取り出す。炉心損傷や炉心溶融といった重大事故は原子炉内の燃料を起点としているため、燃料のない※3廃止措置プラントからは、こうした重大事故に伴う放射性物質の環境放出は発生しないと考えてよく、運転中のプラントに比べ、被ばくリスクは低下しているといえる(図)。

しかし、廃止措置プラントといえども、被ばくのリスクはゼロではない。例えば、プラント運転中に汚染したプラント構造物を解体した後、そのがれきなどに付着した微量の放射性物質の環境中への放出である。また、作業従事者にとっても、汚染された機器類の解体作業を通じた被ばくリスクへの対処が必要である。運転中プラントに比べてリスクは低いものの、廃止措置プラント特有のリスクが存在する。
図 プラント閉鎖後のリスクの変位(イメージ)
図 プラント閉鎖後のリスクの変位(イメージ)
出所:"IAEA, Safety Reports Series No. 77 Safety Assessment for Decommissioning, Annex I, Part A Safety Assessment for Decommissioning of a Nuclear Power Plant"を基に三菱総合研究所作成

安全規制の現状

廃止措置プラントは、運転中プラントとは内在するリスクが異なる。そのため、廃止措置プラントの安全規制は、リスクに見合った管理が可能な規制となっていることが望ましい。

しかし、現状の廃止措置プラントにおいては、運転中プラントと同等の規制が適用されている部分が多い。例えば、性能維持施設と呼ばれる設備は運転中から継続的に利用する設備であるため、廃止措置期間中においても運転中と同じ水準での設備の維持管理が求められている。

つまり、廃止措置作業を担う事業者には、リスクの異なる運転中プラントと同等の規制対応が求められているのである。規制機関側も従前通りの規制・監督対応が必要となる。

あるべき安全規制「グレーデッドアプローチ」

安全性を合理的に確保しつつ迅速に廃止措置を進めるため、リスク情報の活用を進めていきたい。進め方としては、運転中プラントから廃止措置プラントへの移行、および廃止措置作業の進展に応じて変化するリスクを認識・分類するのが最初のステップだ。そして、分類したリスクに応じた最適な安全対策を講じていく。この考え方を「グレーデッドアプローチ」といい、原子力分野でも本格的に導入を進めるべきだ。

洗い出したリスクを正しく評価し、その評価結果に基づいて、運転中プラントと廃止措置プラントの差を明確化することも重要である。事業者と規制機関との間でリスクに関わる情報交換もこれまで以上に進めていくべきであろう。

グレーデッドアプローチ適用に向けたポイント

グレーデッドアプローチを適用することで、どのように安全性が向上するのか、具体的な例とともにポイントを示したい。

まずは、運転中から継続的に維持管理される設備などの、いわゆるプラント運転を前提にした厳格な品質マネジメントや過度な保全活動の見直しが挙げられる。燃料が抜き取られ、敷地外への搬出が完了した廃止措置プラントでは、すでに必要のないこれらの活動に対してグレーデッドアプローチを適用すると、リスクを適切に評価した上で過剰と判断されるリソース※4を削減することができる。その分を廃止措置で相対的にリスクの大きい対策、例としては、環境中への放射性物質の放出懸念を払しょくするための追加的な閉じ込め対策や、安全管理および環境モニタリングの強化などに割り当てることができる。

同様に、被ばくリスクのより小さな工法の構築といった技術・研究開発のリソースを手厚くすることも可能である。

このようにグレーデッドアプローチを導入することで、適切なリスク管理のもと、被ばくリスクのより大きな作業にリソースを適切に配分することが可能となる。ひいては、廃止措置事業全体の安全性を高めることにもつながる。

また、こうした対応の積み重ねにより廃止措置工程を合理化できれば、迅速に廃止措置を完了させることも見込める。廃止措置が迅速に完了することは、リスクが早期に除去されることでもある。
三菱総合研究所は原子力施設のリスク評価や技術開発といった技術的な知見を日々集積し、安全規制の制度も把握した上で、原子力安全の向上に資する取り組みを行っている。廃止措置が本格化する5~10年後を見据えて、本稿で示した廃止措置プラントに適した規制適用などの支援を通して、より安全な廃止措置の実現に引き続き貢献していきたい。

※1:本コラムは廃止措置を取り扱っているため、ここでの「リスク」とは、被ばくや放射性物質放出に伴う環境汚染のリスクを指す。

※2:運転・操業が終了し、最終的には跡地を有効利用できる状態にする廃止措置計画が認可された原子力プラントのこと。

※3:厳密には、炉心から取り出された使用済燃料は燃料プール等に移送・別途管理され、敷地外への搬出は再処理工場などへの移送が可能になった段階で実施される。

※4:ここでの「リソース」とは、安全を確保するために対応する「人的リソース」に加え、安全確保のために講じる安全設備等の「モノ」、安全確保のための各種対策に係るコスト等の「カネ」の3つの観点を含む。