コラム

3Xによる行動変容の未来2030デジタルトランスフォーメーション

3Xがドライブする生活シーン 第3回:新しい行動への「気づき」を与える進化系「リコメンド」

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2021.11.24

先進技術センター森崎千雅

3Xによる行動変容の未来2030

POINT

  • 行動変容のためには、進化したリコメンドサービス(提案型サービス)が必要。
  • 実はやりたいと思っていたこと、思いもつかなかったが今の自分に最適な行動など、潜在的な需要への「気づき」をDX技術の活用が促す。
  • リコメンドの内容を、プッシュ型の通知ではなくAIとの会話等を通して効果的に「伝える」CX技術の活用。
3Xがドライブする生活シーン 第1回では、ライフスタイルのアップデートに繋がる移動や日常生活行動圏の時空間を有効活用するサービスのアイデア・可能性について紹介しました。また、そのようなサービスの実現にあたっては、デジタルテクノロジー(DX技術)やコミュニケーションテクロノジー(CX技術)が重要になることを述べました。また、第2回では「社会的孤立」の課題を取り上げ、時間・空間を他者と共有するサービスについて述べました。

今回は、旅行や趣味といった「余暇・レクリエーション」分野に着目し、サービスの具体像や、DX技術やCX技術を活用する上でのポイントなどを述べます。

潜在的な需要そのものを呼び起こすサービスが必要

現在も、余暇・レクリエーション分野で、時空間を有効活用するためのサービスは存在します。

例えば、旅行を取り上げると、「時間」という点では最短となる移動時間や経路を調べるための路線検索アプリやナビゲーションアプリ、「空間」という点ではホテルやレストラン、テーマパークの事前予約アプリ、それらの感想・評価を共有するアプリといったサービスがあります。近年では、複数の交通機関やアクティビティをまとめて検索・予約し、チケットの決済まで1つのアプリで行えるといった、利便性の高いサービスも普及してきています。

ただしこれらのサービスは、「××に旅行したい」という、そもそもの需要が明確になってから、さらに言えば「××に行って、〇〇したい」といった具体的な目的や行いたいアクティビティが明確になってからが主な利用シーンとなります。

消費行動における心理プロセスを示すものとして、「AISASの法則」があります。これは、Attention(認知)→Interest(関心)→Search(検索)→Action(行動)→Share(共有)の各プロセスの頭文字を取ったものです。前述の路線検索や事前予約、感想・評価といったサービスは、主に後半の「Search→Action→Share」のプロセスを効率化するものとなっています。

今後は「Attention→Interest」のプロセス、つまり「××に旅行したい」という需要が明確になっていない段階から、「××に旅行すれば〇〇ができる」と知らせ、「××に旅行して、〇〇したい」という関心を呼び起こすサービスが必要になります。
図1 「AISASの法則」と照らし合わせた、時空間を有効活用するサービスの活用シーン
「AISASの法則」と照らし合わせた、時空間を有効活用するサービスの活用シーン
出所:三菱総合研究所

「リコメンド」と「気づき」

具体的にどういったサービスなのか考えてみましょう。

神奈川県在住のある男性。会社員で東京都内にオフィスがあります。アウトドアが好きで昔は登山をしていましたが、最近は少し運動不足で、登山をするには体力面で不安があります。テレワークとなり通勤がなくなった分(しかも神奈川県の海沿いなので比較的長時間の通勤でした)、朝や夕方に時間の余裕ができました。最近ストレスがたまってきていると感じていて、この時間に何かできないかとぼんやり考えていました……。

こんな時に「自宅から20分で行ける場所に釣りスポットがありますよ」「おいしいアジが釣れますよ」「今まで通勤に使っていた朝や夕方の時間帯が一番釣れる時間ですよ」といった情報提供があると、「釣りは登山と同じようにアウトドアのアクティビティだし、ストレス解消になるかも。釣りをやってみようかな」という行動変容に繋がる可能性があります。

この流れの中で重要となるのが、今まで釣りをしたことがなかった人に「その人には釣りがマッチする」という根拠を持ったリコメンド(提案)を行い、「そういうアクティビティもあったんだ」「そういうアクティビティがしたかったんだ」と気づきを与えることです。

根拠のあるリコメンドを行うには、DX技術が活用できます。現在でもオンラインショッピングによる購買履歴や、Webサイトの視聴履歴といったデータをもとにリコメンドを行うサービスは存在します。しかし、例えば、近年登場してきたストレスチェックができるスマートウオッチ※1のような心身の状態を検知できるウエアラブル端末が発展し、「登山していた際にはリラックスしていた」「にぎやかな場所よりも静かな場所で、一人で居る方がリラックスしていた」といったデータが取れていれば、「この人はアウトドアが好きな可能性が高い。釣りのようなアウトドアの中でも一人で没頭するタイプのアクティビティがマッチするだろう」といった類推が可能となります。

その上で、全国の釣りスポットや釣れる魚のデータベース、「アジが好き」というデータ、自宅周辺の交通機関に関するデータなどがあれば、AIによるマッチング等で根拠を持ったリコメンドを導き出すことができます。

このような技術開発は着々と進んでいます。例えば、沖電気工業(以下、「OKI」)と日本サブウェイ(以下、「サブウェイ」)では、AIを用いた感情推定技術(感情AI技術)を活用した「提案型注文システム」の実証実験をサブウェイ渋谷桜丘店で2021年8月2日より開始しました。セルフ注文端末にサンドイッチなどのメニューを表示し、端末を見ている顧客の表情や視線などをセンサーで検知し、AIによってそれらのデータから潜在的な関心を推定し、メニューを提案するものです。このサービスを使えば、「いつも××を注文していたけど、実は〇〇も食べたかったんだ」といった「気づき」に繋がります。

これまでのリコメンドは、明確になっている嗜好に最適なものを提案することが主体でした。そのため、結果として関心対象が狭まってしまう側面があります。前述の釣りの例や、OKI・サブウェイの例のように、意外な気づきを提供し、行動の幅を広げるようなリコメンドが必要となってくるのではないでしょうか。

ポイントはコミュニケーションを通していかに「伝える」か

根拠のあるリコメンドであっても、伝え方が適切でないと、行動変容には繋がりません。

前述の例でも、スマホ画面に「釣りはどうですか?」と味気ない通知が表示されるだけのサービスでは、「釣り」というキーワードは頭に残るものの、なかなか「やってみよう」とまでは思えないかもしれません。

人は情報だけで行動を決定するのではなく、家族や友人、知人とのコミュニケーションの中で意思決定していくことも多くあります。

この点で、CX技術が重要になってくると考えられます。例えば、SNSのユーザーにリアルな友人・知人だけでなくAIが溶け込み、自然な会話の中でリコメンドされるような技術です。また、AIスピーカーやAIペットが普及し、AIとコミュニケーションすることが一般化すれば、図2のように、①AIが「釣り番組」をリコメンド →②AIスピーカーに「釣りって面白そうだね」と話しかける →③近所の釣り場や必要な道具の購入方法なども含めてリコメンド、といったことが可能となり、スマホの通知やWebページで情報提供するよりも、具体的な一歩を踏み出せる人が多くなります。

このようなコミュニケーションを行う際、単純に会話するだけでなく、ユーザーの声色や表情から興味関心度合いを予測する感情コンピューティング技術を用いて、言葉を換えたり、話しかけるタイミングを変えたりすることも考えられます。また、AIスピーカーだけでなく、釣りの有名人や同じような境遇で釣りを始めた人が情報提供してくれるアバター技術を用いることもあるでしょう。
図2 AIとのコミュニケーションを通じたリコメンドのイメージ
AIとのコミュニケーションを通じたリコメンドのイメージ
出所:三菱総合研究所
このプロセスを、図1で紹介した「AISASの法則」と照らし合わせると、①でA(Attention:認知)とI(Interest:関心)を呼び起こすだけでなく、③でタイミングよくS(Search:検索)の情報も提供することで、効果的にA(Action:行動)に繋げています。

行動変容が市場の拡大に繋がる

2021年6月に当社が実施したアンケート調査※2では、感染症終息後の意向として約50%の人が旅行やレジャーでの外出を「大いに増加させたい」「増加させたい」と回答しました。そのうちの約30%が「行きたい旅行先がすぐに思い浮かぶ」という問いに「まったくそう思わない」「そう思わない」「どちらとも言えない」と回答しています。

また、2017年11月にトライバルメディアハウスが実施したアンケート調査※3によれば、全体の約67%が新しい趣味を1年以上前から「やりたい」と思っているのに始められていないと回答し、新年から新しい趣味を始めたいのに、まだ47%の人が始めたい趣味がわからず探していると回答しています。

このように、潜在的に旅行やレジャー、趣味を行いたいと思っている人は多いものの、具体的な旅行先や趣味が見つかっていない人は多く、適切なリコメンドを行うことで具体的な行動、すなわち消費が生まれ、市場の拡大に繋がる可能性があります。

本コラムでは、「余暇・レクリエーション」分野に着目し、行動変容を促すサービスの具体的なイメージを紹介しました。新たな趣味に出会うことや、思いも寄らなかったレジャーを知ることによって、人生は豊かになります。これまでは自分で情報収集するしかありませんでしたが、DX技術とCX技術を活用したリコメンドにより自然に気づく機会が増え、多くの人が新たな行動にチャレンジし、楽しめる社会が広がることを期待します。

※1:例えばFitbit社は、皮膚上での微小な電気的変化である皮膚電気活動を検出するセンサーをスマートウオッチに搭載し、ストレスマネジメントスコアを算出するサービスを実施。
https://www.fitbit.com/global/jp/technology/stress(閲覧日:2021年8月30日)

※2:三菱総合研究所「生活者市場予測システム(mif)」による調査。調査地域は全国47都道府県、調査対象は20〜69歳の男女インターネット利用者、有効サンプル数は3万人、調査方法はWeb調査。「感染症終息後の意向」については「ワクチンや特効薬の開発、集団免疫の獲得等感染症の不安がなくなった後、感染症拡大以前と比べて」という表現で質問。

※3:トライバルメディアハウス「新しく趣味を始めたい人の約70%が1年以上も始められていない「“いつか”さん」と判明!“何を趣味にしていいかわからない”という『趣味難民』は半数以上!『趣味難民』を救済するカギは友人とSNSにアリ!?」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000073.000004355.html(閲覧日:2021年8月26日) 
調査対象:全国の20~50代の男女約400人、調査方法:インターネットによるアンケート調査。

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