コラム

3Xによる行動変容の未来2030経済・社会・技術

3Xがドライブする生活シーン 第2回:時間・空間を他者と共有し、社会とのつながりを促進する技術

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2021.10.18

先進技術センター飯田正仁

3Xによる行動変容の未来2030

POINT

  • 社会的孤立を強いられている人々の増加は、世界的な社会課題。コロナ禍で深刻化。
  • 社会的孤立の解消には、「CX技術(コミュニケーションテクノロジー)」の活用が有効。
  • 技術の活用だけでなく、多様な価値観が許容できる寛容な社会の構築も重要。

日本人のウェルビーイングの特徴と、社会的孤立がもたらす損失

当社が2021年1月に公表した50周年記念研究では、豊かさを定義するにあたって「量的な成長」から「一人ひとりのウェルビーイング」に着目し、豊かさと持続可能性が両立する社会を実現するためのビジョンと方策を示しました。

ウェルビーイングに関してはさまざまな先行研究があります。ウェルビーイング向上に寄与する心理的な要因は、個人の自己実現に関する「I」、他者や社会とのつながりに関する「We/Society」、世界平和など普遍的な価値観に関する「Universe」の3つに分類できるとする考え方があります。

科学技術振興機構社会技術研究開発センターの「日本的Wellbeingを促進する情報技術のためのガイドラインの策定と普及」 プロジェクト※1では、国内の約1,300人の大学生に、自分のウェルビーイングを決める要因についてアンケートを実施しました。回答結果の属する要因を、「I」「We/Society」「Universe」に分類したところ、「We」に属する要因を挙げる回答者が6割を超えました※2。他者や社会とのつながりを重視する人はとても多いのです。

しかしながら、他者や社会とのつながりがなく、孤立を強いられている人々の増加は、大きな社会課題となっています。

世界と比較しても、日本における孤立の問題は深刻といえる状況です。社会的孤立に関する調査では、「普段友人や同僚、またはその他の社会的グループとの関わりがほとんどない人の割合」で、日本は世界(OECD20カ国)平均の6.7%を大きく上回る15.3%という結果になっています※3。英国や日本では担当大臣を置くなどさまざまな政策的対応も取られていますが、コロナ禍によって人と人との接触が制限される状況では、社会的孤立は深刻化する可能性があります。

今後深刻さが増すと考えられる社会的孤立という課題を解決に向かわせる可能性は、「CX技術(コミュニケーションテクノロジー)」と呼ぶイノベーションにあると当社では考えます。CX技術は、時間や空間を超えて人とのつながり方やコミュニケーションを実現する技術です。例えば、ひきこもりの状態にある人に、他者とのつながりを与えるきっかけをもたらします。当社の試算によれば2020年で約100万人のひきこもりと1.1兆円の経済的損失が発生していると推計されました。これに対し、CX技術の活用によって人間関係に起因する要因が解消されると仮定した場合、約60万人が社会復帰可能で、0.7兆円の経済的損失の回復が見込まれます。将来的にCX技術が社会一般に普及し、人間関係に起因するひきこもりが発生しない社会になれば、約2.3兆円の経済効果があると推計されました※4

CX技術に求められる視点と萌芽事例

必ずしもひきこもりの状態までは至らなくとも、社会とのつながりがなく望まない孤立を強いられている人々も存在しています。例えば、一人住まいの高齢者、育児の協力が得にくいワンオペ育児の女性※5、学校でのストレスから不登校・ひきこもりになった子供たち、職場でのストレスからメンタル疾患となり退職・無職となった大人たち、などです。いわゆる社会的弱者とされている人々が多く含まれています。

社会的弱者が生じる要因の一つとして、社会全体のスピード化や効率化といった画一的な価値観から取り残され、その結果として他者や社会とのつながりが失われてしまったという側面は否めないでしょう。

社会的弱者には、さまざまな立場の人が含まれています。CX技術には、さまざまな立場の人が置かれている多様な状況とニーズに応じて、必要な機能を必要な時に提供する視点が求められます※6。例えば、誰もが使いやすい技術、時間と場所を選ばず気軽につながることのできる技術、他者と適度な距離感でつながることのできる技術、といった視点です。これらの視点で実装されたCX技術の萌芽事例では、さまざまな立場の人のつながり構築が促進されるケースが出始めています。

(1) 誰もが使いやすい技術


高齢者世帯の約半数が65歳以上のひとり暮らしの世帯という調査結果があります※7。高齢者の孤立は社会問題化しており、コロナ禍で高齢者の住んでいる実家への里帰りが難しくなるなど社会深刻化しています。「まごチャンネル」(株式会社チカク)※8は、Wi-Fi環境がない実家のテレビに動画や写真を送信できるサービスで、スマホやパソコンを使いこなせない高齢者も離れた家族とコミュニケーションを取ることができます。このようなCX技術によって、高齢者の孤立を少しでも解消できる可能性があります。

(2) 時間と場所を選ばず気軽につながることのできる技術


コロナ禍では、家事・育児・介護など無償労働の負担の増大も指摘されています。とりわけ、無償労働の負担に苦しむ女性への社会的支援は、セーフティネットを底上げする観点で重視されるべきでしょう。働く主婦層へのアンケートでは、家事や育児のワンオペ状態を経験したことが「ある」という回答が7割を超えているものがあり※9、当社が実施したアンケートでも家事や育児などの無償労働の負担に関する男女格差が深刻になっていることがわかります※10。船橋市では、育児中の女性が相談・交流できるプラットフォーム「オンライン子育てカフェ@ホームふなばし(オンライン交流会)」と「オンライン子育て相談」を開設しています※11。スマホやパソコン、タブレットがあれば、子供が一緒でも自宅から気軽に参加することが可能です。時間と場所を選ばず、簡単な操作で気軽に同じ悩みを共有することで、孤立ストレスの軽減とつながりの構築が進んでいます。

(3) 他者と適度な距離感でつながることのできる技術


さまざまな理由で外出困難な人にとって、いきなりリアルな対人コミュニケーションを再開するのはハードルが高いと考えられます。スマホなどで遠隔操作できる自分の分身ロボット「OriHime」(オリィ研究所)※12は、外出困難な人の代理人としての機能を果たし、社会復帰するためのきっかけを提供してくれる技術です。ロボットを介して他者と適度な距離感を保つことができるため、人間関係に起因するひきこもりの人にも行動変容を促すことができる設計となっています。障害者がOriHimeを操作して接客する「分身ロボットカフェ」※13も展開中です。

CX技術を活用して社会的つながり構築を進めるためのポイント

CX技術を活用して社会的つながり構築を進める際に、ポイントとなることは何でしょうか。

まずは、技術そのものの進歩が挙げられるでしょう。特に、VR(仮想現実)をはじめとしたxR(仮想空間技術の総称)は、既存のオンライン技術を中心としたコミュニケーションを大いに発展させるでしょう※14。前述の動画や写真を高齢者の実家のテレビに送信できるサービスとともに、NHK技術研究所が開発中の「空間共有コンテンツ視聴システム」※15などのVR技術も活用されるようになれば、よりリアルな感覚で日常的な空間を共有し、つながりを構築することが可能になります。

VR旅行で非日常の空間も共有できるようになりつつあります。当社では、VR技術による家庭型オンライン旅行や施設型オンライン旅行、スマートグラスによる現地体験強化などを含めたVR旅行の市場規模を2025年に約5,000億円、2030年に約2.2兆円と試算しています※16

また、さまざまな人々の多様な価値観を許容できる寛容な社会の構築も忘れてはならないでしょう。技術をつくり、使うのが社会を構成する人間である以上、人間の価値観によって使われる技術が決まります。日本は多様性の低い社会であることが課題とされていますが、さまざまな人々の多様な価値観やコミュニケーション手段を社会として受け入れることが重要です。例えば、対面によるコミュニケーションだけでなく、オンラインやロボットを通じたコミュニケーションを許容する社会でなければ、ロボットを介した社会とのつながり構築なども進まない可能性があります。

寛容な社会の構築には、「あえてつながらない」という価値観をもつ人々をも許容できることも求められます。スピード化・効率化に偏重した画一的な社会では、その他の多様な価値観をもつさまざまな人々を受け入れられない排他的な側面をもつものです。CX技術は、多様な価値観を許容できる社会のコミュニケーションの糸口を与え、社会的孤立を解消できる可能性があります。

価値観の転換に関しても、興味深いCX技術があります。例えば、VRを利用して自分とは異なる立場の人の経験や感情を共有するようなシステムが開発されています。スタンフォード大学のVirtual Human Interaction Labで作成された7分間のVR体験コンテンツ「Becoming Homeless」※17は、ホームレスの立場を体験することでホームレス問題への共感を高めることを目指した研究事例です。

さまざまな技術を活用するためのプラットフォームの整備も欠かせません。社会にはさまざまな悩みやニーズをもつ人々がいます。2030年頃までには、「つながりアシストシステム」(図1)などを用いて、ひとり一人の活動ログを元にその人が誰とどのようにつながっているのかを可視化することが可能になるでしょう。孤立リスクなどが点数化され、個々人のパーソナリティに応じたつながり構築を支援するプラットフォームができれば、同じ考えや趣味を通じたコミュニティとのつながり、社会貢献やイノベーションのコミュニティとのつながりなどを通じて社会的孤立が大幅に減少します。民間事業者が「つながりアシストシステム」のサービス基盤(プラットフォーム)を提供するプラットフォーマーとなり、自治体からのソーシャル・インパクト・ボンド(成果連動型の民間委託)などで事業化されることが期待されます。
図1 「つながりアシストシステム」の概要
「つながりアシストシステム」の概要
出所:三菱総合研究所「スリーエックス 革新的なテクノロジーとコミュニティがもたらす未来」(ダイヤモンド社、2021年5月)より作成
本コラムでは、社会的孤立を生み出す要因の一つとして、スピード化や効率化といった社会全体の画一的な価値観から取り残されてしまった社会的弱者の存在を指摘しました。CX技術による社会的孤立の解消においては、画一的な価値観にとらわれず、一人ひとりの多様な価値観を尊重する発想が求められます。CX技術によって他者や社会とのつながりを構築することで、「一人ひとりのウェルビーイング」向上が実現されるでしょう(図2)。
図2 CX技術の活用と「一人ひとりのウェルビーイング」向上
CX技術の活用と「一人ひとりのウェルビーイング」向上
出所:三菱総合研究所

※1:科学技術振興機構社会技術研究開発センター(JST/RISTEX)「人と情報のエコシステム」研究領域「日本的 Wellbeing を促進する情報技術のためのガイドラインの策定と普及」
https://www.jst.go.jp/ristex/hite/community/project000081.html(閲覧日:2021年10月11日)

※2:「日本的Wellbeingを促進する情報技術のためのガイドラインの策定と普及」プロジェクト「ウェルビーイングな暮らしのためのワークショップマニュアル」(2019年3月)
http://wellbeing-technology.jp/files/WELL-BEING_MANUAL.pdf(閲覧日:2021年10月11日)

※3:MRIマンスリーレビュー 2020年3月号「50周年記念研究 第3回:「100億人・100歳時代」に誰も孤立しない社会を目指して」

※4:国立社会保障・人口問題研究所「出生中位(死亡中位)推計(平成29年推計)」、内閣府「生活状況に関する調査 (平成30年度)」、内閣府「若者の生活に関する調査報告書(平成28年度)」、厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査」などの統計調査結果から、社会的孤立によって失われた経済的損失と、CX技術の発展によって社会的孤立が解消されることで得られる経済的利得として推計。

※5:MRIマンスリーレビュー 2018年12月号「26歳の女性が日本で一番孤独」

※6:ドミニク・チェン(朝日新聞2020年1月10日「2020どう生きる」)「テクノロジーを経済原理のみで走らせる人たちによって、僕たちが無意識にスピード狂のようになっているとしたら—。今度は、自分たちがなりたい姿に変わるための技術について議論し、作る時です」

※7:公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「高齢者の独居問題」
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tyojyu-shakai-mondai/koreisha-dokkyomondai.html(閲覧日:2021年10月11日)

※8:https://www.mago-ch.com/(閲覧日:2021年10月11日)

※9:ビースタイルグループ「【新型コロナウイルスで夫婦の在宅機会増…働く主婦に聞く、家事や育児のワンオペ】ワンオペ経験ある 71.5%、話し合わずワンオペ」58.3%、配偶者転勤なら「引っ越す」31.9%」(2020年5月1日)
https://www.bstylegroup.co.jp/news/shufu-job/news-19916/(閲覧日:2021年10月11日)

※10:例えば、6歳以下の子供がいる共働き夫婦では、夫よりも妻の方が仕事の時間が平均1.5時間短く、家事・看護・育児の時間が平均2.5時間長くなっている(三菱総合研究所・生活者市場予測システム(mif) より。20~40代で双方が会社員(正社員)または団体職員かつ双方の個人年収が200~500万円の夫婦を対象)。

※11:船橋市「おうちで相談!オンラインで子育てをサポート【オンライン交流会・遊びの会・つどい/講座・個別相談】」
https://www.city.funabashi.lg.jp/kodomo/support/008/p091365.html(閲覧日:2021年10月11日)

※12:https://orihime.orylab.com/(閲覧日:2021年10月11日)

※13:https://dawn2021.orylab.com/(閲覧日:2021年10月11日)

※14:当社コラム 3Xによる行動変容の未来2030「バーチャル・テクノロジーがドライブする行動変容編 第1回:2030年代のCXを担う基盤技」

※15:https://www.nhk.or.jp/strl/open2021/tenji/1/1.html(閲覧日:2021年10月11日)

※16:家庭型オンライン旅行はプロモーション費やVR旅行ツアー費等として、施設型オンライン旅行は施設利用料等として、現地体験強化は現地施設でのスマートグラス利用料等として、主要な支出規模を推計した。

※17:https://www.stanfordvr.com/becominghomeless/(閲覧日:2021年10月11日)

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