コラム

カーボンニュートラル時代の原子力エネルギー・サステナビリティ・食農

廃止措置コストを合理化する鍵は業界連携にあり

福島第一原子力発電所事故後の原子力

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2022.2.25

セーフティ&インダストリー本部近藤直樹

カーボンニュートラル時代の原子力
2020年7月に発表したコラム「今後到来する廃炉時代に向けた三つの視点」では、原子力発電所を取り巻く環境変化に対し、廃止措置※1において重要となる「(1)経済合理性の追求」「(2)電源立地地域の産業への影響」「(3)適切な安全規制制度の導入」の3つの視点を紹介した。本コラムは、そのうち(1)経済合理性の追求に焦点を当てる。

原子力発電所の廃止措置コストは合理化しなければならない

日本では近年、原子力発電所の廃止措置決定が相次いでいる。11年前の東日本大震災が起こる以前、国内の商業用原子力発電所は54基が運転中、3基が建設中であり、東海と浜岡1・2号の3基のみが廃止措置中であった。それが、2022年2月現在では、24基の商業用原子力発電所が廃止措置中となっている。この11年で実に21基の廃止措置が決定したということである。

さて、原子力発電所の廃止措置にはどの程度の費用がかかるのだろうか。原子炉の出力の大きさによって費用は異なるが、大型炉(110万~138万kW級)で558億~834億円程度と言われている※2
この廃止措置コストは、以下の理由で、合理化によって低減し、上振れを防止しなければならない。
  • 廃止措置はそれ自体で利益が発生しない作業であるため
  • 予定外の早期に廃止措置を決定したプラントの場合、積立資金が十分でない場合があるため
  • 廃止措置費用は積み立て以外に、託送料金※3を活用可能となったが、もろもろの不確実性により、費用が増加した場合、資金が不足してしまう可能性があるため

廃止措置コストの合理化には7つの因子とのバランスが重要

廃止措置コストの合理化を優先させた結果、安全性が犠牲になってはならず、廃止措置コストの低減および上振れ防止は、他の因子を考慮しつつ検討しなければならない。ここで、他の因子として①安全性担保、②被ばく低減、③廃棄物量低減、④早期リスク低減、⑤地域産業維持・発展、⑥リソース配分最適化、⑦法令順守の7つを挙げたい。

①安全性担保:一般労働安全の担保、放射線安全の担保
②被ばく低減:作業員被ばくの低減、公衆被ばくの低減
③廃棄物量低減:できるだけ新たな廃棄物を発生させない、発生させる場合にもできるだけ少なくする、再利用する、リサイクルする
④早期リスク低減:廃止措置への早期着手/工期短縮によりリスク源を早期除去
⑤地域産業維持・発展:建設・運転・保守から廃止措置への移行における新たな地域共生の構築
⑥リソース配分最適化:職務の遂行能力と柔軟性を兼ね備えた組織・体制の構築
⑦法令順守:安全規制への適合

⑤については「廃炉時代の地域産業」に、⑥と⑦については「廃止措置プラントのリスク管理」に詳しく書いている。
図 廃止措置で考慮すべき重要な因子
図 廃止措置で考慮すべき重要な因子
出所:三菱総合研究所
廃止措置コストの低減、上振れ防止は、上記7つの因子とのバランスを考慮しながら、おのおのを合理化することによって実現可能となる。

業界連携でより一層の合理化を

先述のとおり、廃止措置コストの低減・上振れ防止を実現するには、7つの因子とのバランスを図ることが重要だが、7つの因子に対して、各電気事業者が個別に対応することには限界がある。先行者の経験を学んだり、横のつながりで課題解決を目指したりしないと、個社だけでは合理化に至らない可能性がある。より一層の合理化を目指すためには、業界全体として連携することが重要となる。
以下に、より一層の合理化の例を示す。

①安全性担保・②被ばく低減

各廃止措置での事例・教訓を蓄積し業界で共有することで、さらなる安全性担保・被ばく低減の合理化を促進することができる(多大なコストをかけずに、安全性担保と被ばく低減を実現できる)。

③廃棄物量低減

個社で廃棄物を処理するのではなく、集中処理施設を設置し複数の廃止措置プラントの廃棄物を一括処理することで、効率化を図ることができる。すなわち、処理施設を一つに限定することで廃棄物量低減に係るコストを削減することができる。しかし、集中処理施設を設置する地域は他地域の廃棄物を受け入れることになるため、容易ではないと考えられる。安全性や合理性だけではなく、地元へのメリット・デメリットの説明も含めた丁寧な合意形成過程が欠かせない。また、総体としては集中処理施設までの輸送コストも勘案する必要がある。

一方、集中処理施設を設置することで、いつでも廃棄物を敷地外に搬出することができるというメリットもある。これは⑥リソース配分にも関連する視点である。

④早期リスク低減

上記「事例・教訓を蓄積し業界で共有」と関連するが、個社としては他社の廃止措置事例が蓄積した後に廃止措置を実施したいという力が働く(先行者不利)ため、廃止措置が加速しないという面がある。そこで、代表プラントを選定し、業界全体として廃止措置に対する支援・習熟を行い、得られた知見を個社の廃止措置プラントに活用していくという仕組みが求められる。これにより、廃止措置の加速(早期リスク低減)を促すことが期待される。

⑥リソース配分最適化

廃止措置は長期作業であり、かつ、時期によって求められる作業種類・作業負荷に大きなムラが存在するという課題がある。業界連携を行い、複数の廃止措置作業に携わる企業等のリソースを、全国の廃止措置プラント間で調整することで、作業種類・作業負荷を平準化することが可能となる。


この様な業界連携による取り組みにより、廃止措置コストのさらなる低減・上振れ防止を実現することができる。

三菱総合研究所は、各ステークホルダー(国、電気事業者、廃止措置作業に携わる企業、地元自治体、地域産業など)の実情への深い理解を基に、業界連携による廃止措置課題の解決を促進・実現していきたい。

※1:「廃止措置」とは運転・操業が終了した原子力施設を解体し、最終的には跡地を有効利用できる状態にすること。原子力発電所に対する廃止措置を一般に「廃炉」と呼ぶ。

※2:資源エネルギー庁「廃炉を円滑に進めるための会計関連制度の課題」(2014年11月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denki_ryokin/hairo_kaikei/pdf/003_04_00.pdf
(閲覧日:2022年2月17日)

※3:電気を小売する事業者が、送配電を行う事業者に対して支払う送配電網の利用料金。

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