コラム

環境・エネルギートピックスサステナビリティ

プラスチック資源循環促進法と循環実現への課題

経済合理的な循環実現にはプラスチックの需給マッチングが鍵

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2022.3.28

サステナビリティ本部新井理恵

環境・エネルギートピックス

プラスチック資源循環促進法の施行

2022年4月、日本で「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック資源循環促進法)」が施行される。国内では、海洋汚染問題や諸外国の廃棄物輸入規制強化などを契機に、循環促進が重要であるとの認識のもと、2019年5月に「プラスチック資源循環戦略」が策定された。同法はその具体的かつ中心的な政策として、ライフサイクル各段階の関係主体に、プラスチック資源循環への一層の取り組みを促す内容となっている。

同法施行に伴い、プラスチック使用製品を設計・製造する事業者(メーカー)には、国の定めた設計指針のもと、設計・製造段階でのプラスチック使用量の削減に資する取り組みが求められる。プラスチック製のフォークやストローなどを提供する事業者は、使い捨てプラスチックの排出を抑制するため、有償での提供などの提供方法の工夫やリユース可能な製品の提供などの製品の工夫により、提供量を抑制することが求められる。また、廃棄されたプラスチック使用製品について、市区町村による分別収集・再商品化や、製造・販売事業者による自主回収・再資源化が円滑に実施されるようにするための措置も盛り込まれている。プラスチック使用製品の排出事業者は排出の抑制・再資源化の取り組みが求められる。
表 プラスチック資源循環促進法で求められる関係主体の取り組み
表 プラスチック資源循環促進法で求められる関係主体の取り組み
出所:三菱総合研究所

日本の再生プラスチック市場の現状

プラスチックは、幅広い製品に使用されており、用途によって形態や材質も多様である。また、品質低下を招く要因となる酸素や水分を遮断するバリアー性や強度を高める目的などから、プラスチックと、それ以外の素材や複数の樹脂が複合・複層されて使用されているケースも多い。排出される際には、汚れや他の素材が付着していることも多い。

このような性質を有するプラスチックは、分別回収が容易ではなく、樹脂の物性が異なるものをまとめてリサイクルしても、メーカーが利用できる品質の再生プラスチックに戻すことは難しい。このため、回収やリサイクルの段階だけを考えるのではなく、再生プラスチックが新たな製品の原材料として使用されることをあらかじめ考慮することが重要である。

具体的な用途が決まると、必要な再生プラスチックの品質や量が決定し、それに適したリサイクル技術と回収方法を検討することが可能になる。再生プラスチックの用途を確保し、それに合わせたリサイクルおよび回収のルートを構築することが、経済合理的なプラスチック資源循環を実現させる鍵になると考える。

これまでの日本のプラスチック資源循環では、回収されたプラスチックごみを既存の技術でリサイクル処理することに重点が置かれてきた。リサイクル事業者は製造した再生プラスチックを使ってくれる事業者を探す傾向にあり、再生プラスチックを利用する側のニーズに合わせたリサイクルの技術やビジネスが十分に育ってきたとは言えない。この結果、現在の再生プラスチック市場では、供給側(リサイクル事業者)と需要側(メーカー)の品質・量についてのミスマッチが生じており、市場が拡大しない状況にある。

再生プラスチックの需要確保の重要性

再生プラスチックの供給と需要のミスマッチは、プラスチック資源循環を先導しようとする欧州でも同様に起きており、大きな課題として指摘されている。サーキュラー・エコノミー(循環型経済)を推進する欧州は、2018年にプラスチック戦略を発表し、2025年までに年間1,000万トンの再生プラスチック生産と利用を達成することを目標に掲げた。これを受けて、再生プラスチックの需給マッチングを促す民間イニシアチブとしてサーキュラー・プラスチック・アライアンスが発足しており、どの分野の製品で再生プラスチックの利用を促進していくかのロードマップを策定している。また、再生プラスチックの需要拡大にあたり、民間での取り組みには限界があるという認識から、欧州委員会は、自動車、家電製品、容器包装など特定の製品について再生プラスチックの利用率目標を設定することも検討している。このように、欧州では、官民が再生プラスチックの安定供給・需要確保を具体化するための取り組みを推進しようとしている。

日本でも民間のプラスチックへの取り組みが活発化している。2019年には、プラスチックバリューチェーンを構成する企業によるネットワーク組織であるCLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)が発足した。また、欧州での動きや、今回のプラスチック資源循環促進法の施行を契機に、メーカーや小売りだけでなく、石油化学、商社など多様な業種から、新たなプレーヤーがリサイクル技術開発やプラスチック回収に乗り出そうとしている。しかし、再生プラスチックの具体的な用途まで描けているケースは多いとは言えない。

プラスチック資源循環に向けた当社の取り組み

再生プラスチック需要の確保と需給マッチングを行い、経済合理的な資源循環を実現するために、当社は、マッチング機能を有したプラットフォームを構想し、実現に向けた検討に着手している。

具体的には、当社において再生プラスチックの需給マッチングを促すツールを試行的に開発し、供給事業者と利用事業者である企業の協力を得て、当該ツールを用いたマッチング実証を2021年に実施した。実証の結果、品質の観点からは、利用するメーカーのニーズに合う再生プラスチックのマッチングに成功している。実際の調達に至るまでにはさらなる確認作業が相互に必要となるが、品質面でマッチングさせる可能性を見いだしている。一方、量の観点からは需要に見合った供給量の確保が課題であることが明らかとなった。また、メーカーが求める品質情報として、再生プラスチックの由来や処理に関するトレーサビリティ情報へのニーズが高いことも確認できている。
図 プラスチック資源循環プラットフォームの構想とマッチング実証の概要
図 プラスチック資源循環プラットフォームの構想とマッチング実証の概要
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出所:三菱総合研究所
再生プラスチックの需給マッチングを質・量ともに促すには、利用側による要求水準の調整、要求水準に合わせた供給、使用済みプラスチックの回収体制拡充などが必要である。また、再生プラスチックの由来や処理プロセスに関するトレーサビリティを確保するためには調達元と収集事業者との連携が欠かせない。これらは個社による取り組みでは限界があり、バリューチェーンの各主体が相互連携することで実現しうるものと考える。

当社は、2021年の実証結果も踏まえ、関連する民間企業の相互連携により、社会全体の再生プラスチックの需要確保とそれに向けた回収・リサイクルの道筋を描き、経済合理的なプラスチック資源循環の実現を目指す社会実装の検討を進めていく。

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