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電圧低減により節電するCVRの可能性:電力需給ひっ迫対策の切り札

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2022.7.28

経営イノベーション本部中村俊哉

入江 寛

環境・エネルギートピックス

電力需給ひっ迫はいつまで続くか

政府は、2022年6月7日に「電力需給に関する検討会合」を開き、本年度の電力需給対策を決定した。今夏および今冬の電力需給見通しは非常に厳しく、電力需要に対して供給余力がどの程度あるかを示す予備率が、最低限必要とされる3%を下回ることが懸念されている。需給ひっ迫が起きる背景には猛暑や厳寒があるが、新型コロナウイルス感染症の影響による国民生活の行動様式の変化(テレワークの定着などに伴うピーク需要の増加)やロシアのウクライナ侵攻に伴う非ロシア産LNGの調達競争激化(電力供給のために必要な燃料調達の困難化)など需給ひっ迫につながるリスク要因は増え続けている※1

政府の「2022年度の電力需給に関する総合対策」では、供給対策と需要対策の双方で対策を講じる考えが示されている。供給対策としては、休止中の電源稼働、燃料の追加調達、非化石電源(再生可能エネルギー・原子力)の最大限活用※2などが挙げられている。需要対策としては、「電力需給ひっ迫警報」または「電力需給ひっ迫注意報」の発令、計画停電の準備、節電・省エネ促進施策の導入などが挙げられている。

こうしたなか政府は2022年6月26日午後、新たに設けた「電力需給ひっ迫注意報」を初めて関東で発令し、需要ピーク時の節電を呼び掛けた。その後、4日連続で注意報は発令され、現在でも予断を許さない状況にある。

電力需給ひっ迫は、今夏および今冬のみならず、今後もたびたび起こる可能性がある。上述の供給対策、需要対策に加え、電力系統の運用を変更する対策を検討することも重要であると当社は考えている。

電圧を下げて省エネ効果を発揮するCVR

この電力系統による有効な対策の例として、米国を中心に導入が進む「CVR(Conservation Voltage Reduction:電圧低減による節電)」の活用がある。CVRは、低圧系統における電圧を標準電圧下限値近くで運用するというコンセプトである。米国では低圧の標準電圧は120±6Vと規定されている。機器の消費電力は「電圧×電流」で表すことができる。一部の機器(例えば、電圧を変えても電流が変わらない蛍光灯、水銀灯、溶接機など)は、標準電圧の範囲内において低い電圧で運用することで消費電力が下がるため、省エネ効果が生まれる。
図1 CVRのコンセプト(米国の例)
CVRのコンセプト(米国の例)
出所:三菱総合研究所
CVRの導入は、米国カリフォルニア州の政府機関CPUC(California Public Utilities Commission)が1977年に数千軒の需要家を対象にCVRの実証プログラムを実施したのが始まりである。本プログラムの最終報告書において、CVRはカリフォルニア州で最も効果的な省エネプログラムの1つであるという結論が示されている。それ以降、米国各州で導入が進んだ大きなきっかけが2009年頃に始まったスマートメーター導入である。

需要家に設置されるスマートメーターは、電圧を計測する機能を有しており、計測された電圧をもとに制御を行うことで、電力会社は標準電圧を逸脱しない範囲で、より低い電圧を狙ったきめ細かい運用が可能となった。
図2 スマートメーターデータを活用したCVRの運用
スマートメーターデータを活用したCVRの運用
出所:三菱総合研究所

米国の成功事例を参考に日本でのCVR活用検討を

各州のスマートメーター導入に伴い、米国全土でCVRプロジェクトが進められた。プロジェクトを実施した41事業者を対象に米国エネルギー省(Department of Energy)が2014年に調査を行い、消費電力量の削減は平均で1.84%、ピーク需要の削減は平均して2.51%という結果が得られた。この結果を踏まえて米国各州でCVRの取り組みが拡大しているほか、オーストラリアなどでも展開が進みつつある。

あまり日本では知られていないこのCVRは、米国での成功事例から、十分に確立されたコンセプトであると言える。また、CVRの活用は節電などの他の対策と組み合わせることにより、その効果はピーク需要削減効果に上乗せされる。

2022年6月27日に東京電力パワーグリッドの最大使用率が99%であると予想されたなど、日本ではさまざまな手を尽くしてもなお需給ひっ迫状況が極めて険しい。日本がCVRの活用によってピーク需要を仮に米国同様2.5%程度緩和できれば、その効果は非常に大きい。加えてスマートメーターの普及が進んでいる日本では、CVRの活用を検討する価値は十分にある。

エネルギー安全保障、安定供給はエネルギー政策の根幹をなす。各機器への影響はないのか、国内でどのくらいの需給ひっ迫解消効果があるのか、CVRを適用した際の配電系統運用はどうあるべきかなど、CVRの適用を行うためにはさまざまな検証すべき課題がある。それらを考慮しながらも、電力需給ひっ迫が今後も厳しくなると予想される中で、需給対策の「切り札」としてのCVRの活用を積極的に検討していくことが重要だろう。

※1:電力需給に関する検討会合「2022年度の電力需給対策について」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/electricity_supply/index.html(閲覧日:2022年7月6日)

※2:この対策の一環として、2022年7月14日に岸田総理は経済産業省に対して、今冬に最大9基の原子力発電の稼働を進めるよう指示した。

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