コラム

食と農のミライ食品・農業サステナビリティ

2025年大阪・関西万博が目指すべき持続可能な「調達コード」とは

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2023.4.3

営業本部藤馬裕一

食と農のミライ

万博の調達コードのパブリックコメントがスタート

大阪・関西万博の開幕まで後2年を切ろうとしている。万博の持続可能な運営に向けて、2023年3月15日~4月14日にかけて、パブリックコメントが公募された。その対象は、「持続可能性に配慮した調達コード」(以下、調達コード)である。意見募集の結果を踏まえ、2023年7月頃には調達コードの公表が予定されている※1。本コラムでは、過去の国際イベントから現在に至るまでの調達コードの歴史を振り返りながら、大阪・関西万博が目指すべき方向性を考察したい。

サステナブルな万博を実現するためのルール

公益社団法人2025年日本国際博覧会協会(以下、博覧会協会)は、「持続可能な大阪・関西万博開催にむけた方針」※2を策定し、国際標準規格ISO20121をベースとしたEvent Sustainability Management System(ESMS)の構築を進めている。ESMSの中で、「運用管理およびサプライチェーンマネジメントの確立および実施」を支えるのが「調達コード」である。

博覧会協会によると、「調達コード」の定義は以下の通りである※3

持続可能性に関わる各分野の国際的な合意や行動規範(「持続可能な開発目標」「国連グローバル・コンパクト」「パリ協定」「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」「世界人権宣言」「国連ビジネスと人権に関する指導原則」「ILO多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(ILO中核的労働基準を含む)」「OECD多国籍企業行動指針」など)を尊重し、法令遵守を始め、地球温暖化や資源の枯渇などの環境問題や人権・労働問題の防止、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現、公正な事業慣行の推進や地域経済の活性化等への貢献を考慮に入れた、持続可能な社会の実現に向けて実行可能で最良の調達を実現するための基準や運用方法等を定めたもの。


端的には、「国際イベントで持続可能な調達を実現するためのルール」と表現できる。万博ではSDGsの理念に合致した運営を目指しており、持続可能性への配慮を物品やサービスの調達プロセスに組み込むことは極めて重要といえる。

オリパラ・万博の歴史から学ぶ新時代の調達

ISO20121は、2012年ロンドンオリンピック・パラリンピック競技大会のレガシーとして発行された。ロンドン大会は域内調達・有機奨励が中心であり、続く2016年リオオリンピック・パラリンピック競技大会では、森林伐採ゼロや動物福祉などの項目が追加された※4※5。これら2大会では、コードの対象品目の粒度がさまざまだったが、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会において、品目の統合・体系化が図られ、木材・農産物・畜産物・水産物・紙・パーム油となった※6。大会後報告書にて、調達コードの適用結果が公表されており※7、大会を契機に認証取得生産者が増加し、調達コードに準拠した国産品を確保しやすくなったというレガシーが得られている。

一方、万博での調達コードの登場は、2015年のミラノ万博からである。推奨基準のみであったが、項目は基本的な項目と発展的な項目の2段構成になっていた※8。“Towards a Sustainable Expo”という表彰プログラムが用意されており、博覧会事務局と専門家からなる審査委員会がパビリオン訪問審査を実施し、優秀賞を選出するなど、インセンティブも用意されていた※9。続くドバイ万博では、義務基準と推奨基準の2段構成となり、有機・域内調達・食品ロス対策に数値目標が定められるなど、より踏み込んだ調達コードとなった※10

過去の調達コードの変遷の経緯は、図1のように整理できる。オリパラの調達コードの特徴は、品目別に基準を設け、品目ごとに異なるリスクへの対応策を分かりやすく示していることである。一方、万博の調達コードの特徴は、基準を2段構成として、事業者負担軽減とアカウンタビリティ(説明責任)のバランスをとっていること、優良事例を表彰するインセンティブを設けていることである。2025年大阪・関西万博の調達コードでは、オリパラ系譜と万博系譜のベストミックスによって、過去の教訓が最大限活かされることが望ましい。
図1 過去の国際イベントの調達コードの変遷
過去の国際イベントの調達コードの変遷
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出所:各種資料(※4・5・6・8・10)に基づき三菱総合研究所作成

2025年までに解決すべき調達コードの課題

調達コード策定に向けたワーキングなどの議論を踏まえ、2025年大阪・関西万博の調達コードに関する課題として次の3点を提起したい。

①調達に関する数値目標の設定

調達コードで数値目標を設けると多様な事業者の参画が得られにくくなるとの意見がある。ただ、過去の万博では数値目標を設定しており、どこまでサステナブルな万博を目指すのか、アカウンタビリティを果たしていくことも重要である。ESG経営の観点から、調達状況を定量的に把握・公表する民間企業も増加しており、より先進的なレベルの万博を目指したい。

②調達コードの運用・管理方法の設計

調達コードを単なるスローガンで終わらせないためには、その運用・管理方法も含めて打ち出す必要がある。事業者に真剣に取り組んでもらうには、調達コードの遵守がサプライチェーンマネジメントの力量向上に繋がること、事業者努力が消費者に評価されるインセンティブを設計することがポイントとなる。民間企業の調達のベストプラクティスも参考に、実務で使える運用・管理方法を導出し、レガシーとしたい。

③中小企業に向けた施策の充実

これから持続可能な調達に取り組む中小企業に向けて、ステップアッププログラムや研修を用意することは、サプライヤー全体に占める中小企業の割合が大きい日本では効果的である。例えば、自ら調達先を探索することが難しい中小企業に向けて、調達コードに準拠した推奨品や推奨サプライヤーのリストを提供するなど、取り組みの足掛かりとなる施策を整備したい。

オープン・デジタル・行動変容で調達を改革

これらの課題を踏まえて以下の施策を展開することを提案する(図2)。

①調達コード運用・管理方法のオープンデザイン

2025年大阪・関西万博では、ロゴマークや公式キャラクター「ミャクミャク(MYAKU-MYAKU)」が公開された際、SNSで二次創作が流行した。二次創作を通して、万博に関心が寄せられることも期待して、博覧会協会は、公式キャラクター二次創作ガイドラインを策定した※11。調達コードでも、同じようなオープンデザインのムーブメントを作りたい。例えば、会期前より、各自が最適と考える調達のルールを宣言し、イベントなどで実装して、成功や失敗の体験を社会に蓄積・共有するという、オープンな「運用創作」によって調達のベストプラクティスを生み出すことも可能だ。

②レガシーとしての調達デジタル基盤の構築

ミラノ万博やドバイ万博では、調達コード準拠の証明は、必要書類のメール添付などで対応された※8※10。一方で、サプライチェーンマネジメントのデジタル化が進んでおり、ブロックチェーンなど、新しい技術も台頭している。未来社会の実験場をコンセプトとする万博では、持続可能な調達を支援するデジタル基盤を構築し、サプライヤーの運用負担を軽減することが望ましい。また、先進技術を採用しながら、万博会期後も持続可能な調達の実務に使える基盤を創出できれば、レガシーとなる。

③消費者行動変容の仕組みの構築

持続可能な調達の普及には、その価値を認める消費者の存在が不可欠である。万博では、事業者の調達努力を可視化することで、消費者の商品選択行動を変えていきたい。過去の国際イベントでは、調達コードのスコープはBtoB(企業対企業)に閉じており、消費者は事業者の取り組みを知りえなかった。分かりやすい情報提供と消費者の行動変容を促す仕組みによって、事業者と消費者双方の力でサステナブルな万博を実現していきたい。

「運用創作」の第一歩として、広く社会から調達コードに関するパブリックコメントが集まることを期待して結びとしたい。
図2 2025年大阪・関西万博の調達コードで目指すもの
2025年大阪・関西万博の調達コードで目指すもの
出所:三菱総合研究所

※1:公益社団法人2025年日本国際博覧会協会「持続可能性に配慮した調達コード(第2版)(案)」に対する意見募集について」
https://www.expo2025.or.jp/news/news-20230315-04/(閲覧日:2023年3月16日)

※2:公益社団法人2025年日本国際博覧会協会「持続可能な大阪・関西万博開催にむけた方針」
https://www.expo2025.or.jp/wp/wp-content/themes/expo2025orjp_2022/assets/pdf/sustainability/20220427_sustainability_policy.pdf(閲覧日:2023年3月14日)

※3:公益社団法人2025年日本国際博覧会協会「持続可能性に配慮した調達コード」
https://www.expo2025.or.jp/wp/wp-content/themes/expo2025orjp_2022/assets/pdf/sustainability/20220630_sus-code.pdf(閲覧日:2023年3月14日)

※4:London Organising Committee of the Olympic Games and Paralympic Games "Food vision for the London 2012 Olympic Games and Paralympic Games"
https://library.olympics.com/Default/digital-viewer/c-28171(閲覧日:2023年3月14日)

※5:Rio 2016 Organising Committee for the Olympic and Paralympic Games "Rio 2016 Taste of the Games"
https://library.olympics.com/Default/digital-viewer/c-67349(閲覧日:2023年3月14日)

※6:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会 持続可能性に配慮した調達コード(第3版)」
https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/special/watching/tokyo2020/games/sustainability/sus-code/(閲覧日:2023年3月14日)

※7:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「持続可能性大会後報告書」
https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/special/sus.pdf(閲覧日:2023年3月14日)

※8:Expo 2015 S.p.A. "Guidelines Green Procurement" (Milano 2015)
https://www.mae.ro/sites/default/files/file/expo2015/green_procurement_guidelines.pdf(閲覧日:2023年3月14日)

※9:Italian Ministry for the Environment, Land and Sea "THE EXPO WE LEARNED, The legacy of a mega-event in a circular economy perspective"
https://www.mase.gov.it/sites/default/files/archivio/allegati/impronta_ambientale/the_expo_we_learned_EN_web.pdf(閲覧日:2023年3月14日)

※10:Expo 2020 Programme Office "Expo 2020 RISE Guidelines for Sustainable Operations" (Expo Dubai 2020 LLC)
https://www.expo2020dubai.com/-/media/expo2020/sustainability/expo2020-rise-guidelines.pdf(閲覧日:2023年3月14日)

※11:公益社団法人2025年日本国際博覧会協会「大阪・関西万博公式キャラクター二次創作ガイドライン」
https://www.expo2025.or.jp/wp/wp-content/themes/expo2025orjp_2022/assets/pdf/character/character_terms.pdf(閲覧日:2023年3月14日)