コラム

カーボンニュートラル時代の原子力エネルギー

「次世代炉ベストミックス」という考え方

軽水炉サイクルのその先へ

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2023.9.21

セーフティ&インダストリー本部レガラド真理子

カーボンニュートラル時代の原子力

POINT

  • 核燃料サイクル全体を俯瞰した「次世代炉ベストミックス」を目指すべき
  • ウラン資源確保とプルトニウム保有のバランスが肝要
  • 原子力に求める役割に応じた核燃料サイクルの比較評価が不可欠

次世代炉導入は核燃料サイクルとセットで検討を

2021年に策定された第6次エネルギー基本計画※1(エネ基)では2050年カーボンニュートラルに向け、2030年に全発電電力量の20~22%を原子力発電で賄うとしている。実際のところ、原子力発電については2018年に策定された第5次エネ基の内容を踏襲したものとなっており、原子力発電所の新設・リプレースなどに関する新たな見通しは示されていなかった。

現在、原子力発電所の開発・建設について政府は方針策定に向けて動き始めている。2023年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針※2」では、「エネルギー基本計画を踏まえて原子力を活用していくため、原子力の安全性向上を目指し、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組む」と記載されている。また、2023年5月に行われたG7広島首脳サミット※3でも「高度な安全システムを有する小型モジュール炉及びその他の革新炉などの原子炉の開発及び建設の支援」と、次世代炉導入に取り組む意向が宣言されている。日本の原子力政策は次世代炉の開発・導入に向け動き出すフェーズに移行したと言える。

このような潮流の中、次世代炉導入は各炉の技術的特徴・役割等を中心に複数の評価軸で議論が進められているが、次世代炉の再処理方針を含む「核燃料サイクル」の今後の在り方や開発方針については依然として言及されていない。

核燃料サイクル検討の必要性

核燃料サイクルとは、原子力発電所の燃料となるウランの採掘から、放射性廃棄物の処分に至るプロセスを指す言葉である。核燃料サイクルは「オープンサイクル」と「クローズドサイクル」の2種類に大別される。「オープンサイクル」では使用済核燃料の再処理を行わず、そのまま処分する。「クローズドサイクル」では使用済核燃料に含まれるウラン、プルトニウムを再処理によって取り出し、燃料に加工して再利用する。

日本は資源有効利用、廃棄物量減容化、廃棄物有害度低減の観点から既存軽水炉についてクローズドサイクルの方針を採っている。一方、今後導入される次世代炉についてもクローズドサイクルの方針を採るかについては、議論の上決定する必要がある。

日本の核燃料サイクルにおいては、以下に示す通り、「ウラン資源の確保」と「利用目的のないプルトニウムは持たない」ことが重要である。

①安全保障の観点から、発電に必要なウラン資源を必要量確保すること。
②核不拡散の観点から、利用目的のないプルトニウムを持たずに保有量を必要最小限にとどめること。

これまで、日本の原子力発電所の炉型は軽水炉のみであったため、どのような炉型をどのように導入するか、という議論は行われなかった。しかし今、日本に次世代炉を導入するにあたり、核燃料サイクルに組み込まれる炉型は多様化するため、どのような炉型を、どのタイミングで、どれくらいの量、導入していくのが理想的であるか議論の上、決定する必要性が生じている。これは、各炉を組み込んだ核燃料サイクル全体のウラン資源確保とプルトニウム保有の両方の観点も踏まえ判断することが求められる。以降、核燃料サイクルを踏まえた次世代炉の望ましい炉型の組み合わせを「次世代炉ベストミックス」と呼ぶこととする。

各次世代炉が核燃料サイクルに与える影響

ここでは、導入が議論されている次世代炉が核燃料サイクルの視点から、どのような特徴を有するか整理する。

現在国内で議論されている主な次世代炉について、核燃料サイクルを踏まえた特徴を表に示す。この特徴から、導入が議論されているさまざまな次世代炉が、それぞれ核燃料サイクルに異なる影響を及ぼし得ることがわかる。

例えば高温ガス炉では、使用済核燃料の再処理の技術的難易度が高いとされる被覆粒子燃料※4を使用予定である。こうした背景から、高温ガス炉で再処理を選択しない場合、高温ガス炉の割合が大きくなるほど核燃料サイクル全体で見た時のウラン資源有効利用の効果が小さくなる。すなわち、使用済核燃料の再処理量が減少することで劣化ウラン※5が回収されなくなり、劣化ウランを高速炉に装荷し再び燃料として活用できる資源節約効果は小さくなる。そして、結果的に多くのウラン資源が必要になる。

一方、多量のプルトニウムが燃料として必要となる高速炉導入の際には、プルサーマル発電※6でのプルトニウム利用を中止し、高速炉での利用に向けプルトニウムを一定量貯蔵するなどの考慮が必要である。重要なことは高速炉導入のタイミング、規模を踏まえて、プルトニウム保有量をコントロールすることであり、将来の炉型バランスを考えたうえでプルサーマル発電を計画的に実施していくことが肝要である。

このように、各炉型は核燃料サイクルに異なる影響を与えるため、その特徴を踏まえた上でそれらを適切に組み合わせる「次世代炉ベストミックス」を考える必要がある。
表 導入が議論されている主な次世代炉の核燃料サイクルにおける特徴
導入が議論されている主な次世代炉の核燃料サイクルにおける特徴
出所:三菱総合研究所

ベストミックスはシナリオ比較で考えよう

現在、原子力小委員会革新炉ワーキンググループ(革新炉WG)では、次世代炉の炉型間での比較評価が行われている※8。しかし、次世代炉ベストミックスを論じるには、炉型間の比較評価を行うだけではなく、「どのような炉を、いつ、どのタイミングで、どれくらいの量、社会実装していくか」「サイクル施設(中間貯蔵や再処理施設、燃料製造工場など)のどれが、どのくらいの量必要になるのか」という核燃料サイクルの絵姿を時系列で描く「シナリオ」を複数描出し、そのシナリオ間で比較評価を行う必要があるのではないだろうか。

例えば、図中のシナリオAに示すように、原子力に求める役割として、資源を有効利用しつつ水素需要の増加に対応するのであれば、高温ガス炉、高速炉をバランス良く導入していくことが必要で、その結果として、ウラン資源の使用量、プルトニウム量の推移を分析することになる。

シナリオ間の比較評価を行うにあたっては、これまで述べてきたように、核燃料サイクルの観点、すなわち、ウラン資源確保とプルトニウム保有が適切であるかを考慮する事が重要である。核燃料サイクルを踏まえた次世代炉ベストミックスを論じるには、これらの観点をまず考慮し、シナリオに従ったウランやプルトニウムの利用計画を明らかにした上で、現在革新炉WGで提示されている次世代炉の評価軸である①技術成熟度・時間軸、②規制対応、③サプライチェーン、④市場性(経済性、水素製造、負荷追従、資源の有効利用、廃棄物有害度低減)、⑤非エネ分野(医療分野など)についても比較評価を行うのが良いだろう。

今後、次世代炉の技術開発が進められることになるが、その際には、実装された絵姿からバックキャストで考えることが必要である。このようなシナリオ評価を行うことで望ましい次世代炉ベストミックスが可能となるのである。
図 次世代炉ベストミックスを描き出す考え方
次世代炉ベストミックスを描き出す考え方
出所:三菱総合研究所

※1:「エネルギー基本計画」(2021年10月)
https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005-1.pdf(閲覧日:2023年6月1日)

※2:「GX実現に向けた基本方針 ~今後10年を見据えたロードマップ~」(2023年2月)
https://www.meti.go.jp/press/2022/02/20230210002/20230210002.html(閲覧日:2023年6月1日)

※3:G7広島首脳コミュニケ(2023年5月20日)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page1_001700.html(閲覧日:2023年6月1日)

※4:球状のセラミックスを核として、炭素や炭化ケイ素を被覆した直径1mm弱の粒状の燃料のこと。

※5:軽水炉での核分裂連鎖反応を起こしやすいウラン235の含有率が天然のウランよりも低くなったもの。

※6:再処理により回収されたプルトニウムをウランと混合して新しい燃料を作り、原子力発電所で再利用すること。

※7:超ウラン元素(原子番号92のウランよりも重い元素)からプルトニウムを除いた核種を指し、全て放射性の同位元素。使用済核燃料に含まれるアメリシウム、キュリウムなどのマイナーアクチノイドには人体への影響が強く、半減期の極めて長い同位体が含まれる。

※8:第6回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 革新炉ワーキンググループ(2022年11月2日)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/kakushinro_wg/006.html(閲覧日:2023年6月1日)

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