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モビリティ進化がもたらす社会・産業へのインパクト 第1回 世界で自動車が変わる

三菱総研「未来の産業連関表」による予測

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2018.4.5

政策・経済研究センター木根原良樹

酒井博司

経済・社会・技術
1885年にダイムラー・ベンツがガソリン自動車の販売を開始してから約130年、自動車が大きく変わろうとしている。ガソリン車からEVをはじめとする電動車へのシフト、ライドシェア(配車サービス)やカーシェア(共同利用)の普及、ドライバーを支援または代替する自動走行技術の開発・導入が進む。

2018年初頭、トヨタの豊田章男社長は米国で開催された家電見本市で「モビリティ・サービス企業を目指す」と言明。自動車メーカーに加え、大手IT企業も参入し、自動車産業のモデルが、モノ作りからサービス提供にシフトする強い潮流がみられる。

こうしたモビリティの進化は、社会・産業に大きな影響を及ぼす。本コラムでは、各国の政策や社会との関係性を捉えた上で、世界の持続的成長の視点からモビリティ進化を分析、また日本の産業構造の変化を三菱総研「未来の産業連関表」(※1)により予測することで、モビリティ進化がもたらす社会と産業へのインパクトを描いていく。

EV・シェア・自動走行が巨大自動車市場を狙う

世界の自動車販売額は年間約200兆円、中国を中心に成長を続けており、2030年には約260兆円に拡大するとの予測がある〔図表1-1〕。自動車を使った旅客・貨物輸送、燃料販売などを含めると、世界の自動車関連市場はその数倍規模に広がる。
図表1-1 世界各国での自動車販売額の推移と予測(2010~30年)
図表1-1 世界各国での自動車販売額の推移と予測(2010~30年)
出所:経済産業省「自動車産業を巡る構造変化とその対応について」(H27/11)、p13に基づき三菱総合研究所作成(元出所はIHS Global Inc.の予測を基に住商アビーム自動車総合研究所が加工・推計したもの)
この巨大な市場を狙って、世界の自動車メーカーや大手IT企業がEV、シェアリング(ライドシェア やカーシェア )、自動走行に係る技術開発や事業化でしのぎを削っている〔図表1-2〕。

EVに関しては、2010年前後からテスラ、日産自動車、三菱自動車が販売で先行していたが、近年、日米欧のその他の主要メーカーがEV市場に参入。中国でも新興メーカーを含めEVの開発・販売が拡大している。

シェアリングでは、米国と中国でライドシェアが普及している。米国Uber社は世界約600都市、中国の滴滴出行(ディディチューシン)社は中国約400都市で事業展開している。カーシェアでは米国や欧州の大手自動車メーカーが積極的に市場参入している。

自動走行に関する各国の取り組みも、ますます活発となった。日本はじめ米国、欧州、中国の自動車メーカーや大手IT企業が技術開発と実用化を競っている。
図表1-2 世界各社におけるEV・シェア・自動走行の取り組み状況
区分 内容
EV
  • 日本の日産自動車、三菱自動車、米国のテスラ、GM、欧州のVW、ルノーなどがEVを販売中。このほかに日欧の主要自動車メーカー各社がEVを開発
  • 中国ではBYD(比亜迪汽車)、北京汽車、上海汽車などがEVを中国で販売中。新興を含め多くの自動車メーカーがEV市場に参入
  • パナソニックとテスラは米国に巨大電池工場「ギガファクトリー」を2020年完成予定。投資総額は地元自治体と合わせて5000億円
シェア
  • 米国発配車サービスUberは世界606都市で利用(2017年時点)
  • 米国GM、Ford、ドイツBMWが2016年にカーシェア事業に参入
  • 中国の滴滴出行(配車サービス)は中国約400都市で展開、Uber中国部門を合併し成長
自動走行
  • 日本ではトヨタ、日産、ホンダのほか、ソフトバンク、DeNAなどが自動走行技術を開発中
  • 米国ではGM、Ford(自動車メーカー)、Uber(配車サービス)、Google(大手IT企業)などが活発に実証実験
  • ドイツのアウディがレベル3機能(条件付運転自動化)を搭載した世界初の乗用車を2017年秋に発売
  • 中国の百度(バイドゥ)が2020年までの完全自動走行と自動運転に関するプラットフォームのオープンソース化を目指す「アポロ計画」を2017年に始動
出所:新経済連盟「ライドシェア実現に向けて」(2016/11、元出所はJuniper Research社)、総務省「平成29年度情報通信白書」、内閣官房「ITS・自動運転を巡る最近の動向」(H29/2)、この他報道記事に基づき三菱総合研究所作成

競争の背景には、2030年までに高度な車載用蓄電池や自動運転システムといったコア技術が出そろうことがある 〔図表1-3〕。

車載用蓄電池について国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の開発目標(2015年作成)では、2030年代にエネルギー密度を5倍、単価を1/7にすることを目指す(※2)。2025年頃にEVの価格がガソリン車並みになるとの米国シンクタンクの予測が(※3)、現実味を帯びてきている。また、自動走行技術に関するロードマップを首相官邸が作成、2025年をめどに高速道路や限定地域でのレベル4(高度運転自動化(※4))が実現するとしている。
図表1-3 車載用蓄電池と自動走行に関する技術予測例
図表1-3 車載用蓄電池と自動走行に関する技術予測例
出所:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「車載用蓄電池分野の技術戦略策定に向けて」p4(2015年)、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部「官民 ITS 構想・ロードマップ 2017」p26(平成29年)に基づき三菱総合研究所作成

自動車からモビリティへ

自動車をIoTネットワークにつなげた「コネクテッド・カー」によって、EV、シェア、自動走行の三つの技術が融合して、付加価値の高いサービスが生まれる。

例えば、EVの自動走行車を用いたライドシェア・サービスである。利用者の申し込みを受け、最寄りの自動走行車が迎えに行き、利用者を目的地まで送り届ける。途中、目的地が近い他の利用客が相乗りしたり、空車になれば充電施設で自動充電したりする。自動走行支援、配車、充電、それぞれのシステムと自動車がIoTでつながりながら、利用者のニーズに合った便利なモビリティ・サービスを提供するのである〔図表1-4〕。

フィンランドの首都ヘルシンキでは 、「Whim(ウィム)」と呼ぶ新たなモビリティ・サービスが2016年に開始された。 利用者がスマートフォンで行き先を入力すると、複数のルートと到着予想時刻、料金(ポイント)が提示される。ルートを選べば、巡回バスやタクシーが家の前まで迎えに来て、地下鉄、トラム、レンタカーなどを同じポイント(課金システム)で乗り継ぐことができる(※5)。

「Whim(ウィム)」のようなモビリティ・サービスはMaaS(Mobility-as-a-Service)と呼ばれる。自動車が鉄道や路線バスなど他の交通機関、小売店やホテル、病院などの施設がIoTでつながることで、利用者のどんな注文にも応えることができ、サービスの可能性が広がる。
図表1-4 EV・シェア・自動走行の融合とMaaSの実現
図表1-4 EV・シェア・自動走行の融合とMaaSの実現
出所:三菱総合研究所

第1回おわりに

EV、シェア、自動走行といった技術進展を契機に自動車が大きく変わりつつある。モノとしての自動車からモビリティ・サービスへの変化である。本コラムの第2回以降では、こうしたモビリティの進化がもたらす社会・産業へのインパクトについて分析していく。

※1将来の技術革新とそれに伴う需要の変化に対応するよう、三菱総合研究所にて総務省「産業連関表」(2011年)を組み替えて構築。今回はEV、シェアリング、自動走行に関わる技術革新と需要変化を想定し、産業ごとの売上額の変化を分析した。

※2例えば、エネルギー密度が高い全固体電池があげられる。トヨタは2020年代前半の実用化、Samsung SDI社は2025年の量産を目指し、開発を進めている。

※3ブルームバーグ社、https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-09/OSOGOO6K50XS01(2017/11/閲覧)

※4レベル4(高度運転自動化):システムが全ての運転タスクを実施(限定領域内)、作動継続が困難な場合に利用者が応答することは期待されない(出所:高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部「官民 ITS 構想・ロードマップ 2017」p5(平成29年)

※5https://time-space.kddi.com/digicul-column/world/20161209/(2018/03閲覧)