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モビリティ進化がもたらす社会・産業へのインパクト 第6回 モビリティが日本人の暮らしを変える

三菱総研「未来の産業連関表」による予測

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2018.5.18

政策・経済研究センター木根原良樹

酒井博司

経済・社会・技術
モビリティ・サービスの充実によって、人々の暮らしがより豊かになる可能性が広がる。

さまざまなモビリティ・サービス

平日の通勤・通学、休日の外出、旅行など、多様なモビリティ・サービスが地域特性に合わせて考えられる〔図表6-1〕。

地方を中心に通勤などに自動車が利用されているが(※1)、交通渋滞のため多くの時間を費やしている。モビリティ・サービス(例えば、EVの自動走行車によるライドシェア)を安価に利用できれば、通勤が快適になる。

東京はじめ大都市では、自動車を保有しない世帯が多く(※2) 、保有する世帯でも週末中心の利用に限られる。もし週末にモビリティ・サービスを手軽に利用できれば、運転免許を持たない高齢者や女性を含め、外出の機会が増え、趣味や娯楽の時間を楽しむことができる。

山あいやその周辺地域などで、いわゆる「買い物弱者」の問題もクローズアップされている。公共交通が不便なため日々の買い物に支障を感じている高齢者であり、日本全国で約700万人にのぼる(※3)。モビリティ・サービスを導入すれば「買い物弱者」を解消でき(※4)、郵便や新聞配達、宅配便にも利用できれば運用コストを下げることができる。

旅行においてもモビリティ・サービスが活躍する。例えば、北海道旅行をスマートフォンから申し込めば、出発地と目的地の自動走行車、鉄道、航空機を全て手配した上、予算と好みに合ったホテルを予約することも容易になる。目的地では、公共交通では行けなかった観光地や飲食店に自動走行車が案内し、大量の土産物は宅配便で自動配送してくれる。モビリティ・サービスによって、旅行がもっと手軽に楽しくなる。
図表6-1 モビリティ・サービス(MaaS)の想定例 

区分 想定例 対象
通勤サービス 出勤場所と出社・退社時刻を含めて事前申し込み。配車サービス会社が調整し、自動走行EVのライド・シェア(相乗り)で出勤と帰宅。渋滞も発生せず、楽に時間どおりの出勤が可能に。 ・自動車通勤者
沿線コミューター 鉄道会社が自動走行EVを運営。学童や高齢者を自宅と駅の間を送迎。グループの小売店や警備会社と連携し、食材配達やリサイクル回収、警備巡回も担う。 ・鉄道沿線住民
外出コンシェルジュ 熟年夫婦が記念日に外出。家に迎えに来た自動走行EVで都心を目指す。車載コンシェルジュ・サービスを利用し、買い物、観劇、夕食を楽しむ。 ・夫婦、家族
買い物弱者支援 市町村が運営する自動走行EVが地域内を定時走行。地域内の高齢者が自宅のAIスピーカーで買い物や通院など用事を告げると、車が家まで迎えに来る。郵便や宅配便、新聞の配達も実施。また、急病時も救急病院まで移送。 ・公共交通が不便な地域の高齢者
旅行コンシェルジュ 北海道旅行をスマートフォンから申し込めば、出発地と目的地の自動走行車、鉄道、航空機を全て手配、ホテルも予算と好みに合わせて予約。目的地では、公共交通では行けなかった観光地や飲食店に自動走行車が案内、大量の土産物は宅配便で自動配送してくれる。 ・荷物が多くなりがちな家族連れ
・運転に自信が無いグループ
・外国人観光客
出所:三菱総合研究所

モビリティ変化による社会課題解決

モビリティ・サービスは、CO2排出、交通事故、交通渋滞といった社会課題の解決につながることが期待される〔図表6-2〕。

日本のCO2排出量は年間2億トン程度であり、乗用車やトラックなどがその16%を占める。EVは走行中にCO2を排出しないため、本格的なEVシフトにより、国全体のCO2排出量を減らすことが可能となる。

日本では交通事故による死者数は年間約4,000人、負傷者数は年間約62万人にのぼり、その削減は重大な社会課題の一つである。交通事故の大半はドライバーの人為的ミスが原因であり、自動走行技術を安全運転に活用することで、人為的ミスの発生を抑え、交通事故を減らすことが期待される。

日本では交通渋滞によって、国民一人あたり年間約40時間を費やしている。その主な原因は、通勤時間帯や行楽シーズンなど交通量の集中である。自動走行技術が進み、交通量に応じて出発時刻や走行速度、ルートを調整・制御、またシェアリングによる通勤時の相乗りや時差通勤が進むことにより、交通渋滞を軽減することが期待される。
図表6-2 自動車に係る日本の社会課題例 

項目 備考 数値 備考
CO2排出量 道路車両部門(2014年) 187百万トン(国全体排出量の16%) *1
交通事故 死傷者(2016年度) 死者3,904人、負傷者61万8,853人 *2
交通渋滞 時間損失 約40時間/人年 *3
出所:[*1]IEA [*2]警察庁「平成29年中の交通事故死者数について」 [*3]国土交通省「交通流対策について」(平成27年3月)

おわりに

モビリティ・サービスは、人々の暮らしを豊かにし、社会課題の解決につながる可能性がある。さらに、より高い付加価値を備えたモビリティ・サービスを、自動走行支援や配車サービス、他の交通機関やホテル、観光案内、小売店、警備会社、病院など、さまざまなサービスを連携させて実現することができる。

トヨタの豊田章男社長は「モビリティ・サービス企業を目指す」と言明した(※5)。中国やシンガポール、フィンランドでは産業政策としてモビリティ変化を強力に推進。モビリティ・サービスは新興国・途上国の経済成長とCO2排出抑制とを両立できる可能性を持つ。

世界で進む技術のイノベーションを契機に、日本における産業のイノベーション、社会のイノベーションを興していくことが望まれる。

※115歳以上自宅外就業者・通学者(5,842万3千人)のうち、自家用車を利用する者は46.5%である。〔平成22年国勢調査〕

※2自家用乗用車(軽自動車を含む)の1世帯あたり保有台数は、全国平均は1.06台であるが、東京都は0.445台である。〔自動車検査登録情報協会調べ、平成29年〕

※3経済産業省プレスリリース「買物弱者問題に関する調査結果をとりまとめました」(平成27年4月)

※4政府が全国13箇所で公道実証プロジェクトを主導(自動走行公道実証プロジェクト「中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービス」)

※5トヨタ2018年1月9日付リリース(https://newsroom.toyota.co.jp/jp/corporate/20566891.html