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モビリティ進化がもたらす社会・産業へのインパクト 第4回 モビリティが世界の持続的成長を支える

三菱総研「未来の産業連関表」による予測

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2018.4.24

政策・経済研究センター木根原良樹

酒井博司

経済・社会・技術
今後は新興国、そして途上国が経済成長していくと期待される。世界の持続的成長のために、これらの国々においてモビリティ拡大と社会課題解決との両立を図ることが重要となる。

モビリティが経済成長を支える

世界のGDPは現在年間約70兆ドルであり、OECDの予測によると、2030年に約110兆ドル(現在の約1.6倍)、2050年には約180兆ドル(約2.5倍)に成長する(※1)。こうした経済成長をけん引するのは、中国、インド、インドネシアなどの新興国、そしてナイジェリアやサウジアラビア、パキスタンなどの途上国である。

世界各国では経済成長に伴いヒトの移動距離が増えてきた〔図表4-1〕。自動車による移動距離は、先進国では年間1万キロ前後に達した後、比較的安定しているが、新興国では経済成長に伴って増加中であり、途上国では今後大きく増加すると予測される。
図表4-1 世界各国における1人あたりGDPと自動車走行キロの推移(1970~2015年)
図表4-1 世界各国における1人あたりGDPと自動車走行キロの推移(1970~2015年)
注1:自動車走行キロは、国内旅客輸送における乗用車・バスなど自動車部門による輸送量
注2:日本は1970~2009年、中国は1990~2015年、韓国は2001~2015年、なお米国は統計方式の変更があっためデータが不連続となっている
出所:自動車走行キロ(International Transport Forum調べ)、名目GDP(IMF調べ)、人口(IMF調べ)のデータを用いて三菱総合研究所作成

モビリティ発達と社会課題克服との両立

かつての先進国と現在の新興国では、経済成長に伴って自動車の保有台数が増加した。その結果、CO2排出や交通事故、渋滞といった社会課題に直面している〔図表4-2〕。世界の道路車両部門のCO2排出量は年間約57億トンと全体の約17%を占め(IEA調べ、2014年)、交通事故死者は年間約125万人にのぼる(WHO調べ、2013年)。また、世界中の都市では交通渋滞に多くの時間が費やされている(※2)。
図表4-2 自動車によるCO2排出量・交通事故・渋滞の状況
図表4-2 自動車によるCO2排出量・交通事故・渋滞の状況
出所:各機関データに基づき三菱総合研究所作成
新興国や途上国で、経済成長に伴い従来どおりのペースで自動車(エンジン車)の保有が進むと、世界の保有台数は現在の約10億台から2050年にはおおむね30億台に増加する。その結果、世界で自動車から排出されるCO2は約92億トン(現在の世界全体排出量の約28%に相当)増加し、COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択されたパリ協定の目標「2100年にはCO2排出量をゼロまたはマイナス」の達成が危うくなる。

世界の持続的成長の視点から、新興国や途上国における経済成長とCO2排出抑制との両立が求められる。そこで、新興国や途上国はじめ世界各国でエンジン車の代わりにモビリティ・サービス(EVの自動走行車によるシェア)を導入することで、CO2排出を抑制しつつ経済成長を実現することが期待される。

エンジン車が普及途上にある国ほど、モビリティ・サービスを新たに構築することができ、普及が進む可能性がある。2050年時点で、モビリティ・サービスがインドと途上国で100%、中国と新興国で75%、先進国で50%に普及すると仮定すれば、世界の保有台数は現在と同じ10億台規模に維持される。EV化とともに低炭素発電の導入(※3)を進めることで、自動車によるCO2排出量を世界全体で現在よりも約1,000万トン削減できる〔図表4-3〕。

多くの新興国、途上国においては、太陽光、太陽熱、風力などの再生可能エネルギーが利用可能である。モビリティ・サービスと再生可能エネルギーの導入を同時に進めることで大きなCO2削減を期待できるのである。
図表4-3 二つのケースにおける世界自動車保有台数とCO2排出量の予測(~2050年)
図表4-3 二つのケースにおける世界自動車保有台数とCO2排出量の予測(~2050年)
*1:各国の自動車保有率(OICA調べ、2015)と1人あたり名目GDP(IMF調べ、2016)から関係式を作成の上、主要国のGDP予測値(Pwc調べ、2015)を用いて三菱総合研究所試算
*2:IPCC/AR5(2013)の中位安定化シナリオ(RCP4.5)を採用し、低炭素発電(再生可能エネルギー、原子力、CCS)の割合が現状約30%から2050年約70%へ増加すると仮定し三菱総合研究所試算
出所:三菱総合研究所

第4回おわりに

世界の持続的成長の視点から、新興国や途上国の経済成長を実現しつつCO2排出量を抑制することが国際社会にとって重要な課題である。

新興国や途上国を含む世界各国でモビリティ・サービスの導入を進めることは、解決策の一つになり得る。途上国では、固定電話が整備されずに携帯電話が普及したように、エンジン車の普及を飛び越してモビリティ・サービスの導入が進むことには、十分現実味があろう。

※1OECD, “Economic Outlook No 95 - May 2014 - Long-term baseline projections”

※2INRIXによると、交通渋滞に費やす時間(2016年)は、ロサンゼルスで年間104時間、モスクワで91時間、ニューヨークで89時間である。(http://inrix.com/scorecard/

※3ここでは、IPCC/AR5の中位安定化シナリオ(RCP4.5)を採用し、低炭素発電(再生可能エネルギー、原子力、CCS)の割合が現状の約30%から2050年に約70%に増加すると仮定した。