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MRIエコノミックレビュー経済・社会・技術

モビリティ進化がもたらす社会・産業へのインパクト 第3回 社会が自動車を変える

三菱総研「未来の産業連関表」による予測

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2018.4.19

政策・経済研究センター木根原良樹

酒井博司

経済・社会・技術
世界では環境意識の高まりやシェアリング・エコノミーの台頭などで、市民の価値観が変わりつつある。こうした変化が自動車のあり方に影響を及ぼす。

またEV充電のための電力インフラ、自動車がIoTでつながるための通信インフラなど、自動車が変わるには社会インフラの高度化が不可欠である。

市民の価値観がモビリティ変化を加速

1980年代、都市中心部での渋滞や大気汚染を緩和するため、欧州を中心にパーク&ライド(最寄り駅の近くの駐車場に自動車をとめた後、公共の交通機関を利用すること)の導入が進んだ。近年ではフランスのストラスブールや富山市のLRT(路面電車)導入が有名である。社会課題に対する市民意識の高まりが、自動車のあり方を変えた事例である。

先進国の都市部では自動車の保有率が低下している。例えば日本の1世帯あたり普及率は、福井県などでは2台/世帯に近いが、東京都では2005年に0.54台/世帯、2017年に0.45台/世帯と、減りつつある。〔図表3-1〕

世界中でライドシェアを受け入れる意向を示す市民が増えている。総務省の調査(2016年)によるとライドシェアの利用意向は、中国、インド、韓国が全世代平均で7割以上、20代・30代に限れば、米国、英国、オーストラリア、ドイツでも5割を超える。〔図表3-2〕

このように、自動車は保有し運転するモノから、一つの移動手段として選択するコトへと変化しているのである。
図表3-1 わが国での自家用乗用車普及率の推移(2005~2017年)
図表3-1 わが国での自家用乗用車普及率の推移(2005~2017年)
出所:一般財団法人自動車検査登録情報協会のデータを用いて三菱総合研究所作成
図表3-2 各国市民のライドシェア利用意向(2016年)
図表3-2 各国市民のライドシェア利用意向(2016年)
出所:総務省「平成29年度版情報通信白書」のデータを用いて三菱総合研究所作成

電力インフラがモビリティ変化を支える

エンジン車からEVへのシフトが本格化すると大量の充電が必要となる。充電がいちどきに集中すると電力需給バランスが崩れ大規模停電を引き起こすおそれがある。

仮に日本で現在の自動車保有台数の1/3がEVになるとして、充電に必要な電力量を試算したところ、年間約320億kWh(※1)となった。これは日本全国の発電量の約3.6%に相当する。充電のタイミングが集中しなければ問題ないが、例えばEVの1割が同時に急速充電(30分間)すると、現在の電力供給量を超える計算となる。〔図表3-3〕

そのため、EVの充電がいちどきに集中しないよう制御するシステムの開発・実装が不可欠となる。全国のEVをIoTでつなげ、電力需給状況に応じて、EV保有者に充電の時刻を推奨したり、充電速度を自動制御したりする。

一方、電力需給ネットワークにEVを組み込むことで、夜間電力を有効利用したり、太陽光発電や風力発電の供給変動を吸収したりする役割もEVに期待される。

急速充電方法CHAdeMO(※2)を推進してきた日本が、EV充電分散化システムの開発・普及をリードすることが期待されており、EVを電力需給ネットワークに組み込む実証実験も始まっている(※3)。
図表3-3 現時点での自動車保有台数の1/3がEVと仮定した場合に充電に必要な電力 (充電の分散・集中による違い)
図表3-3 現時点での自動車保有台数の1/3がEVと仮定した場合に充電に必要な電力 (充電の分散・集中による違い)
出所:三菱総合研究所(EV充電に必要な電力は前掲の年間電力量約410億kWhを配分計算したもの)、最大電力発生日のピーク電力の例は電気事業連合会による(※4)

通信インフラがモビリティ変化を支える

IoTでつながるコネクテッド・カーでは、自動車とクラウド・サーバーやGPS衛星との通信に加え、車と車、車と道路インフラとの通信が行われ、第五世代次世代移動通信(5G)(※5)がその役割を担うことが期待されている〔図表3-4〕。

5Gは、スマートフォンやタブレット端末のほか、自動車、産業機器、ホームセキュリティ、スマートメーターなど多分野での利用が想定されている。2020年の5G実現に向けて、ITU(国際電気通信連合)や日本、米国、欧州、中国、韓国からなる3GPP(※6)などにおいて標準化活動が本格化している。

5Gの自動車への適用については、2016年9月にドイツのアウディ、BMW、ダイムラーや通信機器・半導体メーカーが、コネクテッド・カーのサービス開発で連携する5GAA(5G Automotive Association)を設立、翌年3月に5GAAと欧州自動車通信連合が提携覚書に調印している。

日本では自動車の通信としてカーナビゲーションやETC(※7)、VICS(※8)などが独自の発展をしてきたが、自動車分野での5G利用については国際的な標準化が進むと考えられる。
図表3-4 コネクテッド・カーと次世代移動通信5G
図表3-4 コネクテッド・カーと次世代移動通信5G
出所:総務省「2020年に向けた5GおよびITS・自動走行に関する総務省の取組等について」(2017年6月)を参考に三菱総合研究所作成

第3回おわりに

モビリティの変化は、シェアリング・エコノミーや社会課題に対する意識の変化に伴って進展する。一方、EVや自動走行、モビリティ・サービスが機能するには、電力や通信インフラの高度化が必要となる。

本格的なモビリティ・サービスは、EVや自動走行といった技術に加え、市民の利用意向や電力・通信インフラといった社会の変化がいち早く起こる国や地域で、進展していくと考えられる。

※1自動車の年間走行距離約9,400km、電費7.5km/kWhの条件で算出。年間走行距離は、国土交通省「平成28年度自動車燃料消費量調査」による貨物・旅客合わせた年間走行キロ7,211億km(平成27年度)、自動車検査登録情報協会調べによる保有台数7,635万台(平成29年8月)を用いて算出。

※2電動車両の急速充電方法の一つ。日本の企業が協議会を設置し普及推進、2014年にIEC(国際電気標準会議)により国際標準として承認された。

※3関西電力、住友電気工業、日産自動車が、EVの充電を遠隔制御して一つの発電所(仮想発電所)のように機能させる実験を開始(2018/1)。http://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2018/0111_2j.html(2018/01閲覧)

※4http://www.fepc.or.jp/enterprise/jigyou/japan/sw_index_05/(2017/11閲覧)

※5現在の移動通信システムは「第四世代」であり、その次世代を担う意味で「第五世代」と呼ばれる。

※63GPP(3rd Generation Partnership Project)は、3G、4G等の仕様を検討・開発し、標準化することを目的に日本、米国、欧州、中国、韓国の標準化団体が1998年に設立。

※7 自動料金支払いシステム

※8道路交通情報通信システム