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2017年4月号特集人材

女性市場が変わる─女性の変化は社会変革の好機

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2017.4.1
人材

POINT

  • 働く女性が増加しライフコースの多様化が進む。
  • 女性市場の変化は「成長」「錯覚」「変質」で捉える。
  • 女性の消費行動が起点となって社会を変革する。

1.ライフコースの変化で生活が変わり消費も変わる

消費市場で存在感を増す「働く女性」

総務省の統計によれば、2015年の労働力人口は、2011年と比べ男性が66万人減ったのに対し、女性は74万人増えた。国税庁の調査でも、女性の所得シェアは1990年の21%から2015年の27%へと高まっている。また、夫婦世帯においては「商品の購入決定権が自分にある」とする割合は妻の方が夫より高い※1。年収にかかわらず、男性より女性の消費性向(消費支出/可処分所得)が高いことも、総務省調査から明らかである。働く女性の増加で消費市場における女性の存在感が高まりを見せている。

ライフコースの多様化が進む

かつては多くの女性が、学校を卒業後、就職し、結婚や出産を機に家庭に入り専業主婦になるというライフコースを歩んだ。しかし今日は、就業を続ける女性や一度退職しても復職する女性が増えてきた。未婚化・晩婚化も進み、「生涯シングル」、あるいは子供をもたない「生涯DINKS」という選択も増えている。例えば1971年から1974年までに生まれた団塊ジュニア世代の女性を見てみよう。2015年時点で41~44歳となった彼女らの38%は専業主婦だが、結婚をしていないワーキングシングルが21%、子供をもたないDINKSが8%、働きながら子育てを続けるワーキングマザーが15%とライフコースの多様化が進む。

ライフコースが変化すると、生活が変わり消費も変わる。例えばライフコースによって消費行動を規定する二つの生活資源(①経済的資源、②時間的資源)の質と量が大きく異なる。図1は時間的資源と経済的資源の2011年から2015年までの推移をライフコース別に捉えたものだ。時間的資源とは時間的ゆとりが「かなりある」「ある程度ある」と回答した人の合計である。同じく経済的資源は、経済的ゆとりが「かなりある」「ある程度ある」と回答した人の合計である。これを見るとライフコースによって各資源の保有状況はまったく異なり、しかもその格差は5年間で広がろうとしている。ワーキングシングルは正規雇用、非正規雇用ともに時間的ゆとりが低下した。非正規雇用は経済的ゆとりも下げており、正規雇用との差が広がる。ワーキングマザー(正規)の時間的ゆとりは専業主婦の半分程度である。しかし彼女たちの経済的ゆとりは高く、しかも専業主婦やワーキングマザー(非正規)との差が広がる。また、DINKS(正規)は時間的ゆとり、経済的ゆとりともに大きく高めた点が注目される。

このように、働く女性が増加する中で、女性市場は、単に年代や世代による分析だけでなくライフコース視点でのマーケティングが必須になってきた。
[図1]ライフコースで異なる時間的・経済的ゆとり

2.女性市場の変化は「成長」「錯覚」「変質」で捉える

三菱総合研究所は変わりゆく女性市場の動向を把握するため、「生活者市場予測システム(mif)」のデータを用い、女性(20~59歳)約1万2,000サンプルを対象に2011年から2015年までの意識変化を追った。調査では、女性を四つのライフコース(ワーキングシングル、DINKS、ワーキングマザー、専業主婦)に分け、さらに就業者を雇用形態(正規・非正規)で分類し、きめ細かな仮説設定と検証を心がけた(図2)。また、シニア(60歳代)の女性や男性(20~59歳)との比較分析も行った。

その結果、「働く女性」市場で起こりつつある三つの方向性が明らかになった※2

[図2]女性(20〜59歳)のライフコース別構成比(2015年)※1と人口推計(2020年)※2

成長─「オトコ」市場を女性が拡大

「若者の○○離れ」といわれる現象の一つに「ビール離れ」がある。事実、ビール類の出荷は12年連続で減少している。しかし第一線で働くワーキングマザーのビール飲酒割合※3は45%と、2011年から4ポイント増え、男性全体の48%に肉薄する。ワーキングシングルがひとり飲みする割合※4も10%と、2011年から4ポイント増え、ほぼ10人に1人が実践する。ウコンエキスの摂取率もDINKSで24%と、男性全体の14%を大きく上回る※5。これまで「男性向け」と思われていた市場で女性の存在感が増し、停滞が予想されたマーケットが再び活性化し、「成長」へと向かう。そんな市場の変化が今、起きつつある。若者のクルマ離れがよく話題となるが、実は20~30代女性のマイカー保有率は伸びている。

「男女の違い」は従来の「男らしさ、女らしさ」という固定観念が形作ってきたものだ。ビールやクルマ市場に華麗に躍り出た女性たちを見ていると、もはや垣根自体が消滅しようとしていることがわかる。

錯覚─「従来」の女性市場が縮小を始めた

一方、化粧品やファッション、旅行・レジャーなど、従来は女性が主導するといわれてきたマーケットが伸びていない。特に深刻なのがワーキングシングルで、化粧品にかける年間費用は37,800円と2011年から11,400円減少した(女性全体は6,000円減)。外出用の衣類にかける年間費用も36,700円と2011年から9,200円減った(女性全体は4,800円減)。また、「カワイイ」「流行の」といったステレオタイプな女性像が通用しなくなった。例えば、ファッションの選択基準について「衣類は気に入ったものであれば、多少高くても購入する」(2015年42%、8ポイント減)、「ファッションは、カワイイものを選ぶ」(同28%、7ポイント減)の回答が減っているのに対し、「冬は防寒性、夏は吸汗速乾性のよい衣類を着る」(同58%、1ポイント増)は増えた※6。女性の消費はより実質志向へとかじを切り、「趣味はショッピング」とする割合はワーキングシングル全体で57%から46%と11ポイントも減った。

貯蓄の目的も変わった。ワーキングシングルでは結婚資金が27%から19%へと8ポイント、レジャー資金が38%から29%へと9ポイント減少した。代わって増えたのが、老後の生活資金で54%と2011年より5ポイント増となった。このように未婚化・晩婚化が進む中、ワーキングシングルの関心は、今を「楽しむ消費」から、将来への不安に「備える消費」に変わろうとしている。例えば、金融商品では、明治安田生命保険が2016年10月に発売した、若者向けの貯蓄性商品「じぶんの積立」が好調だ。発売2カ月で12万件を記録した。

自己啓発にも熱心である。ワーキングシングルが今後学びたいとする分野は「ビジネス関連」が60%と、「趣味関連」の54%を上回る。他のライフコースでは「趣味関連」がトップになっており、それとは対照的だ。アフターファイブにショッピングを楽しむ独身女性というのはもはや「錯覚」にすぎない。

変質─女性市場の「主役」が変わった

ワーキングシングルの消費が低迷する中、「主役」交代が起こり、女性市場が「変質」しようとしている。活躍するのがワーキングマザーとDINKSである。

仕事に子育てにと多忙を極めるワーキングマザーのコンビニ利用が増えている。ワーキングマザーがコンビニを「週に1回以上利用する」割合は、2015年で57%と2011年より5ポイント増加した。彼女たちは豊富な経済的資源を活かし「時間をお金で買う」消費を牽引する。一方、ワーキングシングルはコンビニの割高感を嫌ったのか「週に1回以上利用する」割合は6ポイント減り、57%となった。コンビニの利用層は、シングルからワーキングマザーに代わろうとしている。

ワーキングマザーは休日もアクティブだ。余暇活動として「遊園地やテーマパークなどのレジャー施設」を挙げるワーキングマザーは、28%から32%へと5年間で4ポイント増えた。一方、ワーキングシングルは、27%から24%と5年間で3ポイント減っている。この他に「カフェや喫茶店」「スマートフォンなどでのゲーム」「インターネット通販」でもワーキングマザーの利用率が最も高い伸びを示す。

また、コト消費を牽引するのが時間的ゆとりと経済的ゆとりの両方を高めたDINKSだ。特に旅行には熱心で、DINKSで海外旅行に「年1回以上」行く割合は16%(女性全体は9%)、宿泊を伴う国内旅行に「年2回以上」行く割合は38%(女性全体27%)に達する。さらに、これまでシニア女性が得意としてきた「ハイキング・登山」「ウオーキング」「温泉」の領域でも、シニア女性とDINKSの実施率に逆転が起こった。

以上が「成長」「錯覚」「変質」という三つの視点で捉えた女性市場の変化である。さらに、女性市場の未来を捉えるため、四つ目の視点として「予兆」を用意した。「今はやれていないが、これからやりたいこと」という潜在需要を「予兆」と捉え、女性市場の未来を描いた。詳細は省くが、「IoT家電を使った家事の時短」「ワーキングマザーの“おうちでひとり時間”演出」「ワーキングシングルの手作り願望支援」など未来の女性のライフコース別消費行動を方向付けるキーワードを抽出した※7

3.女性の変化を社会変革の起爆剤にする

企業は、女性市場で起こりつつある消費の新しい鼓動をキャッチし、マーケティングを革新することが求められる。一方で女性の消費行動の変化は、女性を取り巻く人間関係に影響を及ぼしつつ、社会全体を変えようとしている。

働く女性が増えることで、その意識や行動は「男らしさ、女らしさ」という性別や年代の垣根を越えて変わりはじめた。見逃せないのは、この変化が社会全体へと広がろうとしている点だ。例えばDINKSの夫は、家事に積極的である※8「男性の家庭進出」が増えていけば、職場の時短化も進む。また、ワーキングマザーの子育てには、近くに住む親が支援に乗り出しており※9、孫を生きがいとする元気なシニアが増えた。女性の社会参加が、家族との新しい関係を生み、女性のさらなる社会参加を促進する。女性の変化が、この好循環を生む起爆剤となることを期待したい。

※1:文中のアンケート結果は特に断りのない限り「生活者市場予測システム(mif) 」(2015年)の値に基づく。

※2:本稿では主に「正規雇用」女性の変化を中心に紹介する。

※3:月1回以上お酒を飲む回答者のうち、ビールを「非常によく飲む」「よく飲む」の合計。

※4:月1回以上お酒を飲む回答者のうち、現在「外で一人でお酒を飲む」で「あてはまる」「ややあてはまる」の合計。

※5:「飲酒の前後に、ウコンエキスやシジミ汁などを摂取する」で「あてはまる」「ややあてはまる」の合計。

※6:「あてはまる」「ややあてはまる」合計 。

※7:三菱総合研究所編『女性市場攻略法~生活者市場予測が示す広がる消費、縮む消費』日本経済新聞出版社、2017年。

※8:DINKSで「家事は家族で必ず分担する」に「あてはまる」「ややあてはまる」の合計割合は5年間で5ポイント増加し、43%に達する。

※9:親が健在で15歳以下の子どものいる母親に、親の子育て支援の有無を聞いたところ、ワーキングマザー(正規)で「いつも子どもの面倒を見てもらっている」「必要な時には、子どもの面倒を見てもらっている」の合計割合は69%と、5年前と比べて3ポイント増えた。