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2019年6月号トピックス3ヘルスケア・ウェルネス

認知症予防に有効な社会参加システム

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2019.6.1

未来構想センター川崎 祐史

ヘルスケア・ウェルネス

POINT

  • 認知症の根本的な治療が可能となるのは20~30年後と思われる。
  • 当面は予防強化が現実的であり、高齢者の社会参加が有効との統計あり。
  • コーディネーターと社会参加促進のバーチャルな仕組みが不可欠。  
すでに世界最多の水準*1にある日本の認知症患者数は2025年に約700万人と、65歳以上人口の5分の1に達する見込みだ*2。対策は待ったなしである。しかし、認知症で最も患者が多いアルツハイマー型の治療薬開発はここ数年、臨床試験で薬効が確認できず中止が相次いでいる。認知症の根本的な治療が可能となるのは20~30年後と思われる。

当面は、予防の強化に努めることが現実的な策と考えられる。そうした中、発症リスクを高める要因が統計的手法により明らかになってきた。世界的な権威が集まるランセット委員会*3の2017年報告によると、認知症の約35%は九つのリスク(図)を抑制すれば予防できる可能性がある。このうち、高齢期の社会的孤立と運動不足への対策は、10年後には高齢者世帯の4割近くが一人暮らしとなる日本において重要と言えよう。

こうしたリスクの低減に効果的な高齢者の社会参加システム構築が、全国各地で始まっている。先駆的な例としては、千葉県柏市・UR都市機構・東京大学が2010年から同市内の団地で進めてきた就労促進事業がある。高齢者が健康づくりや生きがい創出を主目的に、居住地の近くで無理なく働く取り組みである。新規に用意された都市型農業や学童保育、介護補助などに従事した高齢者からは「生活によい緊張感ができた」「人との交流が増えた」などの回答が寄せられた。「柏モデル」の立役者は、連絡調整や労務管理などを行うコーディネーターであった。高齢者本人と、地場企業や社会福祉法人といった事業主との希望を丁寧にマッチングさせたほか、社会参加のきっかけづくりやその後のコーチングなどでも活躍した。

さらに今後は、社会参加を促すバーチャルな仕組みも大いに役立つ。例えば、コミュニティー独自の話題を提供する地域SNSや、特定のイベントに出席すれば特典が得られる仮想的な地域ポイントなどだ。ICTやAI技術を活かすことにより小まめなきっかけづくりの仕掛けができれば、認知症を防止する一手にもなりうるはずである。
[図]認知症の発生に対する各リスク因子の影響度

*1:経済協力開発機構(OECD)の『図表でみる医療 2017』によれば、2017年時点で日本の認知症患者数は1000人中23.3人と、加盟国中1位。

*2:厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」による推計。

*3:英国の医学雑誌「The Lancet」の認知症予防・介入・ケアに関する国際委員会。

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