マンスリーレビュー

2019年6月号トピックス4ヘルスケア

栄養表示の義務化がもたらす新たな食・健康ビジネス

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2019.6.1

地域創生事業本部葦津 紗恵

ヘルスケア

POINT

  • 加工食品の栄養表示が全面義務化。消費者の「栄養摂取」意識も高まる。
  • スマホアプリやAIの進化で、よりパーソナルな栄養管理も可能に。
  • 栄養と健康情報の蓄積が社会課題解決型ビジネス・研究の進展に寄与。  
2020年4月、ほぼ全ての加工食品で栄養表示が義務化※1される。生鮮食品の食品成分表と組み合わせて、どのような食事から、どのような栄養をどの程度とったのかを消費者自らが把握可能になる。あらためて、食事の「栄養摂取」という側面に注目が集まりそうだ。

今回、義務化される表示は、カロリー、タンパク質、脂質、炭水化物、ナトリウム(食塩相当量)といった生活習慣病の予防につながる5項目である。適切な情報開示により、消費者の食生活改善による生活習慣病の予防、ひいては医療費の削減効果も見込まれる。最近では、日々の食事内容を記録し、カロリーやPFCバランス(タンパク質、脂質、炭水化物のバランス)を自動計算してくれるスマホアプリも提供されており、こうしたサービスが情報の活用を後押しすることが期待される。

しかし、「100グラム中の食塩相当量0.3グラム」など細かな数字を毎食の調理のたび、いくつもチェックするのはしんどい。スマホアプリを使用しても、「入力の手間」「分かることの少なさ」「継続の難しさ」といった壁に直面する。課題はまだまだ多い。

ただし、加工食品の写真から商品を判定して栄養データを自動入力するような機能が普及すれば、日々の栄養管理の作業負荷は軽減される。AIチャットボットが進化すれば、糖尿病、貧血などの食事習慣と密接に関係するパーソナルな病気に関するアドバイスも可能になる。利用者一人ひとりのニーズに合った栄養管理が実現すれば、少数派のニーズが主役の「ロングテール」型※2の栄養管理の実現が近づくのではないか。

超高齢社会を迎えるにあたり栄養管理へのニーズは確実に増すと見られる。当社調査※3によれば「健康のために栄養バランスの良い食事をしたい」と考える消費者は約7割で、高齢者ほど増加する傾向がある(図)。スマホアプリやAIの普及に伴い、栄養摂取と健康に関連するビッグデータが蓄積されれば、個人の生活習慣に即したアドバイスが的確になり、健康経営や健康寿命の延伸などに寄与する多様な社会課題解決型ビジネスが発展する可能性が高まる。

※1:加工食品の栄養表示の義務化猶予期間が2020年3月に終了。

※2:満たされるニーズの種類を多く取りそろえることにより、個別ニーズをもつ消費者が少なくても、全体として多くの消費者のニーズを満たす。

※3:三菱総合研究所「生活者市場予測システム (mif) 」による調査。
対象:日本全国の20~69歳の男女
サンプル数:3万人
調査時期:2018年6月
調査方法:インターネット調査

[図]栄養バランスを考えた食事をとりたい消費者の比率