マンスリーレビュー

2019年6月号

MRIマンスリーレビュー2019年6月号

2019年6月号 巻頭言「科学者としての矜持」

研究理事 亀井 信一
時の流れは連続というが、区切りをつけるというのは、人間の知恵の一つなのかもしれない。これまでの悪しき部分を改め、次の時代を新たに創り上げる絶好の機会を与えてくれる。ちょうど、わが国の科学技術基本計画も次期計画策定に向けて見直しの時期を迎えている。

日本人は、熱しやすく冷めやすいといわれる。また、付和雷同的な性格も持ち合わせている。普遍的な価値創造を目指す科学技術の分野でもその特質が顔をのぞかせることがある。過去には、何度か「ブーム」と呼ばれたムーブメントがあった。「超伝導」「ナノテクノロジー」そして「人工知能」などである。それらは、基本計画において、その都度重要課題に書き加えられてきた。その結果、これらのキーワードを無理をしてでも提案書の中に盛り込まないと研究資金が取れないというおかしな現象が起きた。

ところが、注目された技術の新聞掲載記事数の時間的な推移をみると、どれも似たような様相を示すことが分かった。すなわち、突如として記事数が増え、ピークを打った後に急速に減少していく。そのことの繰り返しである。

注目すべきはそのブームの長さである。解析的には記事数のピークの半分のところの期間が代表値として採られる(半値全幅という)。過去の例でいうと、前回の人工知能のブームのときの半値全幅は4.3年、超伝導で3.0年、ナノテクノロジーは多少長く5.0年であった。ブームを受けて重要課題に設定しても、基本計画の期間である5年間の終盤ではすでにブームは去りつつあり、それを待たずに次々と新しい技術が生まれてくる。

次期基本計画では、何を優先課題とすべきか。ブームに踊らされることなく技術の本質を見極め、粘り強く議論することが必要だ。これこそわが国が育んできた科学技術に向き合う姿勢であり、わが国復活の鍵でもある。日本の科学技術者としての矜持を示したい。
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