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2020年12月号トピックス5経済・社会・技術スマートシティ・モビリティ

リモートワークが真価を発揮するには

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2020.12.1

キャリア・イノベーション本部奥村 隆一

経済・社会・技術

POINT

  • リモートワークの浸透によって企業活動にパラダイムシフトの兆し。
  • 自律分散・協調型の働き方の実現を目指して全方位の組織・業務改革を。
  • バーチャルオフィス実現がホワイトカラーの生産性を劇的に改善。
コロナ禍は、企業活動にパラダイム転換を促しつつある。一部のホワイトカラーの職場で在宅勤務などのリモートワークを活用することにより、全員が出社しなくても企業活動に大きな支障は生じないことが実証され始めたからである。しかし経営陣は、リモートワークが、長期的な組織のパフォーマンス、すなわち、新たな価値創出や相互信頼・組織風土づくり、人財育成などに悪影響を及ぼさないかを懸念している。この点を乗り越えられるかが、魅力的な会社を維持できるかどうかの分かれ目だろう。

その際にポイントとなるのは、「自律分散・協調型の働き方」「バーチャルテクノロジーの活用」による価値の創出であろう(図)。

自律分散・協調型の働き方を実現する難度は高い。全方位での組織・業務改革が求められるからである。具体的には、職務の明確化や一般社員への権限委譲などの個の自律化と組織のフラット化、通信環境を含む自宅の就業環境と職場コミュニケーション環境の整備、業務のペーパーレス化などが不可欠となる。

もう一つは、進化するバーチャルテクノロジーの活用による信頼と風土づくり、人財育成、セレンディピティ※1の実現である。仮想空間での十分な就労達成には、まだまだ技術進化とノウハウ蓄積が必要だが、米国のAutomattic社や日本のソニックガーデンのように、物理的な「本社オフィス」のない企業がすでに出始めている。クラウド上のバーチャルオフィスに日々、自分のアバター(分身)が出勤(アクセス)する時代※2はそう遠くないかもしれない。そうなれば現在のリモートワークと比べてもリアルなコミュニケーションを図りやすく、信頼感をベースとした職場風土を醸成しやすい。さらに、AIによる定型業務の自動化やDX化とも相性が良いため、長らく日本経済の課題の一つとされてきたホワイトカラーの生産性を劇的に改善する可能性がある。
 
社員の意欲と企業価値の双方を維持・向上させる具体的な方策を、速やかに策定・決定・実行できるか否かが、新常態(ニューノーマル)下における持続的な企業経営にとって重要な分岐点と思われる。

※1:予測していなかった偶然によってもたらされた幸運を指す言葉で、イノベーションを起こす条件ともされている。

※2:空間に縛られない働き方が定着すれば、企業は地方に住む優秀な人財の採用も視野に入れられる。何より、デジタルネイティブの若者はこのような柔軟な働き方になじみやすく、かつ、意向が高い。ESG経営などの非財務的価値の重視の流れとも符合する。

[図]リモートワークが真価を発揮するための二つの視点

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