マンスリーレビュー

2020年12月号トピックス4デジタルトランスフォーメーション

「想定外」に強い行政を実現するには

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2020.12.1

先進技術センター武田 康宏

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • コロナ禍で「想定外」に対する日本の行政の弱さが改めて顕在化。
  • 科学的で柔軟な意思決定プロセスと透明性の確保が不可欠である。
  • 切迫感を背景とするデジタル化も活かしてハードルを乗り越えよう。
コロナ禍は、東日本大震災のような「想定外」の事態で指摘されてきた、日本の行政の弱さを改めて顕在化させた。初動の遅れや方針のブレが目立った※1ものの、現時点まで大規模な医療現場崩壊などが起きていないのは、偶然の産物にすぎないといえよう。

想定外の事態においては、状況変化を捉えながら迅速に対応することが求められる。特に行政に不可欠なのは、過去の教訓を活かしつつも、さまざまな情報や状況変化に応じて、科学的アプローチに基づく策を柔軟に打っていける意思決定プロセスの整備、そして情報公開を通じた透明性確保の二つである。ここでいう「科学的」とは、目的設定からデータ収集、仮説構築、分析、検証を通じた解の立て方を意味する(図)。

各行政組織が検証チームを常設して政策の結果からの学習と立案への示唆を行えるようになれば、将来の想定外への備えにもなる。さらに透明性も示し続ければ政策への国民の納得感は増し、行政のトライ&エラーに理解ある社会の構築にもつながる。

コロナ禍をめぐっては感染拡大防止策として布マスク配布が打ち出されたものの、実際に行き渡るまで時間を要し、批判も招いた。全戸2枚配布という結論に至る思考や判断の過程に加え、サプライチェーンの状況や調達価格、配布コストも公表されるべきであった。こうした教訓は、科学的アプローチの起点となりうる。

行政に限らず、組織が想定外の事態を乗り越える上でハードルはいくつか存在する。属人性に左右されがちな有事のリーダーシップ、同調圧力の強い日本の文化性、迅速さを阻む縦割りの組織体系、などが挙げられよう。リーダーシップ性や文化性については一朝一夕の解決は困難である。しかし、組織の課題は、想定外に備えて横断的に情報を収集・蓄積・公開して実際の対策に当たるインテリジェンス機関の創設や、すでに創設に向けて始動しているデジタル庁の実現によって、解決に向かうと期待できる。

コロナ禍による切迫感は、DXを10〜20年進めたといわれている。これは好機でもある。行政においてもデジタル技術の活用を通じ、科学的で柔軟性のある意思決定プロセスの実装を加速させれば、想定外自体を減らすこともできるであろう。

※1:2020年1月16日に国内で新型コロナウイルス感染症の初症例を確認してから緊急事態宣言の発令までに約2カ月半を要した。また、2月時点で多くの国が実施していた中国からの入国制限を日本政府がかけたのは3月9日であった。

[図] 想定外での意思決定プロセスと情報透明性