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新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言経済・社会・技術スマートシティ・モビリティ

ポストコロナを俯瞰する その3:コロナ危機を契機とした地方創生推進のポイントは?

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2020.11.30

キャリア・イノベーション本部奥村隆一

新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言

「変わらない」日本が直面している課題とポストコロナ時代

令和という新時代を迎えたにもかかわらず、日本はいまだに昭和の残滓(ざんし)を引きずっている。戦後の人口ボーナス期に適正化された社会の仕組みを、高度経済成長やその後のバブル経済という成功体験が足かせとなって変えられずにきた。その代償として、現在、さまざまな問題に直面している。
 
  • 東京一極集中および地方の弱体化。東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)が国全体のGDPおよび人口に占める割合はニューヨークの3倍超。パリ、ロンドンと比較しても高い。
  • IT投資の低さや業務効率化の立ち遅れなどに起因する労働生産性の低さ。労働生産性はOECD平均の8割強、米国のわずか6割程度にとどまり、週49時間以上就労している長時間労働者の割合は2割を超える(米国16.4%、イギリス12.2%、フランス10.5%、ドイツ9.3%)。
  • 先行き不透明な超高齢化社会への対応。介護分野の2019年の有効求人倍率は4.32(求職者1人に対して、4人分以上の求人。年平均。職業全体では1.53)※1とかなり高い水準である。介護人材は増えてはいるものの要介護高齢者の増加スピードには追い付かず、この趨勢では2025年度には全国で40万人近く介護人材が不足すると予測されている※2
 
挙げればきりがないが、今回のコロナ禍は、こうした変わらない日本社会の問題点をあぶり出すことになった。ビフォーコロナ社会が追い求めていたものは、ひと言でいえば、経済合理性の追求である。当初、夜11時までの営業だったコンビニエンスストアは24時間営業が当たり前となり、交通網の発達は都心への人口集中を生んだ。消費者は価格の経済合理性(=安さ)を求め、その結果、狭いスペースに人を集めて薄利多売で収益を上げるビジネススタイルが主流となった。
 
しかし、新型コロナウイルス感染拡大は、これまで軽視してきた持続性の確保(安心とレジリエンスの確保)の重要性を顕在化させた。冗長性を嫌って削減されてきた行政や民間のリソースは、コロナ禍によってさらにひっ迫し、とりわけ医療機関や介護施設の現場では担い手不足に加え、いまだに文字通り「人手」が頼りの「密」な環境ゆえ、感染の危機にさらされ疲弊している。また、多くの分野で従来の目先の経済性を追求したビジネスモデルが継続困難となっていることから、収入に関する不安を持つ人も多い。
 
それに伴い、「安全安心への希求」「さまざまな業務システムや働き方の効率化・変革」などを求める新たな潮流が生まれようとしている。今回のコロナ禍は国難といえるが、それによってもたらされる潮流がどのようなものであるかを読み解き生かすことで、よりよい方向に社会を変えていく契機にすべきではないか。
 
もちろん社会を変革することは容易ではない。わが国の歴史を振り返ってみたとき、すぐに思いつく社会の大変化としては明治維新と敗戦がある。変化よりも安定を好む日本という国では何かが決定的に破壊されたときくらいしか、時計の針は進まないことを裏付ける。
 
ただし、「世代交代の可能性」が一つのチャンスであるとも思う。デジタルネイティブ世代と重なる「ミレニアル世代」(2000年代に成人した層)とそれ以降の世代を合わせた人数が労働力人口の半数を超え始める2025年以降は、「オンラインとオフライン」「リアルとバーチャル」のハイブリッドが、ニューノーマル(新常態)となる社会をごく自然に受け入れるに違いない。
 
わが国が抱える社会課題はいくつもあるが、ここで着目したいのは冒頭に述べた「東京一極集中」である。
 
一都市圏への集中の仕方は世界を見渡しても日本が際立っているが、「コロナ」はヒト・モノ・カネが一カ所に集中する東京の脆弱(ぜいじゃく)性を浮き彫りにした。元をただせば、江戸幕府の成立以降、大政奉還までの数百年の歴史がこのような国土構造を創り出しているものの、明治期に廃藩置県、戦後には政治・経済機能の東京への集中がより一層進み、地域の均衡ある発展と地域独自の文化醸成はより一層、阻害されることとなった。
 
ことコロナに限ってみれば、いずれワクチンや予防薬が開発され、また、弱毒化が進み、毎年恒例のインフルエンザ予防接種のように、感染予防を行うようになるかもしれない。しかし、近い将来また新たな病原体によるパンデミックは起こりうる。
 
その未来に起こりうる危機を先取りし、国土の均衡ある成熟へとかじを切り替える必要がある。新たな病原体が発生するたびに緊急事態宣言を出す必要のない「フェーズフリー」(平常時と異常時のいずれも変わらず社会・経済活動を維持できる)社会の実現である。

「経済合理性の追求」「持続性の確保」を両立できる自律分散・協調による地方創生

「経済合理性の追求」と「持続性の確保」との両立は可能なのか——。一つの解決法として示したいのが、自律分散協調型社会の実現である。経済合理性と持続性の両立にはなぜ、自律・分散・協調の仕組みが有効なのか。利便性や経済性のみを追求しすぎると、コロナ禍のような現状とは異なる状況が生じた際に、社会がうまく回らなくなる場合がある。一方、持続性(レジリエンス性)のみを追求しすぎると、無駄や不便が生じる場合がある。

経済合理性と持続性、一見相反する2つを両立させるには、社会システムを構成する要素の自律化と分散化を進めるとともに、要素間の協調関係を構築することが鍵となるだろう。日本国内のどこでも、都市部に住まうのと同様に、あらゆる経済活動を自由に行え、利便性の高い日常生活を過ごせる、自律的に活動できることを保障された地域を創出することが望ましい。

一方で、これまでの経済合理性の追求によって磨き上げてきたものの中には、捨てざるをえないものもあるだろう。フィジカルディスタンスの近い「密」なワークスタイル、ライフスタイルはその筆頭である。

そこで今回は、こうした自律分散協調型社会を実現するうえでフィジカルディスタンスの改善が急がれる「労働」「介護」「住宅」の3分野に焦点を当て、変革の方向性を示したい。その変革にあたっては、技術的イノベーションはもちろん、ビジネス面・制度面での社会的なイノベーションも必要となるだろう。以下、それぞれについて詳述する。

変革すべき分野① 労働分野:労働の自由度を高める~オンラインとオフラインによるハイブリッドな経済・産業活動の実現~

オフィスワーク系の企業については、テレワーク技術を活用した在宅勤務を導入することで、感染拡大の抑制と経済活動の維持を両立させる取り組みが進みつつある。自宅で扱う情報のセキュリティなどについては課題もあるが、技術面、制度面での対策が進めばデジタル化、リモート化はさらに加速するだろう。

その一方で、飲食、製造、観光などの非オフィスワーク系の事業においては、「人との接触」を前提としたビジネスモデルであるため、抜本的に転換させない限り、利益水準を維持することは難しい。とりわけ、地方経済を支える要である観光業の状況は深刻だ。観光白書によると、コロナ禍のあおりで訪日外国人の数は2020年4月で前年比マイナス99%。観光庁によると、2020年4~6月期の国内旅行消費額は、前年同期比83.3%減の1兆40億円(速報値)となっている。さらに世界の観光産業全体では、2020年1~5月の損失はリーマンショック後の3倍以上の3,200億ドル(日本円で約34兆円)とされている(国連世界観光機関による推計)。

今後、より多くの業種・業界の企業において、空間制約を取り払い、経済活動を行う仕組みの構築が急務である。そこで、当面の目標となるのは、仮想空間上に多業種の就労プラットフォームを創出すること。経済活動の場をリアル空間以外に仮想現実空間上にも創出させ、両面から収益を確保することで、パンデミック時にも経済活動を停止させない仕組みを業界横断で確立することである。

まずは、仮想空間上に財の生産・供給・消費を行うことのできるプラットフォームを創出することを進めていきたい。現在のシステムではサプライチェーンのうち、製造、在庫管理、配送、販売、消費のどこか一カ所で感染が拡大すれば、経済活動全体が止まりかねないためだ。

消費に関してはECが普及しているが、供給の要となる製造、在庫管理、輸送においてもさらなる自動化が望まれる。また、フィジカルディスタンスが近くなりがちな業種(飲食、観光など)を含むあらゆる業種・業界の就業者がネット上でアバター(分身)を使って活動できるようにしたいところだ。ゲーム上のキャラクターを動かすように自律型ソフトウエアロボットに業務指示を行うといったことが可能になれば、AIをエージェントとしながら効率的に業務を遂行できるようになるだろう。

オフィスワーク分野についても、テレワークの推進のみで終わらず、定型的な事務作業などの分野でホワイトカラーRPA(ロボティックプロセスオートメーション)を進めるなどしてアバター労働を進め、効率化とフィジカルディスタンスの確保を進めたい。

飲食業については、会計・調理の自動化、小売業の店舗無人化は実現の可能性が高いとみる人が多い。非技術的イノベーションとしては、無人調理可能な法律整備が求められる。

観光業では、今回、従来の観光の在り方がパンデミックや災害などに対して脆弱(ぜいじゃく)であることがわかった。平時から一過性の観光で訪れる「交流人口」にのみ頼るのではなく、平時からリアルな交流やリモート交流を通じて、地域とさまざまな形でかかわりを持つ「関係人口」を増やし、持続性のある需要を作っていく必要がある。と同時に、例えばARやVRを使ってのバーチャル旅行など、新たな観光の在り方についても可能性を模索していきたい。観光客にとってはまるで現実に観光地を訪問しているような体験ができ、かつ、観光地にとっては訪問客が来たのと同程度の経済効果をもたらすビジネスモデルの開発である。技術的イノベーションとしては、テレイグジスタンス(アバターを遠隔操作)などが必要となるだろう。

仮想空間上での活動の最大のボトルネックとなるのは、操作性である。わずかなタイムラグ、VR機器の疲れなど、どうしてもリアル空間に勝てない部分がある。それゆえ、仮想空間ならではの付加価値をいかにつけていくかが今後の課題となるだろう。

これらの実現により、社会全体においては、自宅から職場に出勤という日常生活が変わり、自宅に居ながらにして経済活動に参加できる人が増えていく。それに伴い、人生における仕事の意味も変わるだろう。また、アバター出勤が可能となれば、障がい者など多様な人材の活躍も期待できる。

ホワイトカラーのみならず、製造、建設、飲食、観光、医療、物販など、あらゆる業種の企業に勤める就業者が自宅で仕事を行えるようになる。

いまよりも職業の変更や副業が行いやすくなり、一生同じ会社に勤める人は少数になるだろう。
図1 あらゆる業種において自宅で仕事を行うことが可能に
図1 あらゆる業種において自宅で仕事を行うことが可能に
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出所:三菱総合研究所

変革すべき分野② 住宅分野:居住の自由度を高める~家にいながら都市生活を送れる分散居住型スマートホームの整備~

コロナ禍で外出や他者との接触の抑制が進む中、「在宅」「巣ごもり」といった言葉が注目を集めた。今後、在宅勤務が常態化したり、オンライン診療やオンライン教育の普及が進んだりした場合、感染拡大が収まった後も、自宅で過ごす時間が元のように短くなることはないと予想される。

戦後、「家」の機能(保育・教育・介護・飲食・就労など)は社会化、外部化する一方だったが、コロナ禍以降は、そのうち一部は家庭内部に戻ることになるだろう。そうしたライフスタイルに合ったまちづくり、住まいづくりを目指していきたい。

住まいづくりという面では、個々の家庭のニーズに合わせて快適な空間を提供して「対話」する住宅の開発・普及を進めていきたい。IoTやAIなどの技術を活用し、家族の要望や嗜好をキャッチしながらそれを実現する「スマートホーム」である。スマートホームが普及すれば、これまで外部化されてきた家庭の機能を、新たな形で家族の負担がより少ない形で取り戻すことが可能になるだろう。

実現のための具体的な技術的イノベーションとしては、戸建て、集合住宅の双方において、高度な生活・都市機能を装備し、居住者の生活ログ・バイタルデータなどを常時収集・解析することで、住めば住むほど居住者仕様になるハイクラスのスマートホームが考えられる。新たなライフスタイルを提唱し、当初は高所得の共働き層などに訴求していくことになるだろう。

最大のボトルネックはコストだが、製造コストを下げる技術的イノベーションとともに、非技術的イノベーションとして、過疎地においては自治体が土地を無償で提供したり、公有地を無償で貸与したりするなどの施策で、スマートホームを誘致し、地方移住を促すなどの働きかけも考えられる。

と同時に、地方に移住した人がそのまま定住したくなる、魅力的なまちづくりを進めることも重要である。若者が地域とのかかわりを深めることができるような、例えば、大学を起点として文化・教育面での魅力をハード・ソフト両面から高めるといった動きを後押しする制度がほしいところだ。また、自宅以外でも働ける場——例えば駅近のリモートオフィス、シェアリングオフィス、などを整備することも考えたい。

教育、医療・介護、就労などはもちろんのこと、ショッピング、レジャー、レクリエーション、文化活動といった都市的サービスを自宅に居ながらにして享受できる。
インターネット空間の利用で世界と地方が直結し、AIによって言語の壁も取り払われることで、東京居住以上に海外の人々との交流が日常的に行われるようになる。

自分らしさを追求したスマートホームでバーチャル・リモートワーク、バーチャル・リモート教育が行えるようになれば、自律性をもったその人らしい生き方が可能となり、自由な発想が生まれる可能性もある。そして、より生産性の高い協働も可能となっていくことだろう。
図2 自宅に居ながら都市的サービスを享受する
図2 自宅に居ながら都市的サービスを享受する
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出所:三菱総合研究所

変革すべき分野③ 介護分野:高齢期の生活の自由度を高める~ロボティクスによる他人に介護されないセルフケア・システムの構築~

介護施設におけるケアでは、介護職員が要介護高齢者とじかに接触することが求められ、常時、感染リスクを抱えている。施設内には基礎疾患を持つ人が多数集まっており、新型コロナに限らずとも何かしらの感染症のクラスターを発生させる可能性が高い。

また、高齢化の進展により、介護職員の不足が社会問題化している。介護行為は人を「する者」と「される者」に二分し、後者はスティグマ(他者や社会集団によって個人に押し付けられた負の表象・烙印)、すなわち後ろめたさや申し訳ないという気持ち、負い目などを感じやすいという問題もある。特にコロナ禍においては介護職員の精神的・肉体的な負担が増大した。

そこで目指すべきは、セルフケアによる要介護高齢者の「スティグマのない生活」の実現である。セルフケアが可能になれば介護する人は不要となり、高齢者の身体的「自律」を生み出し、ひいては精神的「自律」にもつながる。それにより、家庭内介護者も新たな活動が選択可能となるだろう。

身体機能を補完するロボット技術、認知機能の低下を補完するAI技術を活用したデバイスを、介護保険サービス(福祉用具購入費用補助)により廉価で購入。身体に装着ないし自宅内に設置することで、自分の意志で自由に活動できるようになる。家族介護も介護職も不要になるのは言うまでもない。

実現のための技術的イノベーションとしては、加齢による身体・知的能力の低下を補い、自律した生活を可能にするテクノロジーが考えられるだろう。住居に埋め込んだ介助ロボットやパワードスーツ、ウエアラブルデバイスを開発することで、歩行(移動)、食事、入浴などの日常生活行為を、本人の意思で自由に行えるようにするのだ。最大のボトルネックとなるのは安全性の問題だが、自動運転にかかる安全装置技術などが解決の糸口となるだろう。

非技術的イノベーションとしては、介護に関する法整備が必要となる。例えば、介護の一部自動化を可能にする法律(施設基準の見直し)などである。一方で、認知症予防などの観点から、人とのふれあいを維持できる、セルフ介護のあり方を利用者側に立って検証する必要もある。
図3 ロボティクスによるセルフケアの暮らし
図3 ロボティクスによるセルフケアの暮らし
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出所:三菱総合研究所
以上のように実現にあたっては、いずれの分野においても「技術的イノベーション」(新技術の開発・導入)と「非技術的イノベーション」(新しいビジネスの仕組みや制度の導入)の両輪で進めていくことが不可欠である。

一方で、こうしたイノベーションを起こそうとするとき、社会からは何かしらのネガティブな反応が起こりがちである。しかし、コンビニエンスストアや携帯電話、スマートフォンの普及の過程がそうであったように、当初は奇異の目で見られていた技術やシステムも、社会の目指す方向性に合致したものであれば、いずれは当たり前の風景となっていく。「オンラインとオフライン」「リアルとバーチャル」のハイブリッドによる新たな地域像においては、もはや東京と地方が結ばれるのでも、地方が東京と肩を並べるのでもなく、東京とは全く別の魅力を持つ「世界と直接つながる地方」が実現するだろう。

「地方創生」とは、首都圏を頂点とする経済・政治・行政システムのピラミッド構造を解体し、地域ブロック単位で自律分散が図られ、相互に協調・連携の図られた状況を指すと考える。

大切なのは、コロナ禍がもたらした潮流を読み解きながら、ポストコロナの社会の姿を構想し、その実現に向けた具体的な方策を地方自らが考え抜き、実行することである。まさに今は、それぞれの地方が必要な技術的・非技術的イノベーションを探り、開発・導入していく強い意志を持って、経済合理性と持続可能性を両立しうる社会の実現に向けて行動する時ではないだろうか。

※1:厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450222&tstat=000001020327(閲覧日:2020年11月19日)

※2:厚生労働省「介護人材確保対策(参考資料)」(2017年8月23日)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000175117.pdf(閲覧日:2020年11月19日)

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