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原子力発電を利用していくにあたって:イントロダクション

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2016.5.27

原子力安全研究本部滝沢真之

原子力安全

1.連載にあたって

【事故後の動向】

 東日本大震災での津波に起因して、東京電力福島第一原子力発電所が炉心溶融を伴う事故を起こして5年が経過した。周囲の放射能汚染に伴う住民避難が長期化する中、除染により、避難指示解除準備区域の一部では避難指示が解除された。また、汚染された土壌を中間貯蔵施設へ搬入する試みも始まりつつある。このように、少しずつではあるが環境回復に向けた取り組みが進められている。福島第一原子力発電所の敷地内では、継続的な燃料の冷却、汚染水の処理や漏えいに対する制御、溶融した燃料の状態の把握や取り出し方法の検討など、世界の英知を結集して廃炉に向けた取り組みが行われている。廃炉を完遂するためにはあと数十年の歳月を要するとされる。そこでは、存在する多くの技術的課題を一歩一歩確実に解決していくための継続的な技術開発に加え、次世代の人材に廃炉技術を引き継いでいく取り組みの必要性が指摘されている。

 この事故が、原子力技術や発電利用を担ってきた関係者に対する信頼を大きく失墜させたことは言うまでもない。事故の反省に立ち、行政は事故前に原子力事業を規制する立場にあった原子力安全委員会および原子力安全・保安院に対して抜本的な組織改正を施した。独立性を担保し、外部との関係の透明性を高めた位置づけの規制当局として原子力規制委員会を発足させ、規制体系を再構築した。そして、事故前までの規制基準を見直し、世界各国の規制基準と比較しても非常に厳しいレベルの基準を設定した。また電気事業者は、事故を二度と起こさないという強い決意の下、組織管理の抜本的見直しや安全対策の制度や施設を新たに整備・導入した。これら対応は、これからも安全維持に向けて継続的に改善を施していく必要がある。

【原子力発電利用の動向】

 発展途上国を中心としたエネルギー利用の拡大や温室効果ガス排出量の増大に係る課題を、経済発展との両立を図りながら解決していく上で、原子力発電を利用していこうとする世界的なすう勢は、福島第一原子力発電所の事故後も大きく変化はしていない。事故を引き起こしてしまった日本でも、エネルギー需給構造が抱える課題などを踏まえて、2014年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画の中で、原子力発電を重要なベースロード電源として位置づけ、安全確保を前提に一定規模は利用していく方針が示された。

 福島第一原子力発電所の事故後、国内の原子力発電所は順次停止され、全ての原子力発電所が停止する状況に至った。政府方針では、原子力規制委員会が運転再開を認めた発電所については再稼働を支持するとした。この方針のもとで、2015年8月に九州電力川内原子力発電所の1・2号機が、事故後初めて原子力規制委員会が定めた新たな規制基準の要件を満たし、再稼働した。川内原発に続いて、規制基準の要件を満たして再稼働が認められた関西電力高浜原子力発電所の3・4号機は、大津地方裁判所にて運転禁止の仮処分が下され、同機はいったん再稼働したものの、現在運転は停止している。一方で、川内原子力発電所の運転差し止めの訴訟は棄却されており、法廷の判断は分かれている。

 今後も、新規制基準の要件を満足した原子力発電所の再稼働の認可は進んでいくと想定される。しかし、訴訟による運転差し止めの仮処分の結果が代弁するように、原子力利用に対する社会の見解は揺れている。また、最近では2016年3月に発表がなされた四国電力伊方1号機の例からも分かるように、経済性に見合わないとの経営判断に至った原子力発電所については廃炉となる。原子力発電を取り巻く環境を鑑みると、今後も順次、廃炉の決定がなされていく可能性が指摘される。

2.連載の構成

 今後、既設の原子力発電を利用していく上では、直面する安全対策コストが今後の電気事業で回収可能かどうかの安全性と経済性の両立、再稼働した原子力発電所の継続的な安全性向上対策、長期間の運転履歴を有する原子力発電所が増加する中での経年劣化対策など、取り組むべき課題が複数存在する。加えて、放射性廃棄物を処理処分する道筋の明確化といった原子力発電を開始した当初からの積年の課題も解決すべき事項である。さらに、売電会社や電気料金プランを自由に選べる電気事業環境の下では、短期的な価格競争力の確保に経営の関心が傾き、長期的な事業展望にもとづく大規模な設備投資が行いにくい状況となり得ることも考慮しなくてはならない。

 安全確保を大前提に、経済性を伴い、社会に受容され、ベースロード電源として原子力発電が一定規模利用され続けるためには、単に再稼働の必要条件である新規制基準の要件を満たすことへの対応にとどまるわけにはいかない。存在する多様な課題への解決に向けて取り組み、そのプロセスや結果を社会に対してわかりやすく丁寧に説明していくことが求められている。

 本コラムでは今後5回にわたり、電気事業者を中心とした原子力関係者が直面する主要な課題を取り上げ、原子力発電をベースロード電源として利用していく上で求められる取り組みについて概説する。
各回のテーマは以下を予定している。
【安全性と経済性の両立】
大規模投資を伴う新規制基準対応と電力システム改革下での原子力発電事業の将来性

【廃止措置対策】
原子力発電事業の廃止による地域経済への波及や大型廃棄物の発生を伴う廃炉の増加

【継続的な安全性向上対策】
再稼働後の電気事業者に求められる規制基準を超える安全性の継続的な向上(自主的安全性向上対策)

【経年劣化対策】
長期間運転履歴を有する原子力発電所の安全性と40年超運転認可制度の導入

【放射性廃棄物対策】
積年の課題である放射性廃棄物の安全管理と処理処分の長期的道筋の提示
なお、福島第一原子力発電所の廃炉の完遂は、原子力発電を利用してきた道筋を後世に残していく上でも、不可欠な取り組みである。この取り組み課題も多岐にわたることから、このシリーズとは別途、触れる機会を頂くこととしたい。
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