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原子力発電を利用していくにあたって:第4回:運転期間延長に伴う課題

経年劣化対策

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2016.9.23

原子力安全研究本部芦田高規

エネルギー

初の60年運転への認可

福島第一原発事故の後、プラントの運転期間を原則40年とし、延長には認可を必要とする「運転期間延長認可制度」が導入された。原子力規制委員会はこの制度に基づき審査を実施し、2016年6月、関西電力高浜原子力発電所1、2号機に対して、劣化しつつある配管や電気ケーブルの補強や交換を条件に、60年時点でも安全機能が維持できるとの判断を下した。2016年9月時点で、運転延長が認可されたのは同プラントのみである。

新しく導入された運転期間延長認可制度

「運転期間延長認可制度」とは、2012年に原子炉等規制法の改正によってわが国で導入された新たな規制制度である。そこでは、プラントの運転期間を原則40年とし、その満了までに原子力規制委員会の認可を受けた場合には、1回に限り最大20年の運転延長を認めることを定めている。

この制度が導入される前は、運転期間の制限はなかった。ただし、運転年数の増加に伴う経年劣化が安全維持に影響が及ばさないための規制として、「高経年化対策制度」が運用されていた。そこでは、運転開始から30年を経たプラントに対して、規制当局は、以降10年ごとに高経年化技術評価と称する検査を行い、事業者が策定する長期保守管理方針の妥当性を確認した上で、10年間の運転継続を認めていた。

この高経年化対策制度は、運転期間延長認可制度の導入後も、十分な経年劣化対策を事業者に要求するための規制として存続している。したがって、運転開始後40年の時点で事業者が継続運転を行うためには、運転期間延長認可制度と、さらに高経年化対策制度の審査を受けなければならない。前者で最長60年までの運転延長の認可を、後者で50年までの長期保守管理方針の認可を得る必要がある。

なお、運転期間延長認可制度は、高経年化技術評価よりさらに詳細な長期健全性の確認として特別点検を事業者に要求している。特に、原子力発電所の重要施設の中で、交換ができない原子炉容器や原子炉格納容器、コンクリート構造物などについては、40年時点で60年までの健全性維持を保証する十分な検証結果の提示が必要となる。例えば、コンクリート構造物では、実機の一部からコア試料を抜き取り、部材の実データに基づく強度や放射線の遮へい能力の評価結果や、それらを補完する理論的な評価結果を規制当局に示す必要がある。
わが国の運転期間延長認可制度と高経年化対策制度

わが国の運転期間延長認可制度と高経年化対策制度

出所:原子力規制庁の図を参考に三菱総合研究所作成

米国の長期安全運転への取り組み

一方、海外の長期運転プラントの状況はどうであろうか。古いプラントを多数抱える米国の取り組みに目を向けたい。

米国の規制制度では、運転期間は40年を超えないものと規定されており、運転認可更新制度により、一度の更新で運転期間をさらに最長20年延長することができる。ただし、その更新回数や最終的な運転年数については、米国の規制文書に記載はない。

米国では、すでに9割以上のプラントで40年超の運転更新認可を申請済みである。認可は順調に行われ、多くのプラントで20年間、すなわち60年までの運転認可更新が認められている。さらに、米国では2度目の運転認可更新、すなわち60年を超える長期運転に向けた動きも本格化している。60年を超える長期運転を行う上での材料劣化などに関する最新の技術的知見の集約や管理プログラムの改定といった検討作業が進行中である。

米国と世界最高水準の規制を追求するわが国とでは、運転年数制限の上限は異なっている。しかし、経年劣化に対して、安全を維持するための技術やマネジメントは共通に適用することができる。わが国のプラントの安全性向上のため、米国が志向する60年を超える運転で求められる安全対策から学ぶべきことは多い。ゆえに、日米両国で経年劣化対策の協力はさらに進めていくべきである。

また、米国では、2020年代には最初のプラントが60年の運転期間に達する。それに向け米国原子力協会は、米国原子力規制委員会と連携して、事業者のみならず規制機関の活動を含む全体像をまとめたロードマップを策定し、安全向上に向けた施策や研究開発計画を提示している。

わが国では、福島第一原発事故の後、事業者側に対する規制側の独立性を重んじている。しかし、規制側と事業者側の双方共通の目標である安全向上に資する取り組みであれば、米国のように規制側と事業者側の双方が参画した活動も、将来的に検討し得る方向性であろう。

再稼働後の経年劣化対策の課題

運転期間を延長する上では、安全が最優先であることは言うまでもない。性能の低下した古い設備は、交換可能であれば、新品に取り替えることで性能回復が期待される。しかし、交換ができない設備の劣化が原因で安全に影響が及ぶと判断される場合、安全を維持するための新たな代替手段を検討し、プラントに組み込まなければならない。代替手段による安全対策が規制基準に満たないプラントは、当然、運転延長が認められないことになる。

数年後、わが国では運転年数40年を迎えるプラントが続出する。運転開始から40年目までに再稼働の認可が得られていないプラントは、運転期間延長の申請ができないため、必然的に廃炉となる。したがって、40年を超える運転を念頭におくプラントに対しては、再稼働の認可取得の段階から、十分な経年劣化対策を伴うことが前提となる。昨年来、複数のプラントを廃炉とする声明が事業者からなされている。電力事業の経営の立場からは、再稼働に必要な安全対策コストを再稼働後の発電により回収できることが、再稼働の必要条件である。

今後の個々のプラントの再稼働や廃炉の判断の背景に、こういった安全性と経済性の両立があることも理解しておく必要がある。

※:Nuclear Energy Institute (2015). Second License Renewal Roadmap

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