東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下、福島第一原発事故)以降、発電事業者の経営環境は大きく変化してきた。わが国では2013年4月に電力システム改革の方針が閣議決定され、これにより過去(1995年以降)、段階的に行われてきた電気事業制度改革は、2020年をめどとして発送電の法的分離と、料金規制の撤廃を伴う電力市場全面自由化に向けて大きく前進した。すでに2016年4月には小売市場への参入の自由化が実現された。
これまで、電力会社は、電力供給の信頼性を維持し、あまねく国民に電気を届けるといった公益的責任を担う代わりに、地域独占と規制料金(総括原価方式)によって、安定的な収益が約束されるという経営環境下で、原子力発電への計画的な投資を行ってきた。しかし、電力システム改革という市場全面自由化の流れの中で、電力会社の経営環境は、今後さらに大きな変化にさらされる。
発送電の分離により、原子力発電は発電部門の一部に位置付けられ、収益性は卸電力市場価格の変動の影響を受けることになる。このため、各社の発電部門は、これまでのような垂直統合型の企業経営の中での全体最適に基づくものではなく、もっぱら火力、水力、再生可能エネルギーといった他の電源との経済的優劣に基づいて原子力発電への設備投資の意思決定を行うことになる。
これは、新たなプラントを建設する、しないという意思決定はもちろんのこと、現在運転中※1のプラントについて、政策や規制の変更への対応や事業者の自主的な取り組みに要するコストが、その対応によって得られる安全性の向上や発電収益に見合うのかが、以前にも増して厳密に検討されることを意味している。
本稿では、福島第一原発事故後の安全性向上の取り組みとその継続に焦点を当てた後、安全性と経済性を両立させるための環境の整備の必要性に言及し、国民大での議論の必要性について述べる。
これまで、電力会社は、電力供給の信頼性を維持し、あまねく国民に電気を届けるといった公益的責任を担う代わりに、地域独占と規制料金(総括原価方式)によって、安定的な収益が約束されるという経営環境下で、原子力発電への計画的な投資を行ってきた。しかし、電力システム改革という市場全面自由化の流れの中で、電力会社の経営環境は、今後さらに大きな変化にさらされる。
発送電の分離により、原子力発電は発電部門の一部に位置付けられ、収益性は卸電力市場価格の変動の影響を受けることになる。このため、各社の発電部門は、これまでのような垂直統合型の企業経営の中での全体最適に基づくものではなく、もっぱら火力、水力、再生可能エネルギーといった他の電源との経済的優劣に基づいて原子力発電への設備投資の意思決定を行うことになる。
これは、新たなプラントを建設する、しないという意思決定はもちろんのこと、現在運転中※1のプラントについて、政策や規制の変更への対応や事業者の自主的な取り組みに要するコストが、その対応によって得られる安全性の向上や発電収益に見合うのかが、以前にも増して厳密に検討されることを意味している。
本稿では、福島第一原発事故後の安全性向上の取り組みとその継続に焦点を当てた後、安全性と経済性を両立させるための環境の整備の必要性に言及し、国民大での議論の必要性について述べる。