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原子力発電を利用していくにあたって:第2回:廃炉への道、これからの課題

廃止措置対策

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2016.8.10

原子力安全研究本部河合理城

エネルギー・サステナビリティ・食農

1. 背景

現在、多くの原子力発電所は、その稼働年数が運転期間40年の制限に近づいており、高経年化した原子力発電所を保有する電気事業者は運転期間延長または廃炉の選択を迫られている。わが国は現在までに研究炉の廃炉は経験しているが、商業用原子力発電所の廃炉の経験は無い。また、商業用原子力発電所の廃炉は1基当たり20~30年を要する長期の事業であり、今後電気事業者が直面する重要課題の一つである。

これまでに複数の廃炉を経験した米国では、安全貯蔵、遮蔽管理、即時解体の三種類の方式が採用され、廃炉を完了した施設も存在する。わが国では、米国の廃炉経験も参考に、廃炉の標準方式を「安全貯蔵・解体撤去」(5~10年経過による放射能の減衰効果を組み入れた即時解体の戦略)」としている。今後、できるだけ廃炉作業での被ばく量を低減し、効率的に解体撤去を行うためには、最新技術の動向を踏まえた関連する技術開発(高線量機器の解体技術の確立等)が必要である。さらに、廃炉には使用済燃料の取出しや構造物の解体により多様な放射性廃棄物が発生するため、廃棄物の処理・処分に関する対策や規制対応も必要となる。

2. 廃炉に関する最近の動向

現在、商業用原子力発電所として、福島第一原子力発電所6基を含む合計15基の廃炉が決定しており、その内、敦賀原子力発電所1号機、美浜原子力発電所1,2号機、玄海原子力発電所1号機、島根原子力発電所1号機の5基は2015年4月末に、伊方原子力発電所1号機は2016年5月に廃炉を決定した。福島第一原子力発電所事故以前の2009年に運転終了し廃炉が進められている浜岡原子力発電所1,2号機では、使用済燃料の搬出が完了し、原子炉領域周辺設備の解体に着手する段階に移行した。最終的な廃炉の完了は2036年度を予定している。

2015年には電気事業者に適切かつ円滑な廃炉判断を促すために、会計ルールの改正(廃炉の判断によって、一度に損失を発生させるのではなく、廃炉作業中も引き続き役割を果たす設備については一定期間の償却・費用化を認める改正)が行われた。また、2016年6月には、40年を超える運転期間の延長として国内初となる、高浜原子力発電所1,2号機の運転期間延長が認められた。しかしながら、原子力発電所の運転期間延長には、高経年化に関する安全対策費だけでなく、新規制基準に基づいた再稼働審査への安全対策費が必要となり、運転期間延長後の採算性も十分に考慮しなければならない。これらの状況を勘案すると、今後も電気事業者の経営判断により廃炉となる原子力発電所は増加すると見込まれる。

一方、政府の見通しとして提示された2030年における電源構成(エネルギーミックス)では、経済性・環境負荷・エネルギー安全保障の目標を達成するために、総発電量の2割程度を原子力発電で担う計画としている。この計画値の達成は、既存の原子力発電所の再稼働及び40年を超える運転期間延長がどの程度なされるのかに密接に依存する。仮に廃炉の基数が想定以上に増加する場合、2030年の電源構成における原子力発電の計画値を満たすためには、高度な安全技術を導入した新型炉へのリプレース(交換)の検討も必要となる。

3. 廃炉に関する課題

資源エネルギー庁が策定した「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」に既設軽水炉の廃炉に係る安全な実施に対する課題が記載されている。そのロードマップも参考にしつつ、廃炉に関する課題を以下の通り整理した。

効率的な廃炉プロセスの仕組みの構築

1. 効率的な廃炉の検討や計画の標準化
未経験の商業用原子力発電所の廃炉を安全かつ効率的に進めるため、具体的な廃炉の考え方・手順を策定し、ガイドラインを構築する必要がある。

安全な解体技術の導入・開発

2. 解体技術の開発と標準化
安全かつ着実に廃炉を進めるために、原子炉の構造物等を安全に解体する技術を開発し、確立する必要がある。

3. 既存の技術や考え方の取込み
安全かつ効率的に廃炉を進めるために、既存知見を有する海外の廃炉や、福島第一原子力発電所の廃炉に用いられる技術や考え方を取り入れることが必要である。

廃棄物の安全な管理

4. 廃棄物の減容化、再利用制度とその運用方法の検討
廃炉には解体した構造物等の廃棄物が大量に発生するため、それらの廃棄物を減容化するための技術開発が必要である。また、安全上、放射性廃棄物として扱う必要のない廃棄物(放射能濃度が極めて低いコンクリート等)を再利用する制度(クリアランス制度)について、国民や地域社会の理解が得られるような具体的な運用方法を策定する必要がある。

5. 廃棄物の処分施設の決定・運用・管理
廃炉によって発生する放射性廃棄物を処分するための方針は決定しているが、処分施設の立地が未決定である。円滑な廃炉に支障を及ぼす可能性があるため、処分施設の決定や具体的な運用方法・管理方法の策定が必要である。

廃炉後の跡地利用

6. 廃炉後の跡地利用の検討及び跡地利用のコンセンサスの獲得
施設を解体撤去した後、地域経済の継続的な活性化のためには、原子力発電所の跡地が適切に利用されることが望まれる。米国やドイツでは火力発電所や工場等に跡地を利用し、地元雇用を創出した事例もあり、国内の跡地利用に関する方針を策定し、国民や地域住民との合意を得る必要がある。

人材育成

7. 廃炉に係る知見を有する人材の確保・育成
廃炉は1基当たり20年~30年の長期にわたる作業が見込まれ、今後、廃炉判断が適宜実施されていくことを考慮すれば、廃炉作業全体について安全にマネジメントできる人材を継続的に確保する必要がある。人材の確保に加え、蓄積した技術や知見が確実に伝承される仕組みを構築し、人材の育成に取り組んでいく必要がある。
廃炉には20年~30年の時間を要する一方、制度設計や技術開発等、早期に検討着手すべき技術的な課題は多数存在する。加えて、福島第一原子力発電所事故等を受けた脱原子力依存の意見や廃炉後の地域経済を憂慮した運転延長を希望する地域住民の意見等、廃炉判断に伴う社会的な課題も存在する。 これまで経験してこなかった廃炉は、再稼働後の安全運転への取り組みと並行して、電気事業者に差し迫っている重要な対応事項である。ロードマップに示されている通り、着手時期や優先順位も踏まえた電気事業者による着実な対応が求められている。
「既設炉の廃炉の安全な実施」に関するロードマップ
「既設炉の廃炉の安全な実施」に関するロードマップ
出所:参考文献を基に三菱総合研究所作成

※:自主的安全性向上・技術人材ワーキンググループ, 日本原子力学会 安全対策高度化技術検討特別専門委員会「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」
https://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/denkijigyou/jishutekianzensei/pdf/report02_01_00.pdf

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