オープンイノベーションを阻害する三つの抵抗勢力と六つのポイント(その1)

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2018.11.15

経営イノベーション本部藤本敦也

経営戦略とイノベーション
ここ数年、オープンイノベーションを活用した新事業や新サービスへの取り組みが加速している。ここ十年の取り組みとしては、2011年にスタートしたKDDIの∞ラボ(ムゲンラボ)を皮切りに、大企業とスタートアップ企業が連携することで互いの強みを発揮させてイノベーションを起こしていくという点に特徴がある。大企業とスタートアップ企業をマッチングするプラットフォームも整いつつある。

しかしながら、複数企業の共同戦線により全く新しい事業を創出することは、決して容易なではなく、さまざまな壁が存在しているのも事実だ。

オープンイノベーションに取り組む大企業が嵌りやすい意外な罠

新事業創出における最大の課題は、アイデア創出から市場ニーズの把握、ビジネスモデルの構築に至るプロセスにある。ここでよいアイデア、よい事業が構想されなければ話にならない。いわば、新事業創出を成功させる必要条件である。オープンイノベーションに取り組む際は、自社とスタートアップ企業以外にも、ベンチャーキャピタルや仲介者などのプレーヤーを含んだエコシステムを構成する必要がある。大企業では、こうした取り組みを得意としていないところが多く、コンサルタントへの相談も増える。当社でも、オープンイノベーション、新規事業創出などの取り組みに対して、さまざまな形での伴走型支援を行っている。

オープンイノベーションである程度のビジネスモデルが構想されつつ段階で、あるいはビジネスモデルを具体化する過程で待っている「大企業内に潜む事業化の罠」の方である。当社のこれまでのさまざまな伴走型支援の経験によれば、取り組みが行き詰まる要因はマーケットサイドではなく、社内にあることが少なくないのである。
新事業創出の全体フェーズと本コラムでの着目フェーズ
新事業創出の全体フェーズと本コラムでの着目フェーズ
出所:三菱総合研究所

オープンイノベーションを阻害する三大抵抗勢力

では、企業内で事業化を進める際の罠とはどのような形で発生するのか? 本来であれば「経営トップ」「事業部門やコーポレート部門などの他部門」そして「イノベーション担当部門」といった新事業創出の推進者自身が、抵抗勢力になりかねないことにこそ、問題の本質が潜んでいる。

イノベーションエコシステム概観と社内の主なプレイヤーと発生事象
イノベーションエコシステム概観と社内の主なプレイヤーと発生事象
出所:三菱総合研究所

抵抗勢力1:経営トップの心変わり──はしごを外す/欲をかく

オープンイノベーションによる新事業創出を成功させるためには、経営トップのリーダーシップが不可欠である。だからこそ、注意しなければいけないのが「経営トップやイノベーション責任者の交代」である。交代時に、いままで進めてきた新事業や新サービスに関して見直すよう圧力がかかることが多い。新しい中期経営計画などの経営方針の変化や、経営トップの興味分野の変更により、新事業の狙う領域が変わってしまい、検討中の事案にストップがかかってしまうことがしばしばある。新事業は早くても数年かかるため、社内の人事異動のタイミングのほうが早く来てしまうことが多いが、大企業の人事的な仕組み上やむを得ない部分でもある。

一方で、経営者が前のめりになりすぎて「つい欲をかく」という懸念もある。例えばオープンイノベーションを標榜しスタートアップと協創してきたが、フィジビリティスタディ(「事業化調査」「実行可能性調査」)が終わり、利益が見え始めた段階で「今後の事業化は、基本自社単独で行ってはどうか」と経営トップが言い出す場合である。これはスタートアップとの協業で得たノウハウやネットワーク、知見をもとに自社中心のバリューチェーンを展開し、利益も大半を自社が占めるモデルを構築することを意味する。スタートアップ側としては承諾できる条件ではないことが多く、関係が悪化し最悪の場合、協業解消となってしまうこともある。当社の経験上、スタートアップと協業してきたビジネスモデルを、自社のみで事業化しようとすると、今まであまり気づいていなかったスタートアップ側が保有する暗黙知(ターゲット顧客に関する深い理解など)が必要になるケースが多く、結局事業化を頓挫してしまうことが多い。

抵抗勢力2:社内他部門の無知・無関心──「それはルールでできません」

取引先に関する社内基準や既存の決済システムなどが思わぬ阻害要因となる場合もある。例えば事業化の際にスタートアップとの本格的な取引の準備を行う段階で、コーポレート部門が通常の取引先基準を適用する場合がある。スタートアップに対して直近3年間の収支データの提出や、個人情報保護の社内基準に遵守する体制を求めたりする。しかし、設立から3年たっていないスタートアップも多く、個人情報の保護体制に至っては大半のスタートアップで大企業が求めるレベルには達していないことが多い。

また新事業に関して新しいマネタイズ方法(例:売り切りモデルでなくサブスクリプションモデルなど)をとる場合、社内の請求回収システムが対応できないことがある。その改修費用に数千万円以上もかかってしまい、イノベーション責任者が二の足を踏んでしまうこともある。

さらに、経営資源を豊富にもつ大企業は、既存の営業ルートを通じて、自社商流の中で販売活動を行うことがある。しかし、いざふたを開けてみると営業部門の協力を得られない場合も多い。売上目標の達成に日々奔走している営業部の立場としては、売れるかどうか分からない新商品よりも、ある程度見込みが立っており、かつクレームのリスクも少ない既存商品を売りたいと考えるのは当然である。

抵抗勢力3:イノベーション担当部門──自前主義の限界/燃え尽き症候群

事業化フェーズでは、それまでのフェーズと異なるノウハウが必要になってくる。アイデア創出、ビジネスモデル構築フェーズでは、「顧客ニーズの把握」などが必要であったが、事業化フェーズでは「商流開発」「戦略的なPR」といった新たなノウハウが求められる。しかしオープンイノベーションでの新事業開発企画を任せられた社員に、今さら商流開発をゼロから経験させたり、PR戦略の構築や実行に関するノウハウを求めたりするのは酷だろう。

結果的に、イノベーション担当部門に「燃え尽き症候群」が発生することがある。もともと、日本の大企業では、本社の非イノベーティブ人材が「仕事をやったことに見せる技術」には非常にたけている場合が少なくない。結果的に、それまで苦労して進みそうだった案件が、実はほとんど進まなくなる、という事態も多く見受けられる。

これらの問題を未然に防ぐためには、どのような対応が求められるのだろうか?
(次回に続く)

(本稿は、『月刊 研究開発リーダー第148号 2018年7月号』への寄稿『オープンイノベーションによる事業化を阻害する社内要因とその対応方法』を加筆修正して作成した)

 

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