事業化フェーズでは、それまでの実証実験以上に担当者の負荷が精神的にも肉体的にも大きくなってくる。そのため担当者のモチベーションが、事業化をやりきるまで維持できない場合が出てくる。担当者を変更することもあるが、事業化への負荷を乗り切るためのモチベーションという観点からすると、あまり思い入れのない社員が担当者になることも望ましくない。
担当者のモチベーションの原点の一つはターゲット顧客の課題解決であるため、事業化フェーズでも常にターゲット顧客との接点を持ち続けることが、モチベーション維持の観点からは重要となる。事業化フェーズであっても定期的に新サービス体験会や個別ヒアリングなどを実施し、自らの取り組んでいる新事業が課題解決になっている実感を得ることこそがモチベーション維持への一番の特効薬である。また、やむなく担当者変更を行う場合であっても、新担当者に対して定期的にターゲット顧客とのリアルな接点をもつ仕掛けを作っておくことが、モチベーション育成に大きく役立つ。ここで得たモチベーションを減らさないためにも、トップが方針を変えずに担当セクションや担当者を庇護し続けることも必要不可欠である。
以上、本稿で述べてきた通り、事業化フェーズでは思わぬ阻害要因が社内から出てくることが多い。それまではイノベーション担当部署内でほぼ完結していた話が、経営トップの注目を集めはじめ、他部門と連携して行うフェーズに入ってくることが背景にある。基本的には社内とはいえ、他部署は異なるミッションとロジックで動いているため、社外との交渉に近いぐらいの緊張感をもち、社外の知見や社内ネットワークをうまく活用して対応することが求められる
(本稿は、『月刊 研究開発リーダー第148号 2018年7月号』への寄稿「オープンイノベーションによる事業化を阻害する社内要因とその対応方法」を加筆修正して作成した)