コラム

新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言スマートシティ・モビリティ

ポストコロナの社会インフラ 第1回:ウィズ/ポストコロナ時代における“スタジアム・アリーナ超改革”

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2020.8.19

次世代インフラ事業本部加納北都

福田泰三

新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言
新型コロナウイルスの感染拡大は、われわれの日常生活に大きな影響を与え、人々の行動や意識に変化をもたらした。ウィズ/ポストコロナ時代における新しい生活様式や経済活動は、今後の社会インフラの在り方、ひいては都市の在り方にまで影響を及ぼすだろう。本連載コラムでは、今後の都市や社会インフラの変化や在り方について考察を行う。

第1回では、都市を支える社会インフラの一つとしてスタジアム・アリーナなどの大型集客施設を取り上げる。ウィズ/ポストコロナ時代における集客施設の課題と必要な施策、また地域との連携による好循環の仕組みについて述べる。

コロナ禍により拡充されるサービスと、再認識される「集まることの価値」

新型コロナウイルス感染症の影響で、ライブやスポーツ観戦など多人数が集まるイベントは、自粛・延期、もしくは感染対策を実施した上での限定的な開催を余儀なくされている。スタジアム・アリーナなど大型集客施設の保有者・運営者および興行主催者にとっては、イベント開催、興行収益の確保が喫緊の課題となっている。本年6月、サザンオールスターズが横浜アリーナで無観客配信ライブを実施し、有料配信のチケット購入者数約18万人、推定視聴者数約50万人を動員した。ファン層の拡大を目的とした無料配信ライブを実施するアーティストも多く、今後、集客施設に直接来場する必要のない、ライブのネット配信事業などのサービスが一層拡充されていくと考えられる。

一方、スタジアム・アリーナ等の集客施設へ足を運び、リアルにイベントを体験することへの欲求も依然として強い。当社のアンケート調査(図1)では、「A:旅行やスポーツ観戦、コンサート等は実際にその場に行きたい」と回答した割合が緊急事態宣言前(2020年3月)から、緊急事態宣言から一定程度経過した後(2020年6月)に微増した。「使い分ける」と回答した割合も微増しているが、「B:VR/ARで疑似体験できるなら、その場所に行かなくてよい」と回答した割合は微減している。集客施設でリアルにイベントを体験することが難しくなったことで「集まることの価値」が再認識されていると考えられる。
図1 旅行やスポーツ観戦、コンサート等に関するリアルとデジタル使い分け調査
図1 旅行やスポーツ観戦、コンサート等に関するリアルとデジタル使い分け調査
【A】旅行やスポーツ観戦、コンサート等は実際にその場所に行きたい
【B】旅行やスポーツ観戦、コンサート等はVR/ARで疑似体験できるなら、その場所に行かなくてもよい

出所:三菱総合研究所「生活者市場予測システム(mif)

スタジアム・アリーナの持続のために必要な施策

感染対策が必須となるウィズ/ポストコロナ時代、スタジアム・アリーナといった集客施設では、来場者同士の間隔(フィジカルディスタンス)を確保する必要があるため、収容可能人数が減少し、収益が減少することが懸念される。

前述のように、施設に直接来場しないお客さま(施設外の顧客)へのネット配信等により収益を維持・確保する手段はある。しかし、施設外の観客のみでコロナ禍以前と同規模以上の収入が得られるかは不透明である。

集客施設の保有者・運営者が収益を維持・確保するためには、感染対策を徹底した上で、興行主催側と連携し、来場者の客単価を増やす工夫が必要となる。運用面での工夫やDX(デジタルトランスフォーメーション)技術の活用(表1参照)等により、新たな価値を創出するサービスを開発・提供し、来場者の満足度を向上させることが求められる。
表1 スタジアム・アリーナにて新たな価値を創出するサービス案
表1 スタジアム・アリーナにて新たな価値を創出するサービス案
出所:三菱総合研究所
感染防止対策としては、各業界団体が感染拡大防止ガイドラインを作成している。手指消毒や換気などの基本的な衛生管理に加え、フィジカルディスタンスの確保、マスクやフェースシールドの着用、大声を出すことの禁止など、具体的な対策例を挙げている。これらの感染対策は、あくまでも必要最低限の条件であり、来場者が安心してライブやスポーツ観戦を楽しむためには、例えば、人の密度に応じて換気する調整システムの導入や、体調不良者の入場時検出システムなどの基盤整備が追加で必要となる。一定の収益を確保できなければ、こうした設備投資も不可能であるため、新たな価値を創出するサービス開発は必要不可欠である。

地域と連携し、より持続的なスタジアム・アリーナへ

スタジアム・アリーナなどの大型集客施設は、施設単体で閉じるものではなく、周辺地域の経済・文化・交流の拠点として重要な役割を担っている。ウィズ/ポストコロナ時代では、バーチャルなイベント参加、オンライン視聴が主流となり、リアルなイベントの開催数が減少する可能性がある。施設保有者・運営者に限らず、地域経済にも大きな打撃となる。周辺地域が連携し、地域の価値・ブランドを向上させ、施設に来場するお客様を周辺地域へ面的に取り込む、それを集客施設への誘客につなげるといった好循環を生みだす工夫が求められる。

好循環を生む工夫として、個人の行動履歴や属性情報などのデータを活用して、集客施設を訪れたお客さまに周辺の飲食店舗や観光ルートをリコメンドし、周辺地域を回遊してもらう仕組みが考えられる。例えば、来場者の安全性を確保しながら集客施設で“密状態”を体験できるサービスを、周辺地域(周辺飲食店、宿泊施設、交通機関等)に拡張してパッケージ化すれば、国内のイベントファンのみならず外国人観光客に対しても訴求力が高いサービスになると考えられる。移動から、イベント参加、食事、宿泊まで、安全性を確保しながら“密状態”を体験できるのは、参加者にとって魅力的であり、かつ地域にとっても活性化の起爆剤となる。

そのような工夫・仕組みを実践し、地域全体の価値を向上させるためには、さまざまな主体との連携が必要となる。例えば、行政はもちろん、エリアマネジメントを行うまちづくり組織や、地元の大学・企業、さらには周辺MICE施設と連携し、大規模イベントを共催する、個々のイベントを告知しあう等により、誘客や回遊を促進させることが期待される。

当社では、人の属性データ・人流データ等を活用しながら、大規模集客施設を拠点として地域へ回遊したときの定量的効果について研究している。このような定量的効果を地域のさまざまな主体へ示すことで、エリアマネジメントを進める仕組みを検討している(図2)。ウィズ/ポストコロナ時代における“スタジアム・アリーナ超改革”を進め、スタジアム・アリーナを拠点に、周辺地域が連携し、人々の交流を促進し、消費を拡大し、新しい価値が創造される社会の実現に貢献したい。
図2 スタジアム・アリーナと地域との連携イメージ
図2 スタジアム・アリーナと地域との連携イメージ
出所:三菱総合研究所