海外動向 第1回:韓国に吹いたDXの追い風、日本にも吹くか

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2021.4.2

デジタル・イノベーション本部 成 承炫

昨今、日本では働き方やビジネス形態が変化する中で、デジタルやDX(デジタルトランスフォーメーション)などのキーワードが流行している。国レベルでも、デジタル庁の設立に向けた取り組みが進んでいるなど、社会全体としてITインフラの拡充、およびデジタル化の議論が活発となっている。

そのような中、日本に先駆けてデジタル化を進めてきた韓国の事例に注目したい。韓国ではなぜデジタル化の波がより早く押し寄せたのか、その背景になった「追い風」を、デジタルに関連する3つの要素である「消費者(民)・業界(産)・政府(官)」の観点で分析する。

まず民の観点で韓国では、「新しい技術に対する抵抗が少ない」。使い慣れた既存の製品よりも、全く新しい製品を選ぶ人の割合が年齢を問わず高くなっている。新技術の代表格と言えるスマートフォンの普及率は、2014年時点で80%近くに至り※1、2019年には92%に達している※2。60代においても、全年齢層平均とほぼ変わらない9割近くがスマートフォンを利用している※3。日本でのスマートフォンの普及率が2019年基準で83%に達しており、60代におけるスマートフォン普及率は約65%にとどまっている※4ことと比べると、韓国でのスマートフォンの普及の速さが分かる。

韓国で新しい技術や製品に乗り換える人が比較的多いのは、スマートフォンに限らず消費市場全般においての現象である。実際、多くのメーカーが新しい製品・技術の実験場として韓国市場を位置づけ、先端技術を適用した新商品を投入する。消費者が技術を受け入れるスピードが速いことで、メーカーは既存の技術開発や製品販売をより早く打ち切り、新しい技術の開発・投資に集中できるようになっている。一例に、フィーチャーフォン向けのモバイルバンキングサービスは、日本では日本3大銀行の内2行が2020年サービスを終了しているが※5※6(1行は本コラム掲載時点でサービス中)、韓国では全銀行において2015年に終了済みである※7

続いて産の観点では、「内需が限られていること」がある。韓国の総人口は5,200万人程度である※8。そのうち経済活動人口※9は約4,450万人※10だ。ともに日本の半分にも満たない。韓国企業の多くが、この限られた国内市場では成長に限界があると認識し、最初からグローバル市場への進出・販売を前提に戦略を立てている。厳しいグローバル市場での競争に勝ち抜くことを生存の前提として位置づけ、技術優位性を獲得するための技術投資や、ユーザーの最新のニーズを的確にとらえるための調査研究活動を行ってきた。これが、デジタル・ITに代表される新技術領域で韓国企業がグローバルで先行する背景である。

そして官の観点では、「DXを見据えた長期的な観点での政策策定」が目立つ。現在、韓国が誇る超高速ブロードバンドは、1990年代末から2000年代初頭にかけての政府の積極的な投資のたまものだ。当時、政府は「世界一コンピューターの活用が進んだ国を作る」というビジョンのもと、ブロードバンドや移動通信網などITインフラに投資し、「国民PC」※11という公共事業で家庭にパソコンを普及させることで、ITを一般市民になじませた。

さらには、電子政府法を世界に先駆けて導入し、あらゆる行政手続きがウェブで完結できるシステムをいち早く構築した。例えば、住民票の発行は2004年からウェブ上でできるようになっている。その結果、国連の電子政府評価において、韓国は2004年以降1けた台の順位を維持している※12。また、オープンデータ化・オープン標準の採用に尽力し、民間の活動の支援にも取り組んだ。一例として、韓国政府は電子政府関連のソフトウエア開発の負担軽減、ソリューションのオープン化と相互運用性※13の保証を目標に「電子政府標準フレームワーク(eGovFrame)」を策定・公開している※14。未来を見据えたトップの決断とリーダーシップが、積極的な政策を通じて民と産にITやデジタル技術を普及させ、国全体のDX化を後押ししたと言えるだろう。

韓国の事例が今の日本に示唆するものは何か。それは興味深いことに、上述した3つの「追い風」が今、日本にも吹き始めていることである。民では新型コロナウイルス感染症の拡大を機に、リモートワークに代表されるITの需要が爆発的に増加している。産では、今後人口の減少、特に経済活動人口の減少が懸念されている。これは各企業の戦略をグローバル市場中心に移行させるだけでなく、産業全般における省人化や、IoT・AIなど人を代替・支援できる新技術への投資につながるだろう。官でも、デジタル庁の取り組み、経済産業省のDX提唱※15、経済産業省※16・総務省※17が掲げる自治体DXなどから伺えるように、社会全体を通してDXを後押ししようとする動きが見られ始めている。

日本も民・産・官共に、DXに向けての好機を迎えている。追い風を背に、今踏み出そう。
図 韓国のDXの追い風となった民・産・官の要素
図 韓国のDXの追い風となった民・産・官の要素
出所:三菱総合研究所

※1:大韓民国 未来創造科学部・韓国インターネット振興院(2014)「2014年インターネット利用実態調査」
https://www.nia.or.kr/site/nia_kor/ex/bbs/View.do?cbIdx=99870&bcIdx=20775(閲覧日:2021年3月30日)

※2:大韓民国 科学技術情報通信部・韓国知能情報社会振興院(2020)「2019年インターネット利用実態調査」
https://www.nia.or.kr/site/nia_kor/ex/bbs/View.do?cbIdx=99870&bcIdx=21930(閲覧日:2021年3月30日)

※3:大韓民国 科学技術情報通信部・韓国知能情報社会振興院(2020)「2019年インターネット利用実態調査 統計表」
https://www.nia.or.kr/site/nia_kor/ex/bbs/View.do?cbIdx=99870&bcIdx=22082(閲覧日:2021年3月30日)

※4:総務省(2020)「令和元年通信利用動向調査報告書(世帯編)」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/pdf/HR201900_001.pdf(閲覧日:2021年3月30日)

※5:三菱UFJ銀行(2019)「携帯電話(フィーチャーフォン)向けサービス「モバイルバンキング」サービス終了のお知らせ」
https://direct.bk.mufg.jp/info_news/20190828_direct/index.html(閲覧日:2021年3月30日)

※6:Impress Watch(2019)「三井住友銀行、ガラケー向けモバイルバンキング終了」
https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1185554.html(閲覧日:2021年3月30日)

※7:大韓金融新聞(2015)「チップバンキング・VMバンキング…元祖モバイルバンキング、歴史の一部に」
http://www.kbanker.co.kr/news/articleView.html?idxno=58155(閲覧日:2021年3月30日)

※8:大韓民国 行政安全部(2021)「住民登録人口及び世帯現況」
https://jumin.mois.go.kr/(閲覧日:2021年3月30日)

※9:労働・経済活動の意思・能力があると判断される15歳以上の人口。

※10:大韓民国 統計庁(2020)「経済活動人口及び参加率(OECD)」
https://kosis.kr/statHtml/statHtml.do?orgId=101&tblId=DT_2KAA301_OECD(閲覧日:2021年3月30日)

※11:韓国政府が、コストパフォーマンスの高いパソコンを中小企業から入札を受けて生産させ、一般市民に低価格で普及した公共事業。販売は郵便局で行い、購入費用も郵便局経由で補助した。1999年に開始したこの事業は、家庭内PC普及率の底上げに大きく寄与したと評価される。

※12:大韓民国 行政安全部(2020)「UN電子政府評価」
http://www.index.go.kr/potal/main/EachDtlPageDetail.do?idx_cd=1027(閲覧日:2021年3月30日)

※13:異なる製造元のソフトウエアが連動・連携できること。

※14:韓国知能情報社会振興院(2010)「標準フレームワーク紹介」
https://www.egovframe.go.kr/EgovIntro.jsp(閲覧日:2021年3月30日)

※15:経済産業省(2020)「経済産業省のデジタルトランスフォーメーションについて」
https://www.meti.go.jp/policy/digital_transformation/asset/meti-dx/20201001/METI_DX.pdf(閲覧日:2021年3月30日)

※16:経済産業省(2019)「自治体のデジタルトランスフォーメーションに関する取組について」
https://www.meti.go.jp/policy/digital_transformation/asset/meti-dx/20191227/localgoverment_DX.pdf(閲覧日:2021年3月30日)

※17:総務省(2020)「自治体DX推進計画概要」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000727133.pdf(閲覧日:2021年3月30日)

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