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働き方改革 第6回:次世代の働き方「ハイブリッドワーク」の動向と今後(後編)

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2022.4.28

営業本部片山 進

経営戦略とイノベーション

日本の労働者・企業のハイブリッドワークへの意識

前回のコラムでは、労働市場の供給不足(売り手市場)を背景に、米国企業がオフィスワークとリモートワークのいいとこ取りを目指すハイブリッドワークを積極的に推進している状況を紹介した。それでは、日本の労働者・企業の意向はどうなっているだろうか。

国土交通省の調査※1によれば、リモートワーク経験者の8割以上が新型コロナウイルス感染症終息後も継続意向を示している。一方、ロイターの調査※2によれば、コロナ禍でリモートワークを実施している企業の約8割は感染終息後も継続を考えている。大手企業に絞った調査ではリモートワーク継続意向9割という調査結果もある※3。このように、大枠では企業・労働者ともにリモートワーク制度の継続という方向で思惑が一致しているように見える。

ただし、その具体的な中身を見ると、企業と労働者の意向の違いが浮き彫りになる。先述の国土交通省の調査によれば労働者が希望するリモートワークの頻度は週2回という回答が最も多く、週1回以上の割合は9割を超える。同調査の2020年実績ではリモートワーク実施者のうち週1回以上実施している人の割合は75%程度なので、労働者はコロナ禍の今よりもさらにリモートワークの頻度を増やした働き方を志向していることがわかる。

一方、ロイターの調査によればリモートワーク制度の継続を考える企業のうち6割近くは「規模を縮小して継続」としている。ここでの「規模」が対象者数なのか頻度なのかは不明であるが、いずれにせよリモートワークを今以上に積極的に推し進めたい労働者側と企業側の意向には乖離が見られる。

独自調査から判明した従業員の本気度と企業へのメリット

従業員は企業が考えているよりも大胆なハイブリッドワークを求めている。その事実に企業はどう対処すれば良いだろうか。「従業員のわがまま」と切り捨てて良いものか、あるいは真剣に向き合う必要があるものか。見極めるためには、従業員の本気度を知る必要がある。そこで当社はデスクワーカーに対する独自の意識調査を行い、就労者のハイブリッドワークに対する考えを詳細に調査した※4。その結果、従業員のハイブリッドワークに対する本気度は高く、それに対応することで従業員側だけでなく、企業側にもメリットがあることがわかった。

調査結果①リモートワーク経験者を原則オフィスワークに戻すと離職を誘発する可能性がある

図1に示す通り、リモートワーク経験者の約3割は完全オフィスワークに戻ることに対して否定的である。そしてその半数(全体の15%)は、もし完全オフィスワークに会社が戻った場合、離職を検討もしくは実行すると回答している。
図1 完全オフィスワークに戻すことに対する従業員の意向(リモートワーク経験者)
図1 完全オフィスワークに戻すことに対する従業員の意向(リモートワーク経験者)
出所:三菱総合研究所
なお、同じデスクワーカーでも、リモートワーク経験者と未経験者では「魅力に感じる会社・職場」に大きな違いがあることがわかった(図2)。リモートワーク経験者は完全オフィスワークに比べてハイブリッドワークを魅力的と回答する割合が約2倍なのに対して、リモートワーク未経験者では完全オフィスワークとハイブリッドワークの魅力度に大きな違いがなかった。リモートワーク経験者は一度でもその便利さに触れると有用性を感じ、感染終息後もハイブリッドワークを続けたいと思う一方、コロナ禍でリモートワークを経験しなかった人は実感のしようがないのだろう。コロナ禍でこれまでの働き方の変更を余儀なくされたことで、リモートワークに対する意識変容につながったと考えられる。
図2 感染終息後における働き方別の魅力度
図2 感染終息後における働き方別の魅力度
※感染終息後における各選択肢の働き方の魅力度(コロナ終息後を想定した時、あなたは、どのようなの働き方をする会社・職場に魅力を感じますか)を5段階(そう思う、ややそう思う、どちらとも言えない、あまりそう思わない、そう思わない)で聴取。そのうち肯定率(そう思う+ややそう思う)を表示。

出所:三菱総合研究所

調査結果②従業員は理想的な働き方実現のためには給与ダウンもいとわない

従業員は理想的な働き方を実現するためには、給与ダウンも受け入れる覚悟があることもわかった(図3)。もし他の条件が同じで理想的な働き方が実現できる場合、転職により受け入れる給与ダウン幅は平均7.8%(図3赤枠)だった。継続勤務の場合、転職による諸リスク(職場環境になじまないなど)がないため、許容できる給与ダウンはさらに大きくなった。
図3 理想的な働き方を実現するために受け入れる給与ダウン
図3 理想的な働き方を実現するために受け入れる給与ダウン
出所:三菱総合研究所
もちろん、全員が実際に回答した通りの行動を取るとは限らない。ただし、日本の労働者も諸外国の労働者と同様、ハイブリッドワークを強く志向し、離職・給与ダウンも辞さない姿勢がうかがえる。

逆に考えれば、従業員にとっての理想的な働き方を実現した企業は、そうでない企業に比べて人材獲得競争で優位に立つことができる。たとえ給与水準や採用ブランド力で競合他社に劣後していたとしても、優秀な人材が働き方に魅力を感じて入社することもありえる。すでに人口減少社会に突入している日本において、優秀な人材確保は喫緊の課題である※5。ハイブリッドワークを従業員が求める形で推進することは、従業員のためだけでなく、会社にも大きなメリットをもたらすだろう。

ハイブリッドワークの導入に向けた働き方改革のポイント

働き方を変えることで労使ともにwin-winな成果を目指す、これはまさに「働き方改革」を進めることと同義である。ハイブリッドワークを推進するためには従来の働き方改革と同様、「仕事の進め方・やり方の見直し」「マネジメントシステムの見直し」「人材の再定義・リスキル」の3点を同時にバランス良く設計・実施することが大切だと考える。

まず仕事の進め方・やり方をリモートワークとの親和性が高くなるように再設計する必要がある。既存の研究から「自律性」「スケジューリングに関する裁量」「タスクの独立性」が高い職務ほどリモートワークがしやすいということが知られている※6。意思決定のプロセスを明確にし、権限委譲を進めることや、ビジネスチャットなど非同期的なコミュニケーションを増やすことで、リモートワークとの親和性は高まっていくであろう。もちろん見直しの過程で改めて無駄な業務や慣習はゼロベースで見直すことも必要だ。従来の働き方改革が進めてきたペーパーレス化、業務インフラのIT化も、「タスクの独立性」を高めるという観点で継続的に進めるべき事項である。

次に業務を管理し評価するマネジメントシステムを更新する必要がある。プロセスからアウトプットに評価の中心を変える必要があるし、各種手当を始めとした処遇もハイブリッドワーク時代にふさわしいものに一新する必要がある。ITシステムへの投資も求められる。

最後に、働き方が変わるということは求められるスキルも変わるということだ。業務がより自律的になると、従業員は主体的に働くことが求められる。また、対面コミュニケーションが減る中でコミュニケーションに占める言語コミュニケーションの割合も増えるため、言語コミュニケーション能力の必要性が高まる。リーダーレベルでは部下の状況をより少ないヒントから探り、先手を打って状況を把握する能力が必要となる。求められる能力が変化する中で、自社の人材像の変更や、研修体系の見直しなどが必要となるだろう。

このようにハイブリッドワークを進めるための要素を一つひとつ見ると、決して特別でとっぴな施策ではなく、従前から企業が進めてきた働き方改革の延長線上にあることがわかる。ポイントは施策の内容よりもスピード感であろう。新型コロナウィルス感染終息後に新しい働き方を実現させるためには、従来3年~5年かけて実施しようとしていた働き方改革の施策を、ここ1年程度で実行し定着させる必要がある。そのためには経営者が働き方改革をより上位の経営課題として位置づけ、自ら主体的に行動すべきである。

※1:国土交通省「令和2年度テレワーク人口実態調査-調査結果」(2021年3月)
https://www.mlit.go.jp/report/press/toshi03_hh_000072.html(閲覧日:2022年3月23日)

※2:ロイター「12月ロイター企業調査:コロナ後も8割がテレワーク継続、働き方改革」
https://jp.reuters.com/article/reuters-survey-work-idJPKBN2IN2EG(閲覧日:2022年3月23日)

※3:毎日新聞「テレワーク、コロナ収束後も『9割』が継続意向 主要企業126社アンケ 社員から『しんどい』声も」
https://mainichi.jp/articles/20210129/k00/00m/040/363000c(閲覧日:2022年3月23日)

※4:全国のデスクワーカー(リモートワーク経験あり800名、リモートワーク経験なし200名、計1,000名)向けの調査。調査時期は2021年12月21日(火)~23日(木)。なおデスクワーカーとは下記参考の「オフィスワーカー」と同義で、職種が専門的・技術的職業従事者、管理的職業従事者、事務従事者のいずれかのものを指す。
参考:ニッセイ基礎研究所「再考/東京オフィス市場の「2010 年問題」」
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=36578(閲覧日:2022年4月19日)

※5:例えば、日本能率協会「日本企業の経営課題2020」によると「人材の強化」は3年連続で「収益性の向上」に次ぐ2番目の経営課題として経営者に認識されている。

※6:Tammy D. Allen他, "How Effective Is Telecommuting? Assessing the Status of Our Scientific Findings", Psychological Science in the Public Interest, Vol 16, Issue 2, 2015

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