コラム

経営戦略とイノベーション経営コンサルティング

働き方改革 第2回:ニューノーマル(新常態)に向けた業務改革

タグから探す

2020.5.27

経営イノベーション本部片山進

経営戦略とイノベーション

ポストコロナ禍ではテレワークは普通のオプションに

コロナ禍発生以前、テレワーク制度・在宅勤務制度は多くの企業にとって「存在するが、一部の従業員が使う特別な制度」に過ぎなかった。三菱総合研究所が独自に行ったアンケート調査の結果では、コロナ禍以前において、テレワーク制度・在宅制度を積極的に活用している企業は13%に過ぎなかった。しかし、コロナ禍の最中である現在(2020年3月末時点)では、その割合が43%に伸長した(図1)。東京都が2020年4月に実施した調査※1においても、テレワークを実施した社員は昨年12月時点の15.7%から49.1%に伸長しており、同様の結果が示されている。
図1 「テレワーク・在宅勤務制度」を積極的に活用している企業の割合が増えている
図1 「テレワーク・在宅勤務制度」を積極的に活用している企業の割合が増えている
出所:三菱総合研究所が公式メルマガ読者に対して行ったアンケート調査(回答者93人)
また、従業員にも意識の変容が見られる。三菱総合研究所が独自に実施した別のアンケート調査※2によると、コロナが収束した後に「会社に通勤して働きたい」と考える人は減る一方、「使い分けたい」と考える人が増えている(図2)。
コロナ禍が収束したポストコロナ禍の働き方においては、テレワーク制度・在宅勤務制度は、特別なオプションではなく、オフィスワークと並ぶ普通のオプションとなり、各人が業務内容やプライベートの状況に応じて、働く場所や環境を選べる働き方になるであろう。
図2 「会社に通勤するかテレワークするか」を選びたいという意向が増えている
図2 「会社に通勤するかテレワークするか」を選びたいという意向が増えている
出所:三菱総合研究所「新型コロナウイルス感染症の世界・日本経済への影響と経済対策提言」(2020年4月6日)のp24の図表3-3から筆者作成

企業はニューノーマルを意識して業務の再設計を始めるべき

2020年5月25日に全ての都道府県で緊急事態宣言が解除され、日本におけるコロナ禍は一旦の収束が見えてきた。しかし収束以降も第二波、第三波への警戒が必要であると言われており、コロナ禍への対応は長期戦の様相を呈している。第一波では急激なテレワーク対応を半ば強制的に進めた結果、テレワークが難しい人(家庭のITインフラが脆弱であるなど)や、テレワークに向いていない業務の人(研修講師など)からは不満の声も散見する。今後長期化するコロナ禍に企業が無理なく対応するためには、テレワークと業務の相性を見定める必要があり、前提として業務の整理が求められる。

具体的には、「テレワークとの親和性」「事業継続性」の2つの観点から業務の整理を行うことが重要だ(図3)。当面、経済活動の緩和期と抑制期の繰り返しがニューノーマルとなることが想定される中、緊急事態宣言の再発出時のような抑制期には、オフィスワークはできる限り少なく、最大でも全体の業務の20%以下に抑える必要があり、事業継続に必要な「継続必須業務(および縮小可能業務の一部)」かつ「出社必須業務」に従事する従業員のみを出社させる対応が求められるであろう。それに対する事前の備えを進めるとともに、緩和時には「出社必須業務」「出社推奨業務」に従事する従業員を出社させることができれば、中長期的な事業成長、長期化するコロナ禍への対応、変わりゆく従業員のテレワークへの意識を並立させることが可能と考える。
図3 業務を再整理し、緩和期と抑制期で遂行体制を素早く切り分ける必要がある
図3 業務を再整理し、緩和期と抑制期で遂行体制を素早く切り分ける必要がある
出所:三菱総合研究所
こうした業務再整理において3つのポイントがあると考えられる(図4)。
第一は「継続必須業務」「縮小可能業務」「中断可能業務」の識別である。法律で義務付けられている業務の他に、自社が顧客への価値提供という観点から絶対に欠かすことのできない業務はなにかを改めて整理する必要がある。

第二に「出社必須業務」の縮小・廃止である。抑制期に従業員の命と健康を守りながら企業を継続させるためには、出社必須業務はできるだけ少ないほうが良い。ペーパーレス・はんこレス推進に加え、テレワーク用PCへのセキュリティ対策の強化などのIT投資を行い、出社必須業務を極力少なくすることが求められる。「出社しないと評価が下がる」などの暗黙の組織風土の是正もここに含まれる。

第三は「出社推奨業務」の「通常業務」への移行である。複数人で行う業務の場合、「対面の方がやりやすい」と感じ、「通常業務」ではなく「出社推奨業務」とラベリングしがちである。しかし、細かな工夫を重ねることで、「通常業務」の割合を増やしておくことが、抑制期の業務生産性の改善に直結する。また、従業員の働きやすさや企業ブランド向上にも寄与するだろう。工夫の一例として、①定例会議や情報共有のように双方向性が低い会議はテレワークで代替する、②アイデア出しの会議では個人でのアイデア出し・参加者全員のアイデアの交換まで事前に済ませた後に対面で議論する、などが挙げられる。

以上の一点目と二点目は、現場の状況・要望を踏まえながら、トップダウンによる大局的な視点での意思決定・投資判断が重要となる。明らかな中断可能業務にもかかわらず社内政治のためにやめられないといったことは、トップダウンで解消すべきである。また、「中断可能業務は業務として重要でない」などの誤解が生じないようにメッセージを出すことや、率先してペーパーレス・テレワークを推進することもトップの重要な役割である。

一方、三点目のような工夫は実務を行う現場だからこそできることであり、この数カ月間、実際に現場で行われてきたものだと考える。来る緩和期においては、ボトムアップでの工夫を汎用化・横展開することで、「通常業務」の割合を高めることが期待される。
図4 ニューノーマルに対応した業務再整理の論点
図4 ニューノーマルに対応した業務再整理の論点
出所:三菱総合研究所

※1:東京都「テレワーク『導入率』緊急調査結果」(2020年5月11日)
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/hatarakikata/telework/cyousagaiyou0511.pdf(閲覧日:2020年5月21日)

※2:三菱総合研究所「生活者市場予測システム(mif) 」アンケート調査(回答者5,000人)

関連するサービス

連載一覧

関連するナレッジ・コラム