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働き方改革 第3回:コミュニケーションマイニングで変わるポストコロナの働き方

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2020.6.18

AIイノベーション推進室勝山裕輝

経営戦略とイノベーション

テレワーク導入でデジタル化が進み、さまざまな業務ログが蓄積・集約される

新型コロナウイルスの流行によりテレワークを導入する企業が急増している。新型コロナウイルス感染症の収束後も企業の53.2%がテレワークを継続したいと回答している※1ように、テレワーク継続は従業員の期待も高く、これを機に一般化する可能性が高い。

テレワークは通勤時間の削減や子育てとの両立などによるワークライフバランス改善に役立つが、メリットはそれだけではない。注目したいのは、これまで紙資料などのアナログな状態で埋もれていたさまざまな情報・ログが、テレワークを行うことでデジタル化されて蓄積されることである。そうした情報として業務ログがあげられる。Microsoft365 や G suite などのグループウェア利用も一般化し、全社員の業務のログが一つのプラットフォームでひもづけられる状態となった。これらの業務データを分析・活用することで、従来の働き方を大きく改革できる。

非定型業務プロセスからナレッジを獲得するコミュニケーションマイニングが登場

業務ログの収集・分析は、プロセスマイニングと呼ばれる技術を用いて活用が進められている。これまでのプロセスマイニングは、CRM(顧客関係管理)やERP(基幹システム)などのシステムを通じてデータを取得することができる一部の業務に限定されていた。また、分析と改善のためにはBPM(ビジネスプロセスマネジメント)のように、一つひとつの業務を人間が分析してナレッジを体系化した上で改善方法を検討する必要がある。このため、体系化しにくい非定型業務への適用ハードルが高いという課題もあった。これらの課題から、分析を通して業務プロセスの可視化や改善が可能な業務は、経理などの定型業務がメインターゲットとなっていた。

しかし、今後はテレワーク導入とともに、これまで収集できなかったメールやチャット、会議の発言内容などの、コミュニケーションに関連するデータを分析するプロセスマイニングが可能となる。いわば、コミュニケーションマイニングの登場といえるだろう。この手法を用いれば、コミュニケーションスキルの底上げや経験・ノウハウの補完ができ、業務内のコミュニケーションプロセスが改善できる。

コミュニケーションに関連するデータは、体系化して整理しにくいテキストや音声などであり、業務内容のバリエーションも多い。そのため、人間が分析・体系化して改善方法を考えるよりも、AI技術を用いて過去のデータから機械的に類似しているデータを見つける手法が向いている。

例えばコールセンターでは、会話音声を音声認識でテキストに変換してログとして残す取り組みや、そのログをもとにFAQを作成しておき、類似の相談を受けたときにFAQを表示することでオペレーターをリアルタイムにサポートするAIがすでに導入されている※2。いち早く業務をデジタル化し、ログを蓄積したことで効率化に成功した事例の一つだ。この例のように、コミュニケーションマイニングを用いた業務改善に必要なAI技術はすでにそろいつつあるのだ。

テレワークで急速に業務ログが蓄積されコミュニケーションマイニングが加速

これまでは対面が多くログを蓄積できなかった業務でも、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う業務のオンライン化・デジタル化が進むことで、急速にログが蓄積されるようになるだろう。さらにはさまざまな業務で、コミュニケーションマイニングも急速に発達すると考えられる。例えば営業や会議進行など、経験やノウハウが重要となるコミュニケーションが多い業務では、メンバー全体の経験・ノウハウをログからマイニングすることで、AIによるサポート・代替が可能となる(表)。
表 コミュニケーションマイニングで改善できると考えられる業務の例
表 コミュニケーションマイニングで改善できると考えられる業務の例
出所:三菱総合研究所
業務ログを分析して改善する上で重要なことは、ナレッジを共有するだけで終わらず、業務のやり方(働き方)そのものを変革することである。例えば図に示すように、これまでは主催者が実施していた会議のファシリテーションをAIに任せる、AIがその場に適した会話テクニックや製品情報をサジェスト表示することで知識と経験の差を埋める、などのやり方が考えられる。従来は各個人のコミュニケーションスキルに依存していた業務が、AIによって誰でも同じように、かつ今までよりも効率的に実施できるようになるのだ。
図 コミュニケーションマイニングで変わる業務の進め方
図 コミュニケーションマイニングで変わる業務の進め方
図 コミュニケーションマイニングで変わる業務の進め方
出所:三菱総合研究所
ここで注目すべきは、コミュニケーションマイニングのコアとなるAI技術は、対象の業務内容に依存しない共通のもので、かつすでに存在する技術の延長であるため、ログさえ蓄積されればすぐにでも実用化できる業務が多いということだ。会議の音声からログを作成する音声認識技術が未熟な部分もあるが、過去のログから現在の状況と類似したデータを抽出するというコア部分のAIタスクは共通のものであり、コールセンターなどでの先行事例もある。コミュニケーションマイニングで熟練社員の過去のログから業務ノウハウを学習し、新入社員であっても同じように業務を行うことができる社会が実現する日も近い。

AIによるコミュニケーション改革で問われる業務の本質

業務に必要なコミュニケーションをAIで支援することが一般的になれば、すべての人のコミュニケーションスキルを底上げすることができる。そのときにわれわれ個人が生み出す価値は何だろうか。方向性は二つあると考える。

第一に、現在の業務のプロフェッショナルとして、AIに学習させるための教師役となり、良い働き方のデータをためることである。最新の情報を取り入れた発言をすることや無駄を省いた洗練された会議を行うなど、良質な業務ログを作り出せば、コミュニケーションマイニングは他者の良い働き方を学び、自身の働き方をさらにステップアップすることにもつながる。

第二に、既存の業務のやり方そのものを改善し、さらなる効率化を進めることである。AIの支援を受けていく中で、そもそも人間が介在する必要があるのか、現在の組織構成には無駄が多いのではないかと、業務や組織の在り方を追求し、改善方法を研究してくことが求められる。

二つの方向性に共通して言えることは、AIにできることはあくまで過去のログから最適な行動を見つけることでしかなく、さらに改善していくには人間が必要ということである。われわれはこれまで以上に、現在の業務の在り方を問い続ける必要があるだろう。

※1:パーソル総合研究所「緊急事態宣言(7都府県)後のテレワークの実態について、全国2.5万人規模の調査結果を発表 テレワーク実施率は全国平均で27.9%。1カ月前の13.2%に比べて2倍以上」(2020年4月17日)
https://rc.persol-group.co.jp/news/202004170001.html(閲覧日:2020年6月15日)

※2:NTTテクノクロス「ForeSight Voice Mining(フォーサイトボイスマイニング)」
https://www.ntt-tx.co.jp/products/foresight_vm/function.html(閲覧日:2020年6月15日)

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