コラム

経営戦略とイノベーション経営コンサルティング

働き方改革 第5回:次世代の働き方「ハイブリッドワーク」の動向と今後(前編)

タグから探す

2022.3.14

経営イノベーション本部片山 進

経営戦略とイノベーション

オフィスワークとリモートワークのいいとこ取りを目指すハイブリッドワーク

コロナ禍が始まって丸2年が過ぎ、リモートワークが一時しのぎの範囲を超えて定着しつつある。その中、コロナ終息を見据えて「ハイブリッドワーク」という新しい働き方が注目を集めている。

コロナ禍でリモートワークを実施した多くの人が認識した通り、オフィスワーク、リモートワークにはそれぞれ長所がある。リモートワークは通勤時間の削減、自身の好みに合わせた執務環境構築、より自由な居住地選択、といった長所がある。一方、オフィスワークには対面コミュニケーションだからこそ自然発生する雑談や思いがけない人とのコミュニケーション、そこから生まれる組織の一体感やクリエイティビティといった長所がある。また、特に入社年次の浅い人が組織カルチャーや暗黙知にふれるためにはオフィスワークの方が優れている。

ハイブリッドワークは、リモートワークとオフィスワークのどちらか一方を選ぶのではなく、両方のいいとこ取りを目指す働き方である。コンセプトとしては非常に魅力的であるが、果たして本当にそのような働き方を実現することはできるのだろうか。そのような働き方は企業の付加価値向上につながるのだろうか。本コラムでは2回にわたって、ハイブリッドワークの可能性と日本企業の取るべき道について検討したい。前編の今回は、筆者が現在拠点をおいている米国の事情について整理する。

人材マネジメント戦略に応じたハイブリッドワーク

はじめに、ハイブリッドワークが実現されると具体的にどのような働き方となるのであろうか。

ペンシルベニア大学ウォートン・スクールのCappelli教授の近著「The Future of the Office」の議論を踏まえ、ハイブリッドワークの典型的な姿として3つの類型を紹介しよう。
図 3つの典型的なハイブリッドワーク
図 3つの典型的なハイブリッドワーク
出所:Peter Cappelli "The Future of the Office" (Wharton School Press, August 2021)を参考に三菱総合研究所作成
1つ目は従業員区分型である。この場合、「オフィスワークを志向する者はオフィスに戻りなさい。リモートワークを志向するものはリモートワークを続けなさい。」と割り切ってしまうやり方で、従業員は毎日オフィスワークをする従業員と毎日リモートワークをする従業員に分けられる。結果としてオフィスワーカーは職場にいる同僚とコロナ以前と同じような働き方ができるだろう。

課題は、オフィスワーカーとリモートワーカーの間のコミュニケーションがどうしても断絶することである。web会議をすることで公的な情報は共有できるものの、オフィスで自然発生する立ち話、雑談まではどうしてもリモートワーカーには届かない。したがって、リモートワーカーは組織のコミュニケーション・調整・意思決定から追いやられて「second class citizenship」※1のように扱われ、社内で部外者のような存在とされる危険性がある。

2つ目は企業主導ハイブリッド勤務型である。例えば月・水・金を出社日として火・木をリモートワーク日にするというような具合だ。長所として、出社日にはオフィスワークの良さが求められる同僚とのネットワーキングや創造的な仕事をしながら、リモートワーク日にはリモートワークに適した仕事ができることだ。全員が同じ曜日に出社しているので、会議のスケジューリングも容易だし、一部だけ対面、一部web参加の「ハイブリッド会議」に悩まされることもない。

他方、リモートワーク日にはオフィスの稼働率はゼロとなるためオフィススペースには無駄ができる。出社日にはコロナ以前と同じ人数の従業員が出社するため、オフィスの作りを大胆に変えることも難しいし、リモートワーク日にも家賃は発生するので、リモートワークのために必要なIT投資の分だけ確実にコスト高となる。部署ごとに出社日を分ければオフィス稼働率を平準化することはできるが、今度は複数部署と交流する部署(例えばバックオフィス)の出社日の設定が難しくなる。

3つ目は従業員主導ハイブリッド勤務型である。これはいつ出社していつリモートワークをするかを従業員個人に任せる方法である。この方法は従業員に高い自律性が求められる一方、最も柔軟性の高い働き方が実現できる。従業員によって出社する日が異なるため、オフィスの稼働率を平準化することができ、オフィス賃料の低減につながる。また、「オフィスは協働するための場所」と割り切って個人の机を廃止しコミュニケーション用のスペースを拡充するなど、大胆なレイアウト変更が可能となる。

ただし、従業員によって出社日が異なるということはデメリットもある。「他の人と会話をしたいがために出社したのに、自分以外みんなリモートワークだった」という自体が想定しうるからだ。また、ある人にとっては「これは出社して顔を合わせて話した方がいい事項」でも違う人にとっては「web会議で十分な事項」かもしれない。そのような価値観のすり合わせも必要だ。いつ出社して、いつリモートワークするか、それを自分の都合だけでなく、他の職場メンバーと協調して調整するコストは3つのやり方で一番高い。

上記の企業主導ハイブリッド勤務型と従業員主導ハイブリッド勤務型はあくまでも一例であり、実際はその中間的な形態(例えば原則自律決定型だが全社員出社推奨日を定める、など)も想定できる。しかし、生産性向上を達成するためには、オフィスワーク、リモートワークの判断を会社側がする方が良いと考えるか、従業員の自主性に任せたほうが良いと考えるか、根本的な思想に違いがある。

実際、筆者の肌感覚から見ても、組織の規律と指揮命令系統を重視するカルチャーの企業は「企業主導ハイブリッド勤務型」のハイブリッドワークを、権限委譲と従業員の自律性を重視するカルチャーの企業は「従業員主導ハイブリッド勤務型」を志向することが多いように感じる。前者の代表例はVanguard Group※2やCapital One※3のような金融機関である。またテック業界の中では比較的規律を重んじる官僚主義の会社として知られているApple※4も同様の方針を示している。他方、後者の代表はSlack※5に代表されるテック業界だ。

米国におけるハイブリッドワークの進展要因

このように人材マネジメントの考え方の違い※6に起因する実装上の形は異なるが、大半の経営者がハイブリッドワークを進めようとしている点は一致しているように思える※7

米国でハイブリッドワークの試行が進む背景として、コロナ禍でリモートワークを経験した労働者の価値観が変化したことが挙げられる。米Bankrate社が実施した就労者向けのアンケートによると、キャリアを考える上で重要な要素として「(働き方の)自由度」を選んだ人の割合は56%と最も高く、「高待遇」の53%をも上回った※8。また、シカゴ大学Barrero氏らの研究グループの調査によれば、雇用主から完全にオフィスワークに戻ることを指示された場合、4割以上の回答者が「離職する」もしくは「いったんは従うがリモートワークできる新しい仕事を探す」と回答した※9。さらに、米GoodHire社の調査によれば6割以上のリモートワーカーが「リモートワークを続けることができるなら給与カットを受け入れる」と回答している※10

米国ではコロナウイルスによる死者数はすでに南北戦争を上回り、建国以来最大の大禍となっている。市民の価値観・意識・行動様式にも必然的に大きな影響が及んでいる。対面業務を忌避し、リモートワークに傾倒する流れもその一環と捉えることができよう。他方、米国のホワイトカラーもオフィスワークによる対面コミュニケーションの重要性は十分に理解している。

実際、各種調査からも理想的な働き方として選ばれる割合は「完全リモートワーク」よりも週2~3回程度の出社が一番多いことがわかっている※11。対面コミュニケーションが全く取れなかったロックダウンを過ごした経験から、多くの従業員が対面コミュニケーションの重要性を痛感したのであろう。このようなリモートワーク、オフィスワーク双方への評価が重なって、従業員のハイブリッドワーク志向が強まっているものと考えられる。前述Barrero氏らの研究グループは調査結果を踏まえ、コロナ終息以降もリモートワークは米国社会に根付き、米国全体の労働力のうち20%はリモートワークで占められると予想している※12

一方、経営者はどう考えているのか。経営者の考えるリモートワークの頻度は労働者の理想とする頻度よりも少ないことがわかっている※13ことから見ても、経営者は労働者ほどリモートワークに積極的ではないのは事実だ。しかしながら、経営者側にも労働者の意向を無視できない事情がある。今米国では「Great Resignation(大量退職時代)」という言葉が生まれるほど、離職が多く発生し、多くの企業が人手不足に悩まされている。転職が当たり前の米国社会では労働市場の動向が会社側と労働者側のパワーバランスに直結する。現在のように労働市場が超売り手市場の状態では、労働者の意向を無視することはできない。本音は別としても、経営者は人材確保のために当面ハイブリッドワークを目指さざるを得ない状況にある。

よりよいハイブリッドワークを実現するための試行錯誤

このように労働者のハイブリッドワーク志向と、売り手市場の労働市場を背景に、米国においてハイブリッドワークの試行は当面進むと思われる。ただし、ハイブリッドワークの真の成果が問われるのはその先である。労働市場が今の超売り手市場から中立的、もしくは買い手市場になった時、オフィスワークへの揺り戻しがあるのか、それともそれまでの試行の中で、ハイブリッドワークが生産性・付加価値向上の観点から上回っていると経営者が確信するのか、答えは今後数年間の試行錯誤が握っている。

すでに、試行錯誤の一部は始まっている。例えばSmarten Spacesというスタートアップはハイブリッドワーク時代に適合した新しい従業員管理システムを提供している。この会社が提供するサービスを使うことで、従業員は上司や同僚、部下が出社するのかリモートワークをするのか、出社するとしたらどこの席に座るのか、などを一覧することができ、その情報を元に自身の出社形態を決めることができる。また、AIが従業員の行動履歴に基づいて出社の要否についてリコメンドしてくれる。同様の発想に基づくハイブリッドワーク管理システムは、現在いろいろなスタートアップが開発を進めている。これは自律型ハイブリッドワークのデメリットである出社/リモートの調整コストをテクノロジーで解決しようという動きと捉えることができる。

さて、ここまで米国企業が、従業員の意向などを背景に、ハイブリッドワークを自社にあった形で導入・試行していることを紹介した。一方、日本企業の従業員はどのような意向を持っているのだろうか。また、日本企業はその意向や自社の事業環境・事業戦略を踏まえ、ハイブリッドワークに対してどのように向き合うべきなのだろうか。次回後編は独自に実施した就労者向けアンケートをもとに、日本人就労者の意識構造を分析し、日本企業の取るべき道について検討したい。

※1:Peter Cappelli "The Future of the Office" Wharton School Press, August 2021

※2:INSIDER ”Here are 6 finance giants, including Deutsche Bank and Citigroup, which are embracing a hybrid work model as staff return to work”
https://www.businessinsider.com/banks-adopt-hybrid-work-models-pandemic-deutsche-bank-citigroup-2021-5#vanguard-1(閲覧日:2022年2月2日)

※3:Capital One “Capital One Declares Future as a Hybrid Work Company”
https://www.capitalone.com/about/newsroom/hybrid-work/(閲覧日:2022年2月2日)

※4:The Information “Apple Sets Feb. 1 for Return to Office”
https://www.theinformation.com/briefings/apple-sets-feb-1-for-return-to-office(閲覧日:2022年2月2日)

※5:Fast Company “This is how IBM and Slack are approaching hybrid work”
https://www.fastcompany.com/90624414/this-is-how-ibm-and-slack-are-approaching-hybrid-work(閲覧日:2022年2月2日)

※6:どちらの考え方が良い/悪いではない点には注意が必要。人材マネジメントの思想は企業の事業戦略との整合が重要である。

※7:例えばEnvoy社の調査など。 
Envoy “Enterprise executives say hybrid work is here to stay”
https://envoy.com/content/ebook/ds02/dl/employer-hybrid-work-survey-2021/(閲覧日:2022年2月2日)

※8:Bankrate “Survey: 55% of Americans expect to search for a new job over the next 12 months”
https://www.bankrate.com/personal-finance/job-seekers-survey-august-2021(閲覧日:2022年2月2日)

※9:Jose Maria Barrero, Nicholas Bloom&Steven J. Davis “Let me work from home, or I will find another job” University of Chicago, BFI WORKING PAPER, JUL 21, 2021

※10:GoodHire “The State Of Remote Work In 2021: A Survey Of The American Workforce”
https://www.goodhire.com/resources/articles/state-of-remote-work-survey/(閲覧日:2022年2月2日)

※11:例えば※8の調査など。

※12:Jose Maria Barrero, Nicholas Bloom & Steven J. Davis “Why Working from Home Will Stick” NBER, April 2021

※13:※12と同じ。

関連するサービス・ソリューション

連載一覧

関連するナレッジ・コラム

もっと見る
閉じる