コラム

カーボンニュートラル時代の原子力エネルギー・サステナビリティ・食農

原子力発電所の運転期間に上限を設定する意味とは?

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2022.11.22

セーフティ&インダストリー本部杉野弘樹

カーボンニュートラル時代の原子力
当社は、2022年10月7日に「提言 カーボンニュートラル時代の長期的な原子力利用の在り方」を発表した。同提言では、カーボンニュートラル達成、エネルギー安全保障の重要性の再認識といった新たな潮流を踏まえ、短期、中期、長期のそれぞれの視点で原子力利用の在り方を提言した。

本コラムシリーズは、これを踏まえて、原子力利用の在り方を具体化して示すものであり、第1回としては短期視点「既存原子力発電所の再稼働」、中期視点「2050年までの原子力の継続的な利用」に焦点を当て、特に、原子力利用の運転期間について解説するものである。

原子力発電所の運転期間に係る議論が加速

2022年8月のGX(グリーントランスフォーメーション:産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させる経済社会システム変革)実行会議※1では、エネルギー政策の遅滞解消のための政治決断として、原子力について「運転期間の延長など既設原発の最大活用」などの検討の必要性が提示された。これを起点に、原子力発電所の運転期間に上限を設定している「運転期間延長認可制度」に注目が集まっている。

運転期間延長認可制度に係る2つの側面

「運転期間延長認可制度」は、2012年の原子炉等規制法改正により新たに導入された、原子力発電所の運転期間を40年とし、1回に限り最大20年の運転期間の延長を認める制度である。本制度は、原子力安全規制として、「運転期間の上限」と「高経年化した原子力発電所の安全性確認」の2つの側面からなる(図1)。
図1 運転期間延長認可制度と高経年化対策制度の関係性
運転期間延長認可制度と高経年化対策制度の関係性
出所:三菱総合研究所
「運転期間の上限」は、原子力発電所の運転期間を40年、1回に限り最大20年延長可能という、運転期間の上限を定めたものである。この40年という数字に関して、本制度導入時の国会審議において、法案提案者より以下の認識が示されている。
  • 40年という数字の設定は非常に政治的なものであって、科学的根拠に基づかない
  • 40年については規制委員会が発足後、専門的な観点から検討されるべき
なお、これに関連して原子力規制委員会は2020年7月、「発電用原子炉施設の利用をどのくらいの期間認めることとするかは、原子力の利用の在り方に関する政策判断にほかならず、原子力規制委員会が意見を述べるべき事柄ではない。」という見解を出している。

現在、資源エネルギー庁では、原子力利用政策の観点から、運転期間の上限設定の有無を含めた運転期間の在り方が検討されている。

一方で、「高経年化した原子力発電所の安全性確認」としては、原子炉圧力容器やコンクリート構造物などの劣化状況を把握するため詳細な点検(特別点検)と、原子力発電所において想定されている経年劣化事象の技術的評価を実施している。

「運転期間の上限」が原子力安全規制から原子力利用政策に移る可能性を念頭に、2022年11月2日に開催された原子力規制委員会では、これまで運転期間延長認可の際に実施してきた「高経年化した原子力発電所の安全性確認」と高経年化対策制度とを統合した枠組みを定める検討案が示された。

原子力発電所の運転を制限するさまざまな原子力安全規制

原子力発電所の運転を制限する制度には、運転期間延長制度のほか、高経年化対策制度やバックフィット制度などがある(図2)。
図2 日本における原子力発電所の運転を制限する原子力安全規制
日本における原子力発電所の運転を制限する原子力安全規制
出所:三菱総合研究所
高経年化対策制度は福島第一原子力発電所事故以前より存在する制度であり、原子力発電所の運転開始30年以降10年ごとに、原子力発電所において想定されている経年劣化事象の技術的評価および長期施設管理方針の策定を義務付けるものである。これらを実施し、認可が得られなければ、原子力発電所の運転は認められない。

また、福島第一原子力発電所事故以降、定期的に運転期間を制限するだけではなく、常に原子力発電所を監督し、事業者の取り組みが許容できない場合に運転停止を命じることができる、バックフィット制度(最新基準への適合義務)や原子力規制検査制度が導入された※2

このように、原子力発電所の運転を、時間基準で制限する制度のみならず、施設の状態に応じて、即座に運転を制限できる制度が整っている。

原子力発電所の運転期間に上限を設定することに意味はあるのか

運転期間延長認可制度が導入されて以降、運転期間の上限の存在と審査長期化等の他律的要因による停止が影響し、計11基の原子力発電所が廃止となった。2030年までに運転開始後40年を迎える原子力発電所は10基あるが、現行の運転期間の上限規定が存続し、長期停止が継続するのであれば、さらに何基かの原子力発電所が同様の理由により廃止となる可能性がある(表1)。
表1 2030年までに運転開始後40年を迎える原子力発電所
2030年までに運転開始後40年を迎える原子力発電所
出所:三菱総合研究所
これは、カーボンニュートラルに向けた潮流や国際情勢の変化に伴うエネルギー安全保障上の危機が顕在化する中、再エネ技術開発等の不確実性への対応策や準国産エネルギーとしての電力安定供給といった、原子力発電所の利用に伴い期待される利益が喪失する可能性を示している。

核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律によると、日本では原子力発電所の設置は禁止されているが、原子力発電所の利用が国民へ利益をもたらすことから、規制要件を満たす時に限って禁止を解除している(発電用原子炉の設置の許可※3)。これを踏まえると、規制要件が原子力発電所利用により期待される利益を過度に損なわないように留意することもひとつの重要な論点である。

原子力発電所の運転期間に上限を設定することは、安全確保の観点で一定の意味はあるかもしれないが、前述の通り科学的根拠に基づかず、政治的な意味合いが強いものであると言わざるを得ない。

「運転期間延長認可制度」は東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえて導入された制度であり、科学的根拠がないからと言って簡単にこの上限を撤廃することは難しいものと考えられる。しかし、原子力発電所の運転期間に上限を設定するよりも、科学的・技術的知見に基づいて定期的に安全確認を実施し、それを踏まえて利用可能性を判断していくことに大きな意味があるのではないか。

※1:内閣官房(2022年8月24日)「GX実行会議(第2回)」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai2/index.html(閲覧日:2022年11月17日)

※2:原子力規制委員会(2021年4月14日)「東京電力ホールディングス(株)に核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律法第43条の3の23第2項に基づく命令を発出」
https://www.nra.go.jp/disclosure/law_new/bousai/Physical_Protection/230000359.html(閲覧日:2022年11月17日)

※3:核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第四十三条の三の五

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