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2019年4月号トピックス5次世代インフラ

EPA発効を鉄道運行事業の発展の契機に

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2019.4.1

次世代インフラ事業本部小田嶋 美咲

次世代インフラ

POINT

  • 日本の鉄道事業者は事故発生率の低さや運行の正確さで世界的に高評価。
  • EUとのEPA発効で国際調達に対応する必要性が増す。
  • 「明文化」は鉄道運行事業の海外展開と持続的発展の契機にもなりうる。  
鉄道運行事業をめぐる国際競争が激化している。香港の鉄道事業者である香港鉄路有限公司(MTR)は、英国・豪州・スウェーデンなどで運行事業を展開し、旅客サービスにおいて高い評価を受けている。一方、日本の鉄道事業者も事故発生率の低さや運行時刻の正確さなどで世界的な評価を得ており、さまざまな国から参画を期待されている。こうした中、2017年にJR東日本が同社としては初の海外鉄道運行事業への参画案件として、英国の鉄道フランチャイズの運営権を取得したことは記憶に新しい*1

半面、海外企業が日本の鉄道調達に参入する動きが強まっている。これまで公営の鉄道事業者*2は世界貿易機関(WTO)政府調達協定*3の例外規定に基づいて、車両など一部の産品の調達先を国内企業に絞ることができた。しかし、この例外規定は2019年2月1日の日・EU経済連携協定(EPA)発効の1年後から対EUで無効となる。このため、国際調達に対応した手続きを整えなければならず、日本は鉄道関連の産品について、市場開放の大きな節目を迎えている。

国際調達への対応で重要なのは、各路線の運転状況や環境に応じた運転性能を実現する上で必要な詳細事項を明文化することである。国内企業との従来型取引では経験則に基づいた不文律が存在しており、仕様書や契約書などに詳細な要求事項を明記する必然性は乏しかった。しかし、商慣習が異なるEU企業にこうした「あうんの呼吸」が通じないことは明白である。

EPA発効に伴う国内調達体制の変革は喫緊の課題と言える。ただし、これを一時的な対処にとどめず海外進出の促進につなげれば、日本の鉄道運行事業を持続的に発展させる契機にもなりうるのではないか。日本の鉄道運行事業を支える要素を棚卸して明文化しておけば、現地での調達を円滑に行う助けにもなるはずだ。さらに、海外からの調達が拡大することで、国内鉄道事業への供給安定化や技術向上も期待できる(図)。

日本勢の海外進出が本格化し、日本の高い鉄道運行技術が海外に広まれば、世界の鉄道運行事業の安全性・安定性を向上させることにもつながるだろう。
[図]EPAを契機とした鉄道運行事業の発展へのステップ

*1:オランダ鉄道が全額出資する英国法人を中心とするコンソーシアムに三井物産とともに加わるかたちで、英ウェスト・ミッドランズ・トレインズの運営権を取得した。

*2:政府資金が投入されている鉄道事業者のうち、WTO政府調達協定の適用対象となる各都市の交通局や東京地下鉄などを指す。

*3:公的機関による調達に関する国際的なルールを規定した協定。競争による公平性・透明性のある調達を原則としており、国内外の企業を差別することを禁じている。

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