マンスリーレビュー

2019年4月号トピックス3経済・社会・技術食品・農業

成熟社会の“食産業革命”

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2019.4.1

プラチナ社会センター木附 誠一

経済・社会・技術

POINT

  • 成熟社会の到来を背景に食へのニーズはパーソナライズ化する。
  • データを起点とした、科学的知見とテクノロジーがドライバーとなる。
  • 「どこでも自分食」による創造的破壊が新ビジネスを創出。  
成熟社会の到来で、生活者は効率性や経済性よりも、生きがいや精神的豊かさを重視するようになりニーズが多様化している。商品製造も、少品目を大量生産する方式から多品目を少量ずつ生産する方式へシフトしつつある。併せて、メタボ該当者や在宅介護世帯が急増するなど健康や高齢化に関する社会課題も深刻化している。こうした動向を背景に、個人の嗜好や健康状態に合わせ、食のニーズはパーソナライズ化するだろう。

食品メーカーや流通業者など供給側は従来、自社ブランド品の生産効率の向上と市場展開に主眼を置き、工場などで規格品を大量生産してきた。パーソナライズ化が進めば、生活者個々のQOL向上に向き合い、食感や味に関する微小な差やこだわりを重視するロングテール型の商品・サービスが求められるようになる。

それを可能にするのが、個人の嗜好や健康状態に配慮したレシピデータである。そして、栄養や健康に関する科学的知見と、AIやIoT、ビッグデータ活用などのテクノロジーが鍵を握る。科学的知見とテクノロジーをドライバーとして、味覚センサー、3Dフードプリンター、調理ロボットといった革新的なツールが誕生している。

こうしたデータやツールを活用して、料理店や宅配業者などが注文に応じたロングテール型の食事を提供する「オーダーメイド」の萌芽はすでに見えている。エームサービスは、社員一人ひとりの健康診断データなどをもとに、社員食堂の献立を個別に推奨するサービス※1を開始した。凸版印刷は女性の肌をきれいにする食生活のあり方を、生活習慣や健康データを踏まえ助言するサービス※2を展開している。

さらに家庭用の3Dフードプリンターやスマート調理家電が浸透すれば、データに基づき自宅で最適な料理を作る「カスタムメイド」が可能になる。究極のオンデマンド生産とも言うべき「どこでも自分食」が実現するのである(図)。そうなれば、多様な業種の参入によってさまざまなビジネスが創出される一方、従来のサプライチェーンは創造的破壊に見舞われる。こうした“食産業革命”はいずれ世界にも波及していくだろう。

※1:社員のスマホに一人ひとりの健康に合った献立を推奨する「健康社食アプリ」や、エームサービスに所属する管理栄養士・栄養士が食習慣見直しなどをサポートする「健康社食コーチ」で構成。

※2:サービス名「肌Up!」。無料会員には生活習慣と肌との関係を示す情報を提供。有料会員になれば食事内容の分析と腸内環境などに関する検査の結果を踏まえ、個別のアドバイスが受けられるようになる。

[図]食のパーソナライズ化に関する将来イメージ