マンスリーレビュー

2019年4月号特集最先端技術

AIの賢い活用が人間中心社会をもたらす

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2019.4.1
最先端技術

POINT

  • AIの高度利用に期待が高まる一方で、課題や不安も少なくない。
  • 目指すべきは、AIを活用し人間がよりよく活躍できる「人間中心社会」。
  • その実現には、「できること」から「すべきこと」への発想転換が必要。 

1.AI脅威論を越えて

AIは、数々のブレークスルーを経て飛躍的な進歩を遂げつつある。さまざまな分野でAIならではの製品・サービスが登場し注目を浴びるが、それらの多くは実装の試行段階であり、社会・産業に組み込まれて本格的に機能を発揮するまでに解決すべき技術的、社会的な課題が多いのも事実である。

AIの急速な進展に対しては、人間・社会がそれに追いつかず、雇用の喪失、犯罪への悪用、さらには人が要らなくなる社会(=人間無用社会)など、高度AI社会を将来の不安・脅威としてとらえる見方も少なくない。機械が人間の仕事を奪うという事象は、18世紀後半から始まった産業革命下でも発生したが、AIは、これまで人間に絶対的な優位があると信じられていた知的領域に踏み込んでくるため、より危機感が高まっている。AI活用が進むなかで新たな雇用機会も創出されるが、新たな仕事への転換は容易でない、創出される雇用は失われる雇用よりも少ないなどの予測※1もみられる。

AIは、人間が行う作業を「代替(自動化)」「補完(能力向上(速度・精度など))」するだけでなく、「相乗(価値創造)」をももたらす。AlphaGoの例を出すまでもなく、特定のタスクではすでに人間の能力を超える成果を上げており、関連技術は絶え間なく進化している。とはいえ、AIが達成できるものはタスク単位であり、人間が行っている仕事、活動の全てをまとめて代替できるものではない。特に、自らの意思・決断により新たな価値を創造して、社会に実装できるのは人間のみである。

AIを脅威とみて立ちすくむよりも、人類が目指す豊かな社会の実現を支える有力なツールと位置づけ、賢い活用を図ることが生産的であることは間違いない。

2.AIを活かした人間中心社会の創出

21世紀、量の豊かさを越えて多様な要素をもつ「質」= QOLの改善を追求する時代に目指すべき社会は「人間中心社会」である。個人の視点からみると、自らの意思に基づき、適切な場において一人ひとりが個性・能力を活かして活躍できる社会である。加えて、異なる考え方、能力・スキル、役割を有する人々が協力・協調しながら活躍・助け合い成長・発展することが目指すべき全体像となる(図)。

人間中心の社会という観点で現状をみると、高齢化やダイバーシティへの対応が進まない、格差や孤独が拡大するといったさまざまな社会的な矛盾・課題が生じている。このため、すでに生じているこれらの社会課題の解決に加え、将来の人間の可能性拡張まで見通した上で、AIを活用した人間中心社会の実現に向けて取り組むことが大切である。以下、人間中心社会を目指すAI活用例を紹介する(表)。

(1) 健康維持と活動支援

当社の生活者市場予測システム (mif) におけるアンケート結果では、50代、60代の希望引退年齢は年々上昇しており、70歳以上まで働きたいと希望する人が最新調査では50%弱に達している※2。しかしながら、現状では70~74歳の就業率は男性でも30%程度※3であり大きなギャップが生じている。この背景には定年制をはじめとする制度的な課題があるが、高齢者一人ひとりに体力や能力の差が大きいこと、健康面・体力面に不安があることも大きな要因として挙げられる。

一般に、記憶力や計算力などの流動性知能は20歳ごろをピークに低下するが、判断力や理解力などの結晶性知能は60歳ごろまで伸び、その後も低下しにくい※4とされている。このため、身体能力も含め低下した能力をAI×ロボティクス技術により補完し、個人の希望に応じて仕事をする上で最適な状態まで引き上げることが考えられる。これにより、異なる年代が一緒に活動的に仕事をすることが可能となる。

現状での高齢者向けのAIを使ったサービスは医療・介護に焦点が当てられているが、支援を一方的に受けるのではなく、支援を受けながら社会の中で能力に応じて活躍し続けられることが大切である。例えば、オリィ研究所が開発しているOriHime※5は、「移動」「対話」「役割」における課題を克服し社会参加を実現とするロボットを中心としたコミュニケーション技術であり、高齢者だけでなく障がいのある方の能力補完においても注目されるサービスである。

(2) 社会的活動への参画

仕事をAIに奪われる不安を感じる一方で、タスクレベルでは、人間がこれまで行っていた作業のAIによる代替、効率化は確実に進みつつある。今後は、AIに何を任せたいか(人間は何をやりたくないか)、人間がどんな作業をやりたいか(AIに任せたくないか)の観点から、AIと人間の協業・共創を考えることが必要となる。

また、高齢化を背景に独居世帯が増加する、格差社会により孤独・孤立が社会問題化するなど、人のつながりの重要性が高まっている。今後は、AIに任せることで新たに創出した時間を活用し、自身のスキル・能力を活かした自己実現、地域活動、助け合いなどの社会的な活動への関与が高まるのではないか。今後の方向性を示す一例として、柏市にて実証が行われているGBER※6の取り組みがある。GBERは、東京大学にて開発された高齢者の地域活動をサポートするプラットフォームであり、就労条件をスキル、時間、場所の3つに分けたモザイク型就労によりジョブマッチングを行っている。本サービスは高齢者のみが対象であるが、同様のサービスを全世代に広げるとともに、AIを活用したマッチングサービスを行うことで、地域の人手不足にも対応した互助コミュニティーの形成にもつながる。

(3) 創造性の拡張

AIの進展は、創造的な仕事においても人の役割を奪うのではないかとの議論がある。しかし、AIがパートナーあるいはアシスタントとなることで、人間のアイデア、クリエイティビティを拡張できると考えた方がよいだろう。人間とAIが協働して価値を創造し人間中心社会を実現するということである。

ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)が研究開発および社会実装プロジェクトとして開発している「Flow Machines」は、アーティストによる作曲をAIにより支援するツールである※7。AIが自動的に作曲をするのではなく、「アイデアとインスピレーションを得ることでより創造性を拡張するためのツール」であり、あくまでも作曲活動の支援を目的としていることに特徴がある。ソニーCSLでは、機械学習、認識技術、データ分析とそれらの人間の能力との融合を「サイボーグ化知能:Cybernetic Intelligence」と名付け、人間中心による技術の開発を行っている。今後、人間の創造力が求められる多様な分野において、このような人間の創作活動を支援するツールが出現することが期待される。また、将来的には、複数の人とAIが共創するための技術も実現するであろう。
[図]人間中心社会のAI活用の考え方
[表]人間中心社会のAI活用例

3.人間中心社会を共創するために

AI普及時代における人間中心社会では、自らの意思に基づく一人ひとりの活躍の実現だけでなく、異なる考え方、能力・スキル、役割を有する人々が協力・協調する共創社会の実現も目指している。国連も、SDGsの基本理念として「誰一人取り残さない」を掲げており、AIが大量に普及した社会でもこの理念が変わることはないだろう。

年齢・性別・障がいの有無を問わず潜在能力をフルに発揮できることがこれからの社会の前提であり、誰もが自由に希望する社会へ参加できる社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)の考え方が重要となる。社会参加・活躍へのハードルを下げる、あるいは障壁を取り払う、公正な判断を下すなど、これらは全てAIを活用することにより実現できることである。ただし、AIは社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン)を助長するリスクも抱えている。

既存のAIにおいても、性差別や人種差別などの傾向があることが指摘されている。AIは大量のデータにより学習することで精度をあげていくが、学習するデータにより生じるバイアスによって、結果的に差別するAIとなる。学習データは人間が生み出すものである以上、潜在的にもっている差別・排除意識を完全に取り除くことは難しい。このため、AIが意思決定のプロセスを可視化し、バイアスがかかる箇所を見つけ出し、適切に処理できるような仕組みも技術的には必要だ。

こうした仕組みづくりの前提として、われわれが目指すべき社会像や目標をあらかじめ明確に設定しておくことが極めて重要である。

4.将来への展望

大切なのは、AIで「できる・実現される」ことの予測ではなく、目指す将来の社会像を起点として、AIで「何をすべき・すべきでない」を人間中心に考えることだ。

将来に向けては、格差への対応、人間の能力拡張に対する倫理的課題、社会的規範への対応など、直ちに解を出すことが難しい課題も多く残されている。これらの課題には、個人の価値観、組織・コミュニティー・国の仕組みや文化的・宗教的な背景が関わっており、解が一つとはならない場合も多い。だからこそ、AIによる大量・多様なデータの解析から学び、合理的なヒントを見いだすことも人間の知恵である。

AIをはじめ革新的な技術が次々と生まれている。先端技術が明るい未来を拓くことへの期待は高まる一方だが、あくまでも人間が主役であることを忘れずに人間中心の共創社会の実現に向けた歩みを進めていきたい。

※1:世界経済フォーラム(2016)では、「2020年までに約710万人の雇用が消え、約210万人の雇用が新たに創出されることで、結果的に約500万人の雇用が失われる」との報告を出している。また、2018年の調査(仕事の未来2018)では、機械化の進展により2022年までに1億3300万の新しい仕事が創出される。一方で7500万の仕事が消える結果、5800万の仕事が創出されるとある。ただし、全ての産業でスキルギャップが生じるため、新しい仕事への準備が必要と報告している。

※2:「生活者市場予測システム (mif) 」

※3:「高齢者の就業状態」平成29年版高齢社会白書、内閣府
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/zenbun/s1_2_4.html

※4:「高齢期における知能の加齢変化」公益財団法人長寿科学振興財団
https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/koureisha-shinri/shinri-chinouhenka.html

※5:「分身ロボットOriHime(オリヒメ)」 http://orylab.com/product/orihime

※6:「GBER」 http://gber.jp/

※7:「Flow Machines」 https://www.flow-machines.com/