マンスリーレビュー

2021年11月号特集2エネルギー・サステナビリティ・食農

カーボンニュートラルを安定供給と経済成長の呼び水に

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2021.11.1

サステナビリティ本部石田 裕之

エネルギー・サステナビリティ・食農

POINT

  • 脱炭素対策を安定供給と経済成長の両立に繋げることが重要。
  • 安定供給面では国内水素サプライチェーンの在り方がポイント。
  • 産業競争力維持・向上のため脱炭素技術の早期開発・実装が必要。

国際的にみた日本の安定供給・経済効率性

日本のエネルギー政策の基本的視点は「S+3E」である。安全性(Safety)を大前提とした「安定供給(Energy Security)」「経済効率性(Economic Efficiency)」「環境適合(Environment)」の3E実現を目指すもので、第6次エネルギー基本計画においても大原則とされる。カーボンニュートラル(CN)の動きに代表される気候変動対策は、3Eの中でも特に環境適合に対する課題認識を起点とし、現在は世界的な潮流となっている。

3Eの実現を目指す日本としては、CNの潮流を環境適合以外の安定供給と経済効率性の2E向上に繋げることも重要である。本稿ではこれら2Eの視点から、日本の国際的な立ち位置を分析する。

図は近年における主要国のエネルギー自給率とGDP成長率を示す。経済効率性の指標は、今後「経済と環境の好循環」※1を目指す中で、広い意味で経済性の観点からGDP成長率を選んだ。
[図]主要国のエネルギー自給率とGDP成長率
主要国のエネルギー自給率とGDP成長率
出所:IEAとIMFの統計をもとに三菱総合研究所作成
エネルギー自給率は特に化石資源の産出国で高い傾向が確認され、米国では97%、中国では80%と高い水準にある。一方、化石資源に乏しい日本では12%※2にとどまっているのが現状である。

GDP成長率は中国やインドで6%前後の高い水準である。先進7カ国(G7)の中でも米国やフランスでは2%前後の成長率を示しているが、日本は0.8%であり、これはG7で最も低い水準である※3

以上のように日本は安定供給と経済効率性のいずれにおいても大きな課題を抱えている。従って、CNを契機としてこの2Eを同時に改善させることが、日本にとって非常に重要となる。

脱炭素時代における「安定供給」

エネルギー自給率の高い国では化石燃料を自給しているケースが多い。米国や中国では自給率全体のうち化石燃料による自給分が80%を超えている。一部の国では脱炭素エネルギーの自給率が高い場合もある。例えばスウェーデンでは自給率全体のうち約6割を原子力と水力が占め、フランスでは約8割が原子力である。このように脱炭素エネルギーによって高い自給率を実現している国では、原子力や水力など比較的大規模なエネルギーの寄与度が高い。

日本はもともと化石資源に乏しくエネルギー需要も大きいため、これらの国に比べると自給率が低い水準にとどまっている。しかしながら国産化石資源が限られる分、再生可能エネルギーをはじめとした脱炭素エネルギーの拡大は自給率を向上させる大きなチャンスでもある。これは自国の化石資源により安定供給を確保している国には無い脱炭素化のメリットである。

一方、革新的な脱炭素技術として期待される水素などのエネルギーキャリアは、国内製造のみならず輸入の可能性もある。特集1で述べたように、大量の水素などを活用するエネルギーシステムを構築する場合、国内製造で賄いきれない分を輸入に頼るケースも考えられる。カーボンフリー水素などの輸入は脱炭素化には貢献するが、自給率向上には寄与しない点に留意が必要である。

脱炭素時代における安定供給の観点では、国内再エネ電力由来の水素(グリーン水素)の利活用など国内サプライチェーンの在り方が1つの重要な論点になるだろう。

脱炭素技術開発と日本の経済成長

特集1で述べたとおり、CNに向けては鉄鋼業や化学工業など素材系産業における脱炭素化の難度が高い。また、素材製品はサプライチェーンの観点も重要である。例えば鉄鋼製品の約3割は自動車向けに使用されており、鉄鋼業界の脱炭素動向が自動車業界に与える影響も大きい。

日本は産業構造に占める製造業の比率が比較的高く、特に鉄鋼・化学・自動車の3業種がGDPに占める割合は7%である。これはG7ではドイツの8%に次いで高い※4

このような産業構造の中、経済と環境の好循環に向けた1つの絵姿として、足元で競争力を有するこれら産業を維持・発展させる上で、難度の高い脱炭素技術開発の必要性が他国以上に高いと言えるだろう。例えば「ゼロカーボン・スチール」※5の早期技術開発は製品や技術の海外展開を通じて、世界の脱炭素化や日本の産業競争力強化・経済成長に資すると考えられる。

重要なのはCN目標達成に必要な対策をコストではなく投資・チャンスと捉え、日本にとって必要な投資先を見極めてその分野で「勝ち切る」ことである。決して容易な道ではないが、日本のより良い未来のため早期の技術開発・社会実装が求められる。

※1:内閣官房ほか(2021年6月)「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」。

※2:国際エネルギー機関(IEA)発表の自給率であり、日本の総合エネルギー統計における公表値(高位発熱量ベース)とは必ずしも一致しない点に留意が必要。

※3:カナダのGDP成長率は2.4%。エネルギー自給率100%を超えるためグラフの範囲外。

※4:OECDの統計をもとに三菱総合研究所試算。

※5:製造過程でCO2を排出しない鉄鋼。