マンスリーレビュー

2023年2月号特集2エネルギー・サステナビリティ・食農

鉄鋼の「カーボンニュートラル資源化」における課題

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2023.2.1

English version: 24 March 2023

経営イノベーション本部佐藤 智彦

エネルギー・サステナビリティ・食農

POINT

  • 鉄鋼業のグリーン化は段階的とならざるを得ない。
  • グリーン化の鍵は国内スクラップの利用拡大にある。
  • CN達成に貢献する製品の価格にはプレミアム付与を。 

グリーン化が急がれる日本の鉄鋼業

鉄鋼業は製造業最大のCO2排出産業であるため、グリーン化の取り組みが急務となっている。

日本の粗鋼生産の7割強を占める高炉転炉製鉄法※1は、鉄鉱石から酸素を取り除く還元を行う際にコークスが、またプロセス全体を通じて大量の熱が必要となることから、石炭やガスなどの化石資源を使わざるを得ない。

このため、CO2排出がより少ないスクラップ製鉄法や水素直接還元製鉄法※2に転換する動きが、欧州を中心に加速している(図)。

しかし、ブルー水素※3製造に伴うCO2回収・貯留(CCS)※4の実施やグリーン水素※5の調達が欧州と比較して難しい日本では水素直接還元製鉄法への転換は容易ではない。このため、日本の鉄鋼業はさまざまな打ち手を組み合わせてグリーン化を段階的に進めることで、最終的なカーボンニュートラル(CN)実現を目指している。
[図] 代表的な製鉄法のイメージ
[図] 代表的な製鉄法のイメージ
出所:三菱総合研究所

打ち手は多様ではあるが

初めに登場する「グリーン鉄」は、CO2の排出削減効果を一部へと寄せるマスバランス方式によって低炭素化を実現した製品であり、神戸製鋼所の「Kobenable Steel」や日本製鉄の「NSCarbolex Neutral」などとしてブランド化されている。

二番手は高炉転炉製鉄法で水素を利用する方式「COURSE50」で製造された鉄である。製鉄所内の副生水素を使うため実現可能性は高いとみられる。高炉転炉製鉄法でのCO2排出低減策としては、高炉での水素利用を外部調達によってさらに増やした「Super COURSE50」も検討されている。

三番手としては、スクラップ製鉄法や水素直接還元製鉄法で製造された高級鋼材を含む鉄が期待される。ただし、水素直接還元製鉄法の導入には2つの大きな課題が存在する。

第1に、酸化鉄の還元を全て水素で行うため、Super COURSE50をさらに上回る水素が必要で、調達コストの影響が大きい。第2に、主原料であるDRグレードのペレット※6は現在、日本には調達の実績がなく、今後確保しようとしても、主要供給元がロシアや南米であるため、安定的な調達が実現するかどうか疑問が残る。

そのため、国内の鉄スクラップの利用を拡大することが、現実的な打ち手であると考えられる。

スクラップの循環利用拡大に向けて

これらを踏まえると日本が今後注力すべきは、スクラップ製鉄法の拡大である。そのためには、品質が多様な鉄スクラップを分別・循環する仕組みの実現や、銅やスズを含む老廃スクラップの再生技術確立などにより、市中の鉄スクラップ循環利用を高度化する必要がある。

日本は現在、鉄スクラップの輸出国だが、高炉転炉製鉄法からスクラップ製鉄法にシフトして行くことに伴い、輸出の余裕はなくなり、不足がちになる可能性がある。世界全体でスクラップ製鉄法への転換が進めば国家間で鉄スクラップの囲い込みが起こると予想され、不足分を輸入で賄うことは困難になる。

そこで、国内の市中鉄スクラップのうち、特にストックベースで現在1.7%にとどまっている老廃スクラップの回収率を高めることが重要だろう。

回収率向上に向けては、サーキュラーエコノミー型ビジネスモデル確立や老廃スクラップ再生技術開発を進めなければならない。課題は山積しているものの、自国の都市鉱山から資源を獲得できることは経済安全保障上、大きな意義をもつ。

CNに貢献する製品にはプレミアム付与を

スクラップ活用によるグリーン化はアルミニウムが先行している。製造時におけるスクラップの使用を増やした「低CO2リサイクルアルミ材」が実用化され、従来製品と等価で自動車や飲料缶などに使われ始めている。

しかし、CN達成に貢献する「CN製品」を普及させていくには、適切なプレミアムが価格に上乗せされることが望ましい。カーボンプライシング※7の導入に伴うプレミアム付与が実現するまでは、過渡的な打ち手が必要となろう。飲料メーカーがプレミアム価格での再生ペットボトル調達を受け入れた際、広告宣伝費や販売促進費をボトル調達コストの増加分に充てた例もある。

プレミアム付与により、鉄スクラップの利用拡大や水素直接還元製鉄法の導入といったグリーン化が加速し、CN達成につながるよう期待したい。

※1:高炉(溶鉱炉)はコークスや鉄鉱石、電炉(電気炉)は鉄スクラップを原料とする。

※2:直接還元製鉄法における還元を、現在主流の天然ガスではなく水素で行う方式。

※3:化石燃料分解時に発生するCO2を分離・固定化することでCO2排出がゼロとみなされる水素。

※4:Carbon dioxide Capture and Storage。排出されるCO2を分離・回収し地中深くに貯留する。

※5:再生可能エネルギーなどを使って水を分解し、CO2を生じずに製造される水素。

※6:ペレットは微粉鉄鉱石に水と粘結剤を加え焼き固めたもの。直接還元(DR、Direct Reduction)グレードのペレットは高炉(BF、Blast Furnace)グレードよりも鉄含有量が多く硬度も高い。

※7:CO2排出量に応じて課税する炭素税や、排出上限を設けた上で企業間の融通を認める排出量取引など。

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