少子高齢化の中で後継者不足にあえぐ国内農家にとって、魅力的な就業環境の整備は欠かせない。実際のところ、日本のコメ農家はどんな状況に置かれているのだろうか?
※1:2020年農業センサス:日本全体の農業経営体数は107万、うち103万が個人経営体。5年で30万経営体、10年で60万経営体が減少している。ここでいう農業経営体とは、経営耕地面積が30a以上あるなど、一定の規模がある農家(主として「販売農家」)をさしており、それ以下の規模の農家は「自給的農家」と定義され、約70万の自給的農家が存在する。
※2:2020年度の国内農業産出額は約9兆円。うち36%が畜産、25%が野菜で、コメは18%と第3位。
※3:10ha以上農家でいえば、経営体数で5%のこの層の農家が、全体の約50%の生産を担っている。この層がおおむね「主業的農家」といわれる農家だが、酪農、畜産、野菜などの水稲農家以外では、近年、主業的農家が経営体数でも過半を占め、全体の8割以上の生産を担うようになっている。水稲だけが、いまだに例外的に零細農家が多数存在する状況だといえる。
※4:図2のグラフの元データは次の通り。本来であれば、家族経営体と法人経営体のそれぞれのデータを使って計算すべきだが、煩雑になるため、本コラムでは家族経営体のデータのみを使っている。そのため、あくまで全体感を把握するためのものであり、概算結果だと理解されたい。
※5:農林水産省「令和4年産米の相対取引価格・数量(令和5年4月)」
https://www.maff.go.jp/
※6:「稲作農家は補助金が多いと聞いているが、所得に補助金は入らないのだろうか」と疑問があるかもしれない。その疑問にここで答えておきたい。結論的に言うと、「主食用米に補助金はでない。ただし、コメ農家は、主食用米とそのほかの転作作物の組み合わせで営農されている場合が多く、後者に対して、補助金が支出される。その補助金の水準は、収支が主食用米で全て営農した場合と同程度になるように設計」されている。したがって、全体の売り上げと利益に影響はないため、本コラムでは主食用米だけを営農していると仮定して、収支を算出している。ちなみに概算ではあるが、飼料用米であれば、売り上げの8割から9割は補助金、小麦であれば、半額ぐらいが補助金による売り上げになるだろう。
※7:5年から10年ほど前までは、20ha弱あれば相当な大規模経営であり、家族経営であれば十分に経営が成り立つ農家が多かったが、近年は「その規模ではかなり厳しくなっている」という声を聞くようになった。最近の現場の実感としては、30haぐらいが、しっかりと経営を成り立たせられる規模の一つの目安になっているようである、ということを付言しておく。
※8:ちなみに、全体の労働時間と家族労働時間の関係をみると、タイプ1・2の3ha未満までは、年間の全労働時間が400時間程度まで(かつほとんどが家族労働)であり、タイプ2でいえば、月当たり約35時間と、兼業でなんとか対応できる労働時間だといえる。5~10haぐらいの農業がある意味一番中途半端で、年間1,000時間ぐらいの労働時間となり、サラリーマンによる兼業は現実的ではない。これより上のタイプ3の15~20haや30haまでの農業の場合も、その労働の大半は家族によって担われており、家族労働中心で営農するのが一般的な規模だといえる。それ以上の30ha以上の規模になってはじめて、家族的な経営ではなく、外部雇用により営農される農業となる。
なお、タイプ2を「平成的兼業農家」と名付けたが、図4における労働時間はあくまで、平成後期から令和時代の現代化した農業機械や資材を利用することを前提とした労働時間である。タイプ2の10aあたりの投入労働時間は現状は約25時間だが、1960年代前半では約150時間(10aあたり)、70年代終盤でも同60時間を超えていた。60年代、70年代であれば現在の年間400時間に対して、60年代前半であれば5倍の2,000時間、70年代終盤でも2.5倍の1,000時間程度の時間が必要だったと推定される。60年代前半であれば、この規模はほぼ専業農家でしか対応できなかった規模だといえるだろう。