同法の制定経緯
- 2017年、マクロン大統領は、農業者の所得向上等を図るため、「食料全体会議」(Egalim)を開催し、2018年に「Egalim法」が公布された。
- 2021年3月に、セルジュ・パパン氏(仏食品小売り大手の前CEO)がEgalim法の評価について報告書をとりまとめ、デフレ基調にある中、農業者の適正な収入が確保されているとは言えないとし、特に物価が上がっていない点が強調され、改善提案がなされた。
- 同報告書の改善提案を踏まえ、2021年10月に「Egalim2法」が公布された。
現行制度のポイント
- 農業者と最初の購入者の間での書面での契約締結の義務化
- 契約には価格決定の計算式、契約期間などの事項の記載義務
- 認定された生産者組織は、農業者の委任を受けて契約交渉を代行し、契約の枠組みを決定できる
- 専門職業間組織(品目ごとに生産~小売りの各段階の代表組織が加盟した組織を認定)は生産費に関する指標を公表
- 最初の購入者以降の流通において原価割れでの販売を禁止
※1:農林水産省 食料・農業・農村政策審議会 基本法検証部会 第2回(令和4年11月2日)
https://www.maff.go.jp/
同 資料3 P21
https://www.maff.go.jp/
※2:卸売市場経由の多くは相対取引で、セリなどの「市場機能」を経由する比率は1割程度しかないため、市場機能で価格が決定しているとはいえないとの指摘があるかもしれない。確かに、現状、特に大手スーパーの生鮮売り場にならんでいる野菜は、卸売市場を経由しているものであっても、相対取引で事前の契約価格が決定されている場合が少なくない。だからこそ、今回の日本版エガリム法のような議論がなされている、という事実も見逃してはならないだろう。
しかしながら、たとえ相対取引で価格が決定している場合でもあっても、契約価格自体は卸売市場での取引相場を参考・前提として決定されている。一般に言われているような「流通業者の力が強くて、農業者は力が弱いから、安い価格でしか買ってもらえない」というのは、ある種の幻想である。現実には「消費者がその価格でしか買わないから、その価格になっている」のが生鮮野菜類の価格の実態である。価格を上げるためには、全体の生産量を減少させるか、消費者の需要曲線を右方にシフトするしかない。
※3:食料安全保障おいて、もっとも重要な視点は「供給の安定性」である。経済学的にいくら正しくても、不安定な供給状況が想定される政策は、採択されるべきではない。逆にいえば、農業生産者向け補助金・支援金は農業者の生活を守るためではなく、あくまで、「全体としての供給の不安定さ」が想定されるときに、拠出されるべきである。本ケースにおいても、「農業生産コストが転嫁できないことにより、経営が厳しい農家がいる」から補助金を拠出する、というのでは、不十分である。「農業生産コストが転嫁できないことにより、経営継続が難しくなる農家が続出し、一次的(または中長期的)に、農産物の供給が滞る事態が想定される」という場合にのみ、補助金を拠出する政策を考えるべきであろう。
※4:農業の保護の方法には、大別すると、関税などの国境政策による「価格維持政策」と、補助金を農業者に配布する「直接支払い政策」が存在する。1994年のGATT(関税貿易一般協定)ウルグアイラウンドの合意により、次の3点が国際的に合意され、その後のWTO(世界貿易機関)発足につながった。
①すべての非関税障壁を関税に置き換え、将来その関税率を低減していく。
②市場原理をゆがませ、生産刺激となるような価格政策を削減する。
③価格にリンクしない直接支払いのような財政負担型政策は認める。
その後のWTOの機能不全化などもあり、実態として関税がなくなっているわけではないし、むしろ、FTA(自由貿易協定)による個別国家間の交渉においては、関税による国境政策の維持が常態になっている。しかしながら、上記の考え方は国際貿易の基本である。何より、価格維持政策的な政策も直接支払い的な政策も、国民負担は基本的に同じであるものの、価格維持政策的な政策は、より低所得者層の負担が相対的に大きくなる。これらの考え方については、別途あらためて、コラムを執筆する予定である。