「ごはん」と「パン」どっちが高い?

食料安全保障と農業のキホンの「キ」(1)

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2023.4.14

全社連携事業推進本部稲垣公雄

食と農のミライ
私たちの食卓で日々かかせない主食「ごはん」と「パン」。いったいどちらが高いのだろうか? シリーズコラム「食料と農業のキホンの『キ』」では、知っているようで知らない食料や農業にまつわる基本的な事実や情報を紹介していきたい。 第1回は、「ごはん」と「パン」。ここで「コメ」と「小麦」の価格を紐解いていこう。

「ごはん」と「パン」の価格、実はほぼ同じ

小麦をはじめ、食料価格の上昇が叫ばれて久しい。スーパーやコンビニの商品価格が上がっていることは、誰もが実感していることだろう。特に、国際相場の高騰・円安進展の状況から、小麦を使った食材の価格高騰に注目が集まりがちだ。逆にいえば、国内産のコメの価格はほぼ安定している。「だから、小麦も国産にした方がいいのでは」と思われる読者もいるかもしれないが、ちょっと待ってほしい。

論点を単純化するために、「ごはん」と「パン」の価格と原価の構造を確認してみよう(図表1)。弁当やランチならば、1食当たりの相場感覚を多くの消費者が持っているだろう(弁当なら500円前後、外食ランチでも1,000円までにしたい、など)。一方で、弁当やランチの中にあるごはんの価格だけを意識することは意外と少ないかもしれない。計算上、お茶わん1杯当たりの価格は約30円となり、食パン6枚切り1枚の約28円とおおむね同じ水準になる※1。価格の面でも、ごはんとパン食は代替的な関係にあるといえるだろう。

これを原材料の玄米、小麦を対比してみると、精米販売、パン食販売のどちらも原材料1トン当たり約41万円の売り上げになることがわかる。ちなみに、小麦粉販売の場合は約20万円の売り上げが期待できることになる※2
図表1 コメと小麦の消費者価格と仕入価格
コメと小麦の消費者価格と仕入価格
出所:各種統計より三菱総合研究所作成

※a:こしひかり店頭価格 2,292円/5kg① 精米65g(ごはん150g)分
※b:食パン店頭価格 464円/1kg① 食パン1斤360gの6分の1
※c:玄米の相対取引価格 1万3,840円/60kgから②
※d:2023年4月~の政府売渡価格 7万6,750円③
※e:玄米1トン当たりで精米される900kg×店頭単価(※aと同じ)
※f:小麦1トンから600gの小麦粉×小麦粉店頭価格333円/kg①
※g:小麦1トンから600gの小麦粉→900kgの食パン×店頭価格(※bと同じ)
①総務省「小売物価統計」R5年2月東京都区部
②農林水産省「令和4年産米の相対取引価格・数量(令和5年2月)」
③農林水産省「R5年度4月期 輸入小麦の政府売渡価格の改定」

「ごはん」と「パン」、原価になると3倍の違い

一方で、ごはんとパンの原材料となる玄米、小麦の仕入価格はいくらなのか。コメの場合は、「生産者と卸売業者の取引価格」が仕入れ原価にあたる※3。直近の農水省の調査によれば、全国平均値は60kg当たり約1万4,000円。トン当たりになおすと、約23万円となる。小麦の場合、「輸入小麦の政府売渡価格」が原価になると考えていい※4。2022年度の政府売渡価格は、約7.2万円。2023年4月からは約7.7万円に上がることが確定している(この「政府売渡価格」の構造については後述する)。

ここで、確認しておきたいポイントが2つある。第一に小麦製品に占める小麦原価の割合はそれほど高くない、ということである。小麦の原価の比率は、食パンの場合で約18%、小麦粉の場合でも約38%である。食パンの場合で言えば、小麦の原価が2倍になっても、価格への本来の影響は18%しかないはずである。

もう一つのポイントは、小麦製品の原価に比べて、精米という最もシンプルな製品ですら、コメ製品の原価が3倍も高い、ということである。精米におけるコメの原価率は約55%となる※5

最近、米粉の活用・普及がしばしば話題になるが、特定米穀(くず米)で製造する小ロット規模ならともかく、本格的に数十万トンの単位で米粉を小麦粉に代替普及させようとすれば、米粉の原価は理論上、玄米価格に近づいていくはずである。玄米価格、すなわち大規模に生産しようとした場合の米粉の原価が、小麦粉の製品価格を上回っている現状では、米粉が大きく普及することは非常に難しいと言わざるを得ないだろう※6

「ごはん」と「パン」の原価はなぜ、これほど違うのか?

こうしてみてくると、なぜ、最終製品としては同等の価値を持つといえるものの原価がこれほど異なっているのか、という疑問がわく。

前述のとおり、輸入小麦の政府売渡価格は2023年4月からトン当たり約7.7万円となる。図表2がその詳細推移を表すグラフであり、2008年の過去最高値を更新した。一方で、玄米の取引価格はトン当たり約23万円という水準であり、多少小麦価格が上がったといっても、その価格差は3倍におよぶ。

ちなみに1990年代前半、玄米の生産者価格は60kg当たり2万3,000円程度、すなわちトン当たり約38万円の水準にあった。その後、上下動はあるものの、中期的には一貫して低下傾向にある。つまり、近年でこそ価格差は3倍程度に収まっているが、かつてはもっと大きな差があった、ということである。
図表2 小麦の政府売渡価格の推移
小麦の政府売渡価格の推移
出所:農林水産省 農産局 農産政策部 貿易業務課「令和5年4月期の輸入小麦の政府売渡価格について」(2023年3月14日)
https://www.maff.go.jp/j/press/nousan/boeki/attach/pdf/230314-1.pdf(閲覧日:2023年4月10日)
注:横軸の西暦表記(カッコ内)は三菱総合研究所追加
「コメは国産で輸入が実質的に規制されており、小麦は輸入ものだから、価格差があるのだろう」と思われるかもしれない。一面ではその通りなのだが、だとしたら、100万トンの国内生産の小麦の価格はどうなっているのだろうか。実は、国内生産の小麦価格は、図表3にある通り、ほぼ海外産と同等のトン当たり4万~7万円なのである(2022年度産。当時の政府売渡価格は5万1,930円)。
図表3 2022年度産国内産小麦の価格
2022年度産国内産小麦の価格
出所:農林水産省 農産局 農産政策部 貿易業務課「麦の参考資料」(令和4年度「麦の需給に関する見通し」、2022年3月18日)
https://www.maff.go.jp/j/press/nousan/boeki/attach/pdf/220318-4.pdf(閲覧日:2023年4月10日)
※:西暦表記(カッコ内)は三菱総合研究所追加
もちろん、国内でコメよりも小麦が安く作れる、ということではない。一概には言えないが、玄米にしろ小麦にしろ、国内で生産すれば、概ね60kg当たり8,000円~1万2,000円の生産コストがかかるのは間違いない。この点については、次回のコラムで紹介する。実際の生産コストはそう変わらないのに、なぜ、このような価格設定が可能なのだろうか。

※1:小売価格は「総務省 小売物価統計 R5年2月東京都区部」(図表1中※b)より計算
https://www.stat.go.jp/data/kouri/doukou/3.html#tsuki(閲覧日:2023年3月27日)
精米2,292円/5kg→29.67円/65g=炊飯後約150g≒お茶わん軽く1杯分
食パン464円/1kg→167.04円/360g・1斤=27.84円/6枚切り1枚

※2:小売価格は「総務省 小売物価統計 R5年2月東京都区部」(図表1中※f)より計算
https://www.stat.go.jp/data/kouri/doukou/3.html#tsuki(閲覧日:2023年3月27日)
玄米1トン:精米412,560円/900kg←精米2,292円/5kg(玄米から精米への精米率は9割)
小麦1トン:小麦粉199,800円/600kg←小麦粉333円/1kg(小麦から小麦粉の製粉率は6割)
小麦1トン:食パン417,600円/900kg←464円/1kg(小麦粉から食パンの重さ1.5倍)

※3:(図表1中※c)農林水産省「令和4年産米の相対取引価格・数量(令和5年2月)」 
https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/soukatu/aitaikakaku.html(閲覧日:2023年3月27日)

※4:(図表1中※d)農林水産省「R5年度4月期 輸入小麦の政府売渡価格の改定」
https://www.maff.go.jp/j/press/nousan/boeki/230314.html(閲覧日:2023年3月27日)

※5:玄米から精米、小麦から小麦粉、小麦粉からパンにするには、そのほかにも原材料、経費が必要となる。パンの製造には小麦粉以外にも食塩やイースト菌が必要となるし、製粉、精米設備の減価償却などもあるため、一概に比較はできない面がある。本比較は、あくまで大きな目安程度にみてほしい。

※6:現状、米粉の原材料になっている「特定米穀(くず米)」は80~90円/kg程度で取引されており、この金額だけ見れば「小麦粉も米粉も原材料価格は同程度だ」とみることもできる。しかしながら、因果関係は逆である。何百万トンも生産される小麦粉がくず麦から作られているわけではない。小麦粉に対する価格競争が可能な米粉を作るには、これぐらいの価格でなければ、製品として成立しないのである。

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