※1:半農半Xとは、自分や家族が食べる分だけの食料を農業で得て、その他の時間は自分の「好きなこと」「やりたいこと」などを行う、半農半X研究所代表の塩見直紀氏により提唱された新しいライフスタイル。都市から農村に移住し、本業の仕事をもちながら、あわせて自給的な農業を営むようなライフスタイルを指すことも多い。
※2:食料安全保障と農業のキホンの「キ」(4)コメ農家が赤字でもコメを作り続ける理由 図3参照
※3:2010年代以降、専ら「大規模農家への農業への集積」という方向性が農政の中心であったが、近年の食料安全保障への注目・農地維持の必要性などの観点から、「半農半X」など、多様な担い手・農業就業者への期待が集まっている。そういった担い手に主食であるコメや小麦の生産を担ってもらうには、この投資の重さをどうクリアできるかが1つのポイントになるだろう。
一方で、タイプ3の専業農家であれば、3つの農機だけで、2,000~3,000万円という、より大きな投資が必要になる。ただし「自営業の開業資金」と考えれば無理のない水準であり、「ラーメン屋を開店する」ような自営業に比べれば、「毎年600万円程度の所得がおおむね確保できる」のであれば、むしろリーズナブルといえるかもしれない。
タイプ4の規模の農家になると、売り上げが5,000万円以上、家族所得も1,500万円ぐらいになってくる。各地でヒアリングをしていると、この規模の農業経営体であれば、後継者がおのずと生まれてくるようだ。
※4:1950年代までの生まれと、その後の生まれでは、同じ農家出身であっても、青年期までの農業との関わり方が決定的に異なっている。1950年代までに出生した世代であれば、ほぼ間違いなく青年期まで実家の農業を手伝った経験があるはずである。一方で1980年ごろの農機の急激な普及により、特に1960年代後半以降に生まれた世代は、青年期に実家の農業を手伝った経験がほとんどない。現代の零細農家の事業承継の中心が、ちょうどこの1960年代生まれの50代後半から60代に差し掛かりつつある。農家の子弟といえども農業を全く経験していない場合も少なくない。この違いが、親がやっている農業への関与や承継の度合いの違いにもつながっているように思われる。
※5:本文では、タイプ3、4の担い手を1つの典型例として一般的な個人経営ないし小規模法人のイメージで紹介している。特に、この後の記載の「規模拡大する必要がない」傾向は、こうした農家にあてはまる。もう1つの典型として平成期に全国的に急増し、現在は8,000件に達した集落営農法人がある。多くの地域で、団塊世代がその中核を担っている。60haを営農している場合でも、実質的には10人ぐらいの理事中心に6haずつを分担して耕作しており、タイプ2とタイプ3の中間ぐらいの営農者が10人で協力しながら営農している。実はこのタイプの営農法人については近年、各地で後継者不足による存続の危機が叫ばれている。このタイプの法人はこれまでは地域の離農者の農地を積極的に受け入れてきたが、今後はその余裕は乏しくなり、存続自体が困難になるケースも出てくるだろう。
※6:一般的な都府県の水田耕作地域で30haを効率よく営農できている農家として、50代の世帯主とその息子の2人をが中心に農機具1セットで経営できているような状態を想定していただきたい。この経営体が収益性向上を目指して営農規模を拡大するには、耕作面積を2倍の60haにするのが最も合理的である。中途半端に10ha程度の規模拡大をすると単位当たりの農機具の減価償却費が大幅に上がってしまう。何より、人材の中途半端な調達が非常に難しい。
こうした農家に、仮に30ha経営しているところに、1ha1枚の農地を追加でやってくれ、と言われれば、対応は可能であるし、(その農地が現状の営農している農地の近くに所在しているのであれば)むしろ喜んで対応してくれるだろう。逆に、1反10枚に分かれている農地を追加でやってほしい、と言われればどうか。ほぼ間違いなく断るだろう。30haが31haになる分、確かに3%程度、理論的には収量はあがるかもしれない。しかしながら、その収量増に見合わない労働時間が必要になるのは明白である(そもそも労働時間が増えすぎて対応ができない可能性もある)。3%程度の収量増を目指すのであれば、むしろ現状の30haを丁寧に管理したほうが、より簡単に達成が可能になるだろう。
※7:本コラムにおけるコメ農家の収支構造分析も、補助金が交付されていることを前提に計算を行っている(食料安全保障と農業のキホンの「キ」(3)コメ農家はみんな赤字なの? 注6参照)。現状、主食用米の作付けに対する補助金は基本的に交付されていないが、主食用米の代わりに麦大豆や飼料用米を作付けすることに全体で年間5,500億円程度の補助金が交付されている。800~900万トンぐらいコメを作る供給力がある中で、主食用米を700万トンぐらいに抑えるために、100~200万トン分、別の作物に誘導するのに5,500億円が支給されている、と考えておおむね間違いない。国内農業の生産性と海外農業の生産性に格差がある状況において、国内農業や農地を維持するためには、一定の補助金交付は避けられない。しかし問題はその交付の手法や内容をより効果的にしていくことである。今後の最大の政策課題の1つだと言っていいだろう。