ブレインテックが切り拓く5兆円の世界市場 第3回 ブレインテックを応用した新事業創出の心得

脳神経科学を応用した新事業創出

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2018.7.27

経営イノベーション本部藤本敦也

今からブレインテックへの投資や、ブレインテックを活用した新事業創出を行おうとする際、要点は大きく二つある。

まず、脳については解明されていないことも多く、新サービスの構築には効果検証も含め時間がかかるため、腰を据えて長期的に取り組んでいくことが求められる。

加えて、いまだに研究が日々スピード感をもって進展している領域であるため、最新の研究結果を追い続けることと、忘れがちな顧客ニーズを的確に把握しビジネスに仕立てていくことの両方が、高いレベルで求められる。

当社のコンサルティング経験を踏まえ、これらの詳細と具体的な対応策について簡潔に述べる。

1.ブレインテックの新事業には時間がかかることを覚悟する

IoT分野やFintech分野と異なり、ブレインテック分野は基礎となる脳神経科学で解明されていない部分も多いため、構想から製品化までは長期化するケースが多く、腰を据えて研究開発を行うことが必要である。

例えば、neumo社の調べによると、前述の2018年CESに出展していたブレインテック関連企業は、少なくとも4年以上の歳月を構想から製品化までにかけており、うち3割以上の企業が6~8年以上もの歳月をかけている。
図1 CES2018のブレインテック企業の開発期間
図1 CES2018のブレインテック企業の開発期間
出所:neumo社 CES2018 Braintechレポート P121 2018年(閲覧日 2018.6.1)

http://www.neumo.jp/ces-braintech-reports-ja/

開発費用に関しても、基本的にはハードウエアの開発を伴う場合が多いため、基礎研究とプロトタイプの開発までに億円単位の費用がかかってしまう場合がある。この点も、Web系の新規事業と大きく異なる。特に医療用の用途の場合、政府の承認を取得する必要から、開発費用が数十億円単位に膨れ上がることが多い。

ただし、他社の既製品を用いてアプリのみを開発する場合は比較的安価にプロトタイプを作成できるかもしれない。例えば、イスラエルのベンチャー、Myndlift社は、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の患者が自宅でできるニューロフィードバックのシステムを開発し、病院向けに販売している。この企業の場合、脳波計は既製品であるMuseを使用し、アプリケーションの部分を自社開発している。

このように、基本的に時間と費用がかかるため、ブレインテックを活用した新事業創出を行う際は、オープンイノベーションの形態をとると想定される。その際、ビジネスモデルは自社で組み立てミッシングパーツを他社に求める、あるいはビジネスモデルごと他社を買収することも一案である。

2.技術起点であるが、ニーズ把握を怠らない

ブレインテックを活用した新事業を行う場合、間違えてはいけないのは「技術の新規性=顧客提供価値の新規性」ではないことである。ブレインテックの技術的な新規性や背景にある脳神経科学の知見は興味深いものが多いため、技術を磨くことを中心に新規事業創出を進めてしまうケースが往々にしてある。「その新サービスは誰に対して何を提供するのか」という問いに加え「その新サービスに幾ら支払うのか、なぜ支払うのか」を把握しなければならない。

例えばBtoCの新サービスであれば、ターゲット顧客の潜在ニーズ把握/確認を行わなければならないが、まだ見たことのない新サービスの場合、通常のインタビューやアンケートではターゲット顧客の感覚的な本音(インサイト)の把握は困難である。

よって、当社が新サービス開発の伴走コンサルティングを行う場合は、直感型インタビューを実施することが多い。これは、顧客の自宅に訪問して長時間インタビューを行うもので、①相手にとっての安全領域を構築し、気持ちを落ち着かせる、②本音を把握するため、相手に忖度されない聞き方をする、③サービスに対する価格感とニーズの強さを把握するべく、すでに市場投入しているサービスとして説明する、といった細かい工夫を重ねている。この際のポイントは、相手から答えを聞くにあたり、考えさせるのではなく、感覚的な本音の部分を引き出すことだ。このような直感型ヒアリングを行った上でサービス案を改善し、述べ数十件もの訪問インタビューを経てサービス案を作りこむ反復型の開発を行うことで、売れる確率の高いサービスを構築することができる。
図2 直感型訪問インタビューイメージ
図2 直感型訪問インタビューイメージ
出所:三菱総合研究所
またBtoBであっても、新サービスで解決しようとしている顧客課題の把握を行うためには、やはり企業インタビューが重要である。

その際の注意点としてはまず、想定購入部署の意思決定者に話が聞けているか、がある。同じ企業でも部署ごとに課題が異なっているため、適切な部署に話を聞かないと無駄足になってしまうことが多い。当たり前のようだが、見落としがちな点である(ついつい、人は聞きやすい所に聞いてしまう)。

次に、課題に対する費用感である。特に費用対効果に関して、どのような定量的・定性的なエビデンスを示せば決裁がとおりやすいかを確認することが重要である。

最後に、現在使用しているサービスの費用規模である。これが新サービス導入時の目安となることが多い。企業への初回ヒアリングは1時間程度が一般的であり、時間内にこれらを把握するためには事前資料の作成も含めた念入りな準備や、コミュニケーションスキルなども重要になってくる。

これらは通常の新事業/サービス開発時にも重要なポイントだが、特に技術起点で事業が作られることが多いブレインテックビジネスについては、より一層念頭においておくべき事柄である。

3.技術起点も顧客起点の両方がわかるコーディネーター人材の拡充

成功するブレインテックビジネスを構築するには、前述のように顧客ニーズを的確に把握すること、そして日々進展する脳神経科学の研究をモニタリングすることの両輪が必要である。

日本においては、脳神経科学の研究がわかるプレイヤー(≒研究者)は数多くいるものの、顧客ニーズを的確に把握するプレイヤーは少なく、両者をつなぐコーディネーター人材はさらに少ない。
3 ブレインテックの人材スマイルカーブ
3 ブレインテックの人材スマイルカーブ
出所:三菱総合研究所
このため、このようなコーディネーター人材を自社で育成するか、他から調達することが求められる。仮にコーディネーター人材を自社で育成する場合は例えばマーケティングの専門性を持つ人材を、けいはんなリサーチコンプレックスが提供している脳機能計測のほか、脳神経科学に関する入門講座やイベントに代表されるような、大学や研究機関が社会人向けに提供している脳神経科学入門講座などを受講させて、脳神経科学の基礎を身につけさせることが必須である。neumo社が出しているブレインテック関連のレポートなど、各種の情報を通じて最新動向を把握させておくことも重要である。

最後に

ブレインテックに関しては世界中でさまざまな新技術の研究開発が進展しているため、国内の注目が高まったときには周回遅れになってしまう危惧がある。

ただし、事前にインパクトの大きい新技術の目利きを行うことは困難であるため、数多くの研究へ広く深く投資することが重要である。トップの権限が大きい外資系と比較すると、日本企業単体で投資できる金額は少額になってしまうため、複数の民間企業で大規模なコンソーシアムを構成し本領域への投資を始めることが必須となるだろう。

幸い日本の脳神経科学は世界的に見てもレベルが高く著名な研究者も多いため、彼らと手を組み、ブレインテックで強みを持つ日本企業群が世界に台頭していくことを期待したい。

参考文献

1) neumo社 CES2018 Braintechレポート
http://www.neumo.jp/ces-braintech-reports-ja/

2) けいはんなリサーチコンプレックス
http://keihanna-rc.jp/

3) Philips社 Webページ(SmartSleep)(閲覧日:2018.6.1)
https://www.usa.philips.com/c-e/smartsleep-advocacy.html

4) InteraXon社 Webページ(閲覧日:2018.6.1)
http://www.choosemuse.com/what-does-muse-measure/l

5) Grand View Research “Brain Computer Interface(BCI)Market Analysis”(閲覧日:2018.6.1)
https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/brain-computer-interfaces-market

6) Zion market research “Global Neuroscience Market Expected to Reach USD 34,800 million by 2024”(閲覧日:2018.6.1)
https://www.zionmarketresearch.com/news/neuroscience-market

7) Data Bridge Market Research. “Global Brain Monitoring Devices Market”(閲覧日:2018.6.1)
https://www.openpr.com/news/751463/Global-Brain-Monitoring-Devices-Market-Elekta-AB-pub-ntegra-LifeSciences-Corporation-Nihon-

8) Transparency Market Research “Neuromarketing Solutions Market”(閲覧日:2018.6.1)
https://www.gii.co.jp/report/tsm487763-neuromarketing-solutions-market-fmri-eeg-eye.html

9) The White House “The Brain initiative”(閲覧日:2018.6.1)
https://obamawhitehouse.archives.gov/share/brain-initiative

10) Seamless Vitrual Reality News “ATRと京都大学、fMRIで測定した人間の脳活動のみから、その人が見ている画像を機械学習を用いて再構成する提案を発表。心の中でイメージした内容の画像化にも成功”(閲覧日:2018.6.1)
https://shiropen.com/2018/01/14/31458

11) NTTデータ経営研究所(閲覧日:2018.6.1)
http://www.nem-sweets.com/

12) 宣伝会議「Advertimes:アウディとNTTデータが脳科学を使って、広告クリエイティブの質の定量化に成功」(2017年3月22日)(閲覧日:2018.5.2)
https://www.advertimes.com/20170322/article246097/

13) 株式会社日立ハイテクノロジーズ ニュースリリース「脳科学の知見を活用して活力のある職場づくりとリスクマネジメントを支援する「健康経営支援ソリューション」を提供開始」(2016年10月21日)(閲覧日:2018.5.2)
https://www.hitachi-hightech.com/jp/about/news/2016/nr20161021.html
ブレインテックが切り拓く5兆円の世界市場 ─脳神経科学を応用した新事業創出─

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