ダイナミックプライシング成功の鍵 第2回:ダイナミックプライシングの効果を正しく評価する

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2020.4.10

経営イノベーション本部久保田広

経営戦略とイノベーション

価格を変更することの意味

消費者は、購入しようとする商品・サービスから自分が受け取る価値と提示された価格を勘案して、購入を決定する。消費者のニーズが多様化している現在、個々の消費者によって、さらには同じ消費者であっても購入状況によって、同じ商品・サービスから享受する価値が異なる。そのため、常に同じ価格を提示していたのでは、なかなか購入に至らなくなってきている。状況によって価格を下げる、あるいは特別な状況によっては逆に価格を上げることが、消費者の心をつかむ手段の一つになってきている。

最近注目を集めているダイナミックプライシング(DP)は、価格を上下させることにより、消費者が享受する価値と価格のバランスを取って、より多くの消費者に購入してもらおうとする試みの一つである。企業が提示する価格と消費者が享受する価値のアンバランスは、需給のアンバランスとなって現れることが一般的であるため、需要の高低に応じて価格を上下させることが多い。

ダイナミックプライシングには危険もある

上述のように、最適な価格は消費者個人および購入状況によって変わるわけであるが、消費者が享受する価値に影響する要素は、品質、ブランド、懐具合など需要とは関係しないものも多いため、需要を過度に重視して価格を変更することは禁物である。

また、価格を変更したことが良かったのか悪かったのかは、単純には判断できない。価格を上げるにしても下げるにしても、変更後の価格が最適であったのかどうかを知ることは容易ではない。また売り上げが上がったにしても下がったにしても、価格変更の効果がどれだけで、偶然の作用がどれだけかを知ることも容易ではない。

価格変更の善し悪しの判断が困難であることは、DP導入のマイナス面を見逃すことにつながる。例えば、消費者の満足度低下や購入対象からの除外、企業収益の棄損、価格設定業務が複雑で属人化すること、作業負荷が必要以上に高くなったりすることなどである(図1)。これらの問題は、DPを先行して導入している企業に良く見られる病状である。

これからDPを導入しようとする企業に対しては、そのような病状にならないよう、十分に事前検討をしていただきたいし、すでにDPを導入している企業には、そのような病状に陥ってないかを振り返っていただきたいところである。
図1 DPがはらむ危険性
図1 DPがはらむ危険性
出所:三菱総合研究所

ダイナミックプライシングは目的でも手段でもない

上記の病状に無縁な「健全なDP」は、単にツールを入れたり、見よう見まねで値段を上げ下げしたりしても達成できない。そもそも、いきなり最初から「健全なDP」に近づけるなどということもあり得ない。

「健全なDP」は、価格を変更したことの結果を適切に評価して、良い点、悪い点を分析し、それを将来に生かすという、評価・改善の仕組みを構築・運用する(いわゆるPDCAサイクルを繰り返す)ことによってのみ、達成できるのである。

従って、これからDPを導入しようとする企業には、単に価格を変更しようというのではなく、消費者の満足度と企業の収益の向上を目的として掲げ、PDCAサイクルという手段の活用によってDP導入効果の最大化を図ることが求められる。この点で、DP導入は、PDCAサイクルによって目的を実現するための一つの手法と位置付けていただきたい(図2)。

この時、特に重要となるのがチェック(C)である。一般に業績を振り返るとき、売上高対前年比などの指標で評価することが行われるが、DP導入の善し悪しをチェックするのには、この指標は不十分である。売上高は、DP導入だけでなく、景気、気候、イベントなどの外部要因から大きな影響を受けるため、DP導入以外の要因による影響を加味して評価することが必要となる。また、顧客の満足度の向上もDP導入の目的であるので、顧客満足度の変化もチェックの項目に取り入れることが望ましい。

そのように取り組めば、短期的には目を見張るような効果が得られなかったとしても、長期的には必ず消費者の満足と自社の収益が向上し、企業の成長につながっていくであろう。
図2 DPの位置づけ
図2 DPの位置づけ
出所:三菱総合研究所
第3回以降は、これまでさまざまな業種・企業を支援してきた実績に基づき、当社が考える具体的な成功パターンを紹介したい。顧客と企業のWin-Winを実現する自社ならではのDPを創り上げる一助にしていただきたい。

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