ダイナミックプライシング成功の鍵 第3回:ダイナミックプライシングの導入と運用

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2020.9.30

経営イノベーション本部林 義幸

経営戦略とイノベーション
第1回では「導入時の適切な考え方・プロセス」が重要であること、第2回では「導入効果のプラス面とマイナス面を評価できる仕組みづくり」が重要であることを説明した。第3回では、この仕組みの導入プロセスと運用方法を、事例も交えて紹介する。

ダイナミックプライシングの導入・運用プロセス

当社が勧めるダイナミックプライシング(以下DP)の標準的な導入・運用プロセスは図1の通りである。
図1 DP導入・運用プロセス
図1 DP導入・運用プロセス
出所:三菱総合研究所
DP導入プロセスでは、「1. 導入検討」と「2. DPSの構築」を行う。
 
(1) 導入検討
「1. 導入検討」においては、「1-① 実現可能性評価」により、DP実施時の前提や制約を洗い出し、対応方針を定める。具体的には、該当する商品・サービス、競合、市場、法制度・商習慣などの内外環境を分析し、価格の変更に関する自由度や制約を踏まえつつ、対象商品・サービスの種類、価格の変更頻度、適用するアルゴリズムの策定を行う。「1-② 期待効果の算定」では、過去の販売実績データ(蓄積が不十分な場合はその対応策も検討)や外部環境データ(競合価格など)を活用し、DP実施時の期待効果を算出する。
 
(2) DPSの導入
「2. DPSの構築」では、「2-① ITシステムの構築」により、需要に応じた価格の推奨値を担当者に提示するシステムを構築する。「1-① 実現可能性評価」で策定した対応方針や、期待効果に見合った投資を前提とした設計が重要である。「2-② 業務の設計」では、DPSを使用した価格変更の業務を新たに定める。この設計は、担当者にとって未経験であることが多く、継続する「3. DP運用」の業務を定める重要かつ難易度の高いプロセスである。これを飛ばして、取りあえずITシステムを使い始めてしまったことで良い効果を得られない例が多い。
 
(3) DP運用
導入後のDP運用では「3-① DP業務の運用と改善」と「3-② マーケティング戦略との連携」を行う。
 
①DP業務の運用と改善
「3-① DP業務の運用と改善」は、日々の価格設定・販売活動において実施する。当初はDPS構築時に設計した業務内容で運用を行うが、実際に行ってみると想定していない事象が発生し、うまく回らないことも多い。第2回で示した通り、「導入効果のプラス面とマイナス面を評価できる仕組み」を実現するために、特にマイナス面の評価を日々の運用の中で検知し、業務の改善につなげていくことが必要である。適切でタイムリーな評価と、それにもとづく連続的なDPS(業務を含む)の改善が重要である。DP運用のイメージは図2の通りである。

PlanでDPSが算出した価格の推奨値を参考に、Doで人が価格を決定し販売する。次に、販売結果を踏まえてCheckで効果を評価する。効果は単に増収額だけではなく、想定ターゲットに適切な価格で販売できているかを評価しなければならない。DPS導入のマイナス面は、価格の変更で主力商品の売れ行きが鈍った、重要顧客の離反の発生が起きた、などの点に現れる。これらをCheck段階で迅速に検知する。効果が想定と異なる場合はActionでDPSの設定などを改善し、Planに戻る。CheckとActionは特に重要で、これが十分でないままPlanに戻ってしまうケースが多い。
図2 DP業務の運用と改善
図2 DP業務の運用と改善
出所:三菱総合研究所
 ②マーケティング戦略との連携
「3-② マーケティング戦略との連携」は、DPの上流にあるマーケティング戦略にDP運用で得られた気付きを連携して、より効果を高めるプロセスである(図3)。

DPによる短期(日次)のPDCAサイクルに対し、マーケティング戦略は中期(月次、四半期、年度)のPDCAサイクルで実施する。DPで蓄積した評価を基に、マーケティング戦略上の課題を抽出し、対応を検討することで、商品・サービス、価格、チャネル、プロモーションを改善できる。さらに、マーケティング戦略の改善は、収益機会(需要の拡大や販売価格の上昇)につながるため、より一層DPによる増収効果を高めることができる。
図3 DPとマーケティング戦略の連携
図3 DPとマーケティング戦略の連携
出所:三菱総合研究所

ダイナミックプライシングの成功事例

このようなプロセスによるDPでの成功事例として、高速バス座席販売での実施内容と効果を紹介する。高速バスの座席には便や座席によって複数のグレードがあり、路線によっても需要が異なる。「導入プロセス」では、座席や路線の需要特性、競合比較、商習慣、販売方針を踏まえて、DPSの構築を行っている。「運用プロセス」では、日々の実績評価で業務の改善と座席・路線の特質を踏まえた個別のチューニング、作業の標準化やツール化などを行っている。

例えば、大都市-大都市路線(高需要商品)で実施した価格設定を大都市-地方都市路線(低需要商品)に適用すると、逆に減収になることが判明した。このため当該路線商品の需要特性を踏まえて、DPSと価格設定業務を個別に改善し、減収から増収に結び付けた。改善後の大都市-大都市路線(高需要商品)と大都市-地方都市路線(低需要商品)でのDP運用改善効果の例を示す(図4)。
図4 DP運用改善効果の例
図4 DP運用改善効果の例
出所:三菱総合研究所
上記の例では、両路線ともに7月から翌年3月までDP運用を行ったが、大都市-地方都市路線での9月までの効果が不十分だったため、10月適用分から同路線に個別の運用を改善し効果を向上した。DP運用改善後には、その他の便・席数・価格帯別マーケティング全体を見直し、運用対象の拡大など、さらなる効果を獲得する取り組みにつなげている。このようなPDCAによるDP改善を仕組みとして実現していることが成功事例の特徴である。

まとめ

①単にDPSを導入すれば良いのではない。
→導入時の方針との整合をとりつつ、適切な効果評価と改善の継続が重要である。
②単に現時点の需要に見合った価格を提示するのではない。
→マーケティング戦略とも連携して需要を拡大し、DPによる効果をさらに高めることが重要である。

また既にDPSを導入済みだが、効果が得られていない場合には、「導入時検討が十分かどうか」「運用 PDCAサイクルを可能にする業務」「マーケティング戦略との連携」に立ち戻って見直すことをお勧めする。

第1回~第3回では、ダイナミックプライシングそのものの成功要因に焦点をあてて説明した。第4回では、少し視点を高く持ち、デジタルトランスフォーメーション(DX)の観点から、ダイナミックプライシングの今後について考えていく。

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