コラム

新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言ヘルスケア

新型コロナウイルス各国施策分析レポート1:各国の感染者数と死亡者数から見た医療提供体制の状況

タグから探す

2020.4.15

ヘルスケア・ウェルネス事業本部谷口丈晃

平川幸子

中村弘輝

林俊洋

新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言
日本では7都府県に対して緊急事態宣言が発令され、新型コロナウイルスの感染拡大阻止への戦いが続いている。この戦いの最終目的は死亡者数を抑制することにある。今後、日本が取り組むべき対策の示唆を得るため、公表資料から各国の状況を分析した。

具体的には、適切な医療行為がなされていれば感染者数に対する死亡者数の割合は一定範囲で抑えられると仮定し、感染者数と死亡者数の急増期間に着目して各国を分類した。死亡者数が急増しているケースは、医療体制が崩壊の状態(感染者の急増に対応できる医療インフラの量的不足や医療資源の再配分が上手くいかず、キャパシティを超え十分な治療行為などが実施できない)にあるとみなし、一方、急増していないケースは医療提供体制が維持されているケースとみなした。
表 各国の感染者数・死亡者数等の状況
注:治療(急性期)病床数(人口千人あたり)※6 は、治療(急性期)病床数であり、感染症病床に限定したものではない。
出所:文末①~⑧のデータより三菱総合研究所作成
上表は感染者数が急増している国々である(比較のため記載した日本を除く)。感染者数と死亡者数との関係を見ると、以下の3類型に分類できる。

第一に、感染者数が急増した後に約10日前後に死亡者数が急増している国として、イタリア、スペイン、イギリス、イランがある。これらの国では、感染者数の抑制に失敗し、感染者数に対応した医療提供体制が準備できなかったケースであると考えられる。

第二に、感染者数が急増した後の一定期間は死亡者数の急増を抑制できたものの、その後死亡者数が増加した国として、フランス、ベルギー、スウェーデンがある。これらの国では、感染者数が想定を上回り、感染者の急増に対応した医療提供体制の拡充が間に合わなかったケースであると考えられる。

最後に、感染者数が急増しているものの死亡者数が急増していない国として、ドイツ、ノルウェー、アイスランド、カナダ、トルコ、イスラエル、韓国などがある(形式的にはアメリカもこの類型に該当するが、ニューヨーク等の州ないし都市別の分析が妥当と考えられる)。これらの国では、感染拡大後も医療提供体制を維持し続け、死亡者数の抑制ができたケースであると考えられ、上述の死亡者数の抑制という最終目的のために、示唆が得られるケースと考えられる。

3類型それぞれの事例として、イタリア、フランス、ドイツにおける、感染者数の急増以降の死亡者数、死亡率の推移を下図に示す。
図 イタリア、フランス、ドイツの新規死亡者数と死亡率の推移
出所:文末①②のデータより三菱総合研究所作成
次回は、感染拡大の時期がほぼ同じである隣国同士のドイツとフランスで、なぜ死亡者数に相違が生じたのかを比較し、感染者数が急増した場合に死亡者数を抑制するためにとるべき対応について検討する。

各種データの算出方法

①~⑧の詳細は文末の「分析に使用したデータの出典」に記載

※1:累積感染者数(人口100万人あたり)
東京・大阪以外は①の感染者(Confirmed)データと、②の総人口(Total Population)データを使用。東京・大阪は③④の感染者数データと⑤の都道府県別人口データを使用。感染者数についてはいずれも2020年4月7日時点のデータを使用。

※2:累積死亡者数(人口100万人あたり)
東京・大阪以外は①の死亡者(Deaths)データと、②の総人口(Total Population)データを使用。東京・大阪は③④の死亡者数のデータと⑤の都道府県別人口データを使用。死亡者数についてはいずれも2020年4月7日時点のデータを使用。

※3:死亡率
累積死亡者数(上記の※2)を同日までの累積感染者数(上記の※1)で割った値。

※4:感染者数急増日の定義
「100万人あたりの新規感染者数が5人以上」となる日(①の感染者(Confirmed)データと、②の総人口(Total Population)データを使用)が3日以上連続する初日のことを「感染者数急増日」と定義。なお、この定義は政府の専門家会議における「オーバーシュート」の定義とは異なる。

※5:死亡者数急増日の定義
「100万人あたりの新規死亡者数が1人以上」かつ「死亡率(ある日の累積死亡者数をその日の累積感染者数で割った値)が5%以上」となる日(①の感染者(Confirmed)・死亡者(Deaths)データと、②の総人口(Total Population)データを使用)が3日以上連続する初日のことを「死亡者数急増日」と定義。なお、感染者数はPCR検査の実施状況によって左右されるが、感染者に対して十分な医療行為がなされているかを分析するために死亡率の分母として使用。

※6:治療(急性期)病床数(人口千人あたり)
治療(急性期)病床数で感染症病床に限定したものではない。東京・大阪以外は⑥の治療(急性期)病床数(Curative(acute)care beds)データと、②の総人口(Total Population)データを使用。東京・大阪は⑦⑧の高度急性期・急性期病床数データと⑤の都道府県別人口データを使用。

分析に使用したデータの出典

①:JHU CSSE「2019 Novel Coronavirus COVID-19 (2019-nCoV) Data Repository by Johns Hopkins CSSE」、地域別・時点別の感染者(Confirmed)・死亡者(Deaths)データ
https://github.com/CSSEGISandData/COVID-19/tree/master/csse_covid_19_data/csse_covid_19_time_series(閲覧日:2020年4月13日)

②:United Nations「World Population Prospects 2019」、総人口(Total Population)データ
https://population.un.org/wpp/Download/Standard/Population/(閲覧日:2020年4月9日)

③:東京都「東京都オープンデータカタログサイト」東京都_新型コロナウイルス陽性患者発表詳細
https://catalog.data.metro.tokyo.lg.jp/dataset/t000010d0000000068/resource/c2d997db-1450-43fa-8037-ebb11ec28d4c(閲覧日:2020年4月9日)

④:大阪府「報道発表資料」4月7日付患者の発生状況
http://www.pref.osaka.lg.jp/hodo/attach/hodo-37955_4.pdf(閲覧日:2020年4月10日)

⑤:総務省「人口推計(2018年)」都道府県別人口データ
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2018np/index.html(閲覧日:2020年4月10日)

⑥:Organisation for EconomicCo-operation and Development「OECD.Stat」治療(急性期)病床数(Curative(acute)care beds)データ
https://stats.oecd.org/Index.aspx?ThemeTreeId=9 (閲覧日:2020年4月3日)

⑦:東京都「平成30(2018)年報告 東京都における医療機能ごとの病床の状況」 高度急性期・急性期病床数データ
http://www.byosho.metro.tokyo.jp/2018/index.html(閲覧日:2020年4月3日)

⑧:大阪府「病床機能報告」 高度急性期・急性期病床数データ
http://www.pref.osaka.lg.jp/iryo/keikaku/byousyoukinou_30.html(閲覧日:2020年4月3日)