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新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言ヘルスケア

新型コロナウイルス各国施策分析レポート3:致死率の分析からみた各国の感染状況

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2020.4.23

ヘルスケア・ウェルネス事業本部谷口丈晃

平川幸子

林俊洋

仲尾朋美

中村弘輝

新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言
新型コロナウイルス感染症の流行を早期に迎えた国の対策を検証することは、日本の今後の対応を検討するために有効であると考えられる。とりわけ各国のデータから新型コロナウイルス感染症の致死率(=死亡者数÷感染者数)を明らかにすることは、この感染症の脅威の度合いを知るうえで極めて重要である。しかし、PCR検査の実施状況が国によって異なるため、各国の実際の感染者数を把握することができず、国際比較をすることも難しい。例えば、PCR検査を無症状な人に対しても実施している国と、日本のように一定の症状がある人に対して実施している国では、感染者として把握できる対象が大きく異なる。

このため、今回は公表資料を用いて、各国別に致死率を計算し、さらに検査での陽性確定から死亡までの日数を推計し、PCR検査の実施状況を加味した考察を行った。
図 致死率、検査での陽性確定から死亡までの日数の推計方法の概要
図 致死率、検査での陽性確定から死亡までの日数の推計方法の概要
出所:三菱総合研究所
上図のとおり、以下の式で死亡者数から感染者数を推計し、これを公表されている感染者数と照らし合わせ、得られた結果を各国別に分析して類型化を試みた。

yt-b=xt/a
 
xtt 日の死亡者数、a は致死率であり、死亡者数を致死率で割ることによって b 日前の感染者数である yt-b を得られるとし、この yt-b が公表されている感染者数と最も一致する ab を求めた。発症から死亡に至るまでの日数 b は10~20日程度であることが多く※1、この b がそれを外れて小さい場合には、症状の重い患者にしか検査を提供できなかったと推察できる。分析の結果に基づいて、以下の3つの類型に分類した。
表 致死率a、検査での陽性確定から死亡までの日数bの推計結果に基づく類型化
表 致死率a、検査での陽性確定から死亡までの日数bの推計結果に基づく類型化
出所:公表資料※2より三菱総合研究所作成
【類型Ⅰ】
類型Ⅰは、イタリアやスペインなどである。公表資料に基づき推計される致死率が10%を超えるとともに、陽性確定から死亡までの日数が3、4日と非常に短期間である。原因としては両国では感染者の急増に対して医療崩壊が発生し、十分な治療が施せない状況であったことが考えられる。

【類型Ⅱ】
類型Ⅱは、ドイツなどである。ドイツの場合には、公表資料に基づき推計される致死率が4.0%、陽性確定から死亡までの日数が11日である。陽性確定から死亡までの日数が比較的長く、類型Ⅰに比べて医療崩壊が起きていない状況と考えられる。

【類型Ⅲ】
類型Ⅲは、アイスランドやシンガポールなどである。公表資料に基づき推計される致死率が1%以下と低く、陽性確定から死亡までの日数は類型Ⅱとほぼ同じである。陽性確定から死亡までの日数が比較的長く、類型Ⅱと同様に、医療崩壊が起きていない状況と考えられる。
類型Ⅱと類型Ⅲの致死率の相違は、PCR検査の実施状況および感染者追跡による流行状況把握の差であると考えられる。類型Ⅱのドイツではかかりつけ医などの判断のもと、一定の症状が認められる患者に対してPCR検査を実施している※3。類型Ⅲのアイスランドでは、無症状の者にもランダムにPCR検査を実施している※4。またシンガポールは、ドイツと同様に一定の症状が認められる患者を検査対象としているが※5、感染経路の特定を積極的に実施しクラスター情報を公開しており※6、流行の実態を正確に把握してPCR検査を実施できたと考えられる。類型Ⅲの両国は人口が比較的小規模(アイスランド約35万人、シンガポール約564万人)であり、医療提供体制を維持しつつ幅広く検査を実施し、感染者の把握を行うことが可能であったと考えられる。

上記の分析結果から、無症状の感染者を含む致死率は、WHOが公表している3~4%※7よりも低い可能性がある。乗船者全員に対して検査が実施されたダイヤモンド・プリンセス号の場合、閉鎖空間かつ乗船客が高齢層に偏っているが致死率は2%を下回っていた※2,8,9。人口規模が大きくかつ感染者が一定数発生している国では、PCR検査の実施対象を限定せざるをえない。結果として無症状の感染者を把握できずに、公表された資料に基づき推計される致死率が実際の致死率よりも高くなっている可能性がある。無症状の感染者を把握できていないことにより、封じ込めが十分にできない可能性も考えられる。

日本について同様の方法で致死率を算出すると5.9%で、ドイツと比較しても高い致死率である。つまり、全国的に感染が拡大した状況の中で、相当数の無症状の感染者が存在すると考えられる。緊急事態宣言下における8割の接触削減は無症状の感染者による感染拡大を防止するためにも非常に重要である。

※1:Mizumoto K, Chowell G.(2020) Estimating Risk for Death from 2019 Novel Coronavirus Disease, China, January-February 2020 Emerg Infect Dis

※2:JHU CSSE「2019 Novel Coronavirus COVID-19 (2019-nCoV) Data Repository by Johns Hopkins CSSE」地域別・時点別の感染者(Confirmed)・死亡者(Deaths)データ
https://github.com/CSSEGISandData/COVID-19/tree/master/csse_covid_19_data/csse_covid_19_time_series(閲覧日:2020年4月20日)

※3:ロベルト・コッホ研究所(RKI)「COVID-19疑い例:対処とテスト基準 医師向けガイド」
https://www.rki.de/DE/Content/InfAZ/N/Neuartiges_Coronavirus/Massnahmen_Verdachtsfall_Infografik_DINA3.pdf?__blob=publicationFile(閲覧日:2020年4月20日)

※4:Government of Iceland, “Covid-19 epidemic receding in Iceland – 295 new infections in th past seven days and 363 recoveries”(April 09, 2020)
https://www.government.is/news/article/?newsid=73507dc9-7a5c-11ea-9464-005056bc4d74(閲覧日:2020年4月20日)

※5:Ministry of Health, Singapore, News Highlights “ADDITIONAL PRE-EMPTIVE MEASURES TO REDUCE RISK OF COMMUNITY TRANSMISSION”(Feb 14,2020)
https://www.moh.gov.sg/news-highlights/details/additional-pre-emptive-measures-to-reduce-risk-of-community-transmission(閲覧日:2020年4月20日)

※6:Ministry of Health, Singapore, News Highlights ”Links between Previously Announced and New Cases”(April 19, 2020)
https://www.moh.gov.sg/docs/librariesprovider5/default-document-library/annex-ae5f2460aa89c4e7b9169d392d85e380b.pdf (閲覧日:2020年4月20日)

※7:WHO “Q&A: Similarities and differences - COVID-19 and influenza”(March 17, 2020)
https://www.who.int/news-room/q-a-detail/q-a-similarities-and-differences-covid-19-and-influenza(閲覧日:2020年4月20日)
注:WHO公表の致死率は「死亡者数÷報告された症例数」として計算されている。もし「死亡者数÷全感染者数」として計算した場合、致死率の数値は3~4%より下がるだろうと言及されている。

※8:FNN「コロナ感染爆発は横浜入港の前か後か?政府は防げたのか…関係者が振り返る課題と教訓」(2020年4月19日)
https://www.fnn.jp/articles/-/32265(閲覧日:2020年4月20日)

※9:国立感染症研究所「現場からの概況:ダイアモンドプリンセス号におけるCOVID-19症例【更新】」(2020年2月26日)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9422-covid-dp-2.html(閲覧日:2020年4月20日)